うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2021-01-01から1年間の記事一覧

大村はまの本と教師

新編 教えるということ (ちくま学芸文庫) 作者:大村 はま 筑摩書房 Amazon 有名な国語教師だった大村はまの本を読んだ。 教育という仕事の厳しさ、過酷さを説く一方、もはや現代では環境や労働法の上から実践が難しいのではという提言も多々ある。 子供を教…

『弾左衛門と江戸の被差別民』浦本誉至史 ――被差別民統治の歴史

本書は近世江戸の被差別民社会を考察する。 ja.wikipedia.org *** 1 弾左衛門のはじまり 長吏は関西では「かわた」と呼ばれる皮革業等に従事した被差別民である。かれらは当時の差別語である「えた」と呼ばれることを嫌った。 後北条氏の滅亡とともに江戸に…

古いSF――ジュール・ヴェルヌ

『海底二万海里』を読み始めました。 福音館書店の本は『アーサー王』など小学校の時によく図書館で読みましたが、装丁がよいです。 海底二万海里 (福音館古典童話シリーズ) 作者:ジュール ヴェルヌ 発売日: 1972/10/20 メディア: 単行本

『トマスによる福音書』荒井献 ――教義が固定化する前のキリスト教

◆メモ ナグ・ハマディ写本の中に収蔵されるトマス福音書を解説する。福音書成立の背景は、細かい本文批評に基づくもので素人には覚えにくい。 本書の特長は、グノーシス主義の特徴を明確に示し、福音書の言葉を逐次註解していく点にある。 カトリック成立の…

トゥキディデス『歴史』がおもしろい

The History of the Peloponnesian War: Revised Edition (Penguin Classics) 作者:Thucydides 発売日: 1954/09/01 メディア: ペーパーバック アテネ側とスパルタ側が30年超にわたって戦ったペロポネソス戦争を、正確性に着眼を置いて記述したトゥキディデ…

『初めて人を殺す』井上俊夫 ――ある日本兵の回想

日中戦争従軍者によるエッセイ集。著者は大坂で詩人として活動してきたとのことである。 内務班でのリンチ、現地人に対する略奪、捕虜の殺害等、多数の回想や公文書・記録に残された事象を実際に体験した人物の回想録。 1 今、靖国神社にやってくるのは「腹…

「ザ・ウォーク」曲芸の話と昔話、古典

◆「ザ・ウォーク」 昔、労働中眠くなったときに、よくパルクール動画やエクストリームスポーツの動画を見て眠気を覚ましていました。 www.youtube.com www.youtube.com それらと関連して、Netflixで公開中の「ザ・ウォーク」を見ました。 www.youtube.com 綱…

『バトル・オブ・ブリテン』リチャード・ハウ その2 ――ドイツを撃退した防空体制

13 外国人義勇兵のうちもっとも優秀だったのはポーランド、チェコ人だった。 アメリカからは、本国が志願を阻止していたものの、多くの義勇兵が参加した。その中にはサーカスでアクロバット飛行をやっていた命知らずもいた。 カナダ、オーストラリア、南ア…

『バトル・オブ・ブリテン』リチャード・ハウ その1 ――ドイツを撃退した防空体制

◆所感 バトル・オブ・ブリテンの概要・経緯についてわかりやすく説明している本。 1部 背景 1 WW1 第1次世界大戦中、イギリスは本土にやってくるドイツのツェッペリン飛行船に対処しなければならなかった。本土防衛の責任は、陸軍か海軍かで数度入れ替…

碁盤の目のはなし

Netflixで視聴可能の『ボビー・フィッシャーを探して』は、チェスの天才を題材にした実話だが、子供に自分の夢を投影させる親の気持ちを取り上げている。 年をとっても、才能や特異な能力にあこがれる気持ちは変わらない。一方、子供は究極的には親とは別の…

最近買った本と、再々トライ中の『フランドルへの道』、六日間戦争

◆最近買った本 アイヌに関するフィクション(児童文学?)。楽天で古本セットが安かったので買った。昭和30年発行なので自分の生まれるより数十年前の本である。 コタンの口笛 第1部 上 あらしの歌 (偕成社文庫 4017) 作者:石森 延男 メディア: 単行本(ソ…

『Ivan's War』Merridale, Catherine その3 ――第二次世界大戦のソ連兵の体験談

8 1944年6月22日、バグラチオン作戦が開始された。この作戦はほぼ同時期に西側で始まっていたオーバーロード作戦(ノルマンディ上陸)と同等以上の規模だった。 ja.wikipedia.org 1943年の秋以降、赤軍の士気は低下していた。かれらの精神や肉体…

『Ivan's War』Merridale, Catherine その2 ――第二次世界大戦のソ連兵の体験談

4 8月までにソ連はウクライナ、ベラルーシ、バルト三国の大半を失い、またレニングラードは包囲された。秋にはドイツ軍、ソ連市民の多くが破滅を確信していた。 モスクワ防衛を担ったのはNKVD特殊部隊自動化歩兵旅団「OSMBON」だった。かれらは…

『Ivan's War』Merridale, Catherine その1 ――第二次世界大戦のソ連兵の体験談

◆メモ 当時、兵たちが作成した手紙や(違法とされていた)日記、秘密警察の報告文書、また元軍人からの聴き取りを頼りに、第二次世界大戦における赤軍の内部を明らかにする。 ドイツを撃破した兵隊たちは一枚岩ではなく、そこには迫害される少数民族やユダヤ…

中東の歴史の本、労働について

◆本 冷戦時代のルーマニア情報機関将官パチェパの本を読み終わった。 この本自体がかなり危険な本で、どこからどこまでが事実なのかが疑わしいものだった。 Disinformation: The Secret Strategy to Destroy the West メディア: DVD いま読んでいるのは、1…

『法哲学』平野仁彦 編 その2 ――法とは何かを考える入門

4 法と正義の基本問題 法が実現すべき正義とは何か。どのような法秩序を形成していくのが望ましいか。 (1)公共的利益 公共の利益を増進するにあたり、功利主義とその批判を並べ、問題を検討する。 功利主義の問題点……個人の人格がなおざりにされる、少数…

『法哲学』平野仁彦 編 その1 ――法とは何かを考える入門

法とは何か、法はどのようなものであるべきか、等を研究するのが法哲学である。 本書は非常に広い範囲をカバーする教科書である。 *** 1 現代の法と正義 現代社会はグローバル化が進んでおり、法もまたその影響を受ける。 法哲学とは、法の基本的なあり方に…

買い物(柔道系、昔話、口承文芸、佐藤優の旅行本)

◆落語、昔話、口承文学 この間読んだ落語の本が面白かった。文学関係のライターが、口承文芸の1つという視点から落語を解説している。 落語の落ちとは、一般的な起承転結とは異質な、物語の構成や時空を超越した語り口であるという。 落語を聴いてみたけど…

『岸信介』原彬久 ――岸についてのまとまった説明

岸の功罪について考える。 ・戦前は国家統制、国家主義を推進し、関東軍とともに満洲国経営を主導した。また太平洋戦争時、指導者の1人だった。 ・一方的な駐軍協定だった安保条約を、保護的内容に改定しようと試みた。 ・その過程で強行採決等を行ったため…

『ハッカーと画家』はおもしろかった

プログラミング言語やハッカー(優れた開発者)に関する話題だけでなく、現代の子供社会、芸術一般に関する話もおもしろい。 経済システムに関する著者の考えは、いわゆる「リバタリアン」に分類されるものである。 ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者…

生き物の勉強

生き物のしくみについて勉強したいと思い、入門的な本をいくつか買いました。 生き物をめぐる4つの「なぜ」 (集英社新書) 作者:長谷川 眞理子 発売日: 2002/11/15 メディア: 新書 動物の生存戦略 行動から探る生き物の不思議 (放送大学叢書) 作者:長谷川 眞…

『スターリン時代』クリヴィツキー その2 ――亡命・不審死したソ連情報員の暴露本

4 スターリン、ドル紙幣を偽造する スターリンの指示を受けた各国の工作員たちはドル紙幣の偽造に従事した。 5 オゲペウ(OGPU) OGPUはジェルジンスキーの設立したチェカの後身である。OGPUはスターリンの手先として粛清を実行したが、長官ヤ…

『スターリン時代』クリヴィツキー その1 ――亡命・不審死したソ連情報員の暴露本

◆メモ 著者のワルター・クリヴィツキーは西ヨーロッパのソヴィエト諜報機関長として勤務したのち亡命し、1941年に不審死した。 著者はロシア革命当時からボリシェヴィキとして働いてきたが、スターリンの所業――集団餓死、大粛清、スペイン内戦における不…

非農民、被差別民、博徒や悪党の歴史

フィリップ・ポンス『裏社会の日本史』は、歴史の端で扱われていた非農民、被差別民、芸能の民や博徒、悪党などを中心に扱った本である。 基盤となっているのは周縁民を取り扱う日本史学(網野等)や、明治以降の貧民・下層社会をえがいたジャーナリズム(横…

Raspberry Piを買う

ようやくCISSPの試験が終わり無事合格したので、いろいろやろうと考えていたことができます。 ◆Raspberry Piを買った 小型PCと小型モニターを買いました。目的は、サイバー関係のニュース・情報を集める端末をつくるためです。 LABISTS Raspberry Pi 4 4B-64…

『野中広務 差別と権力』魚住昭 ――ある政治の現実

◆メモ 著者によれば野中は弱者に対する気遣いを持った政治家だという。 しかし、政治家としての業務の上では、賄賂や買収、新聞記者への食事振る舞いによる世論統制などを行っている。 こうした汚い行為が政治の現実であり、今も昔も変わっていないという事…

バルカン半島、オスマン帝国

The Balkans: A Short History (Modern Library Chronicles) 作者:Mazower, Mark 発売日: 2002/08/06 メディア: ペーパーバック ◆バルカン半島 Mark Mazower『Tha Balkans』を読み始めた。 バルカン半島は長い間オスマン帝国の支配下にある「ヨーロッパ・ト…

亡命ソ連スパイの本に登場する日本

Viktor Suvorovは元ソ連軍参謀本部情報総局所属の軍人で、イギリスに亡命後、様々な暴露本を書いた。 どれも非常に面白く、また元自〇隊員としては共通点や違いを探し出すのも面白い。 ソ連解体後も、軍や情報機関は基本的に中身が変わらないので、現在に通…

『モンゴル帝国の興亡』杉山正明 その2 ――モンゴル帝国の入門

2 フレグの西方征服……イラン、バグダードのアッバース朝、イスマーイール派(シーア派暗殺教団) ja.wikipedia.org イスマーイール派は10世紀にエジプトでファーティマ朝を起こした。そこから分派した東方イスマーイール派は、イランのアルボルズ山脈を中…

『モンゴル帝国の興亡』杉山正明 その1 ――モンゴル帝国の入門

モンゴル帝国の成立から解体までをたどる。従来のペルシア語史料・中国語史料のみにとらわれず、世界史的な視野からモンゴルを再認識するのが特徴である。 読みやすいが、帝国成立後の内紛過程は複雑である。 モンゴルだけでなく、元朝、明朝、清朝ともに、…