うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2016-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『慈悲』中村元

古来、日本人の精神に大きな影響を及ぼしてきた「慈悲」の観念について考えることを目的とする。 *** 1 慈悲は仏教の中心的な徳であり、仏そのものともいわれる。 慈悲の重要性は現代において高まっている。それは、宗教の相対性が強く浮彫になったからであ…

『DNA』ジェームス・ワトソン アンドリュー・ベリー

本書の目的……DNAの謎を解明するまでの歴史を概説し、DNAとは何かを説明する。DNA研究と社会との関わりについても詳しく書かれている。 著者はDNA解明に寄与した科学者であり、上下分冊だが大変読みやすい。 *** 1 メンデルは遺伝子の存在を予見したが…

『社会科学のリサーチ・デザイン』キング コヘイン ヴァーバ

定性的な研究において妥当な因果的推論や記述的推論を行うためのアプローチを発展させることを目的とする本。 *** 1 社会科学の「科学性」 定量的研究と定性的研究とはどちらも、根源的な推理の論理に基づいているか、体系的か、科学的かが重要である。 科…

『幻滅』バルザック

パリの出版業界を舞台にした小説。 詩人を目指すリュシアンは片田舎アングレームからパリに上京する。 著者によれば、田舎の社会は閉鎖的で、人のうわさしか話題がなく、人びとの心性は卑しくてくだらない。しかし、リュシアンが目指したパリはこれに輪をか…

『生物兵器と化学兵器』井上尚英

化学兵器・生物兵器の歴史と代表的な種類を説明する本。 化学兵器はハーグ陸戦条約、ジュネーブ条約などで制限されてきたが、こうした施策は完全なものではなく、現代においても各戦争において使用され、またテロリストの攻撃手段としても利用されている。 *…

包帯掛

たわむ、腸の道 羊の道と、足踏みし 傷病者らと 黒くにじんだ包帯の 狭間から続く 出血を ポンプで組み上げ 流し込む かれらはやった。 では、わたしは。 わたしの仕事は 何があるか。

『フランス植民地主義の歴史』平野千果子

フランスは広大な植民地を保有していた国であり、その影響は今でも残っている。「文明化」をキーワードとして、フランスの植民地主義の歴史を分析する。 具体的な征服の行程よりも、当時の思潮や思想傾向の把握に重点を置いている。 植民地の歴史は、16世…

『ローマの歴史』モンタネッリ

本書の目的はわかりやすいローマの歴史を書くことである。 ローマ史にはギボン、モムゼン等有名なものがたくさんあるが、価格ではこの本が一番安い(1冊なので当然だが)。 *** ロムルスとレムスは都市の礎を建てるが、兄弟げんかからロムルスは兄レムスを…

『虚飾の帝国』デヴィッド・キャナダイン

本書の目的……イギリスとその帝国が間違いなく形成する「全体的な相互システム」として、両者の歴史に取り組むこと。同時に、イギリス帝国の社会のつくりを提示すること。 イギリス帝国は、「イギリスの社会構造を世界の最果てまで拡大しようとした原動力だっ…

『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』戸部良一

本書の目的:日中戦争・太平洋戦争における日本軍の作戦失敗例からその組織的欠陥や特性を析出し、組織としての日本軍の失敗にこめられたメッセージを現代的に解読すること。 *** 1 ノモンハン 作戦目的があいまい、中央と現地との連携不足、情報不足、精神…

『社会生物学の勝利』オルコック

目的……宗教的・倫理的な観点から批判されることの多かった社会生物学を解説する。 1 何だ 社会生物学はダーウィンの進化理論と動物行動学を結びつける学問分野である。この分野の創始者O.E.ウィルソンによれば「すべての社会行動の生物学的基礎の総合的な研…

認証

光の色のファイルを 開く 大きな、この世の終わりの 音をたてて、 落ちる 青い手のひらの 怪力男。 わたしは、 顔の図像をめくり 溶かして飲んだ。 ところで、溶けていった顔の 組成は あぶらっぽい星の 味がした。

『動物分類学』松浦啓一

生物多様性の概念は近年になり提唱された。生物多様性が、地球環境の維持に貢献しているというもので、頻繁に取り上げられている。しかし、その多様性の実質である種の数についてはいまだにわかっていない。少なく見積もっても1000万以上の生物が存在す…

『悪童日記』アゴタ・クリストフ

――感情を定義する言葉は非常に漠然としている。その種の言葉の使用は避け、物象や人間や自分自身の描写、つまり事実の忠実な描写だけにとどめたほうがよい。 大きな町から疎開してきた双子の兄弟の話。戦時下の暮らしを、感傷を排して書いてはいるが、所々に…

『Walden; Or, Life in the Woods』Henry David Thoreau

アメリカ合衆国の作家・思想家ソローによる代表作。 ウォールデン湖のほとりで仙人のような生活を送ろうとする人物の本。現在の経済活動の大部分に背を向けるよう主張している。 ムダな労働をしない、着飾らない、必要以上に作物をつくらない。気候に耐える…

『アヘン王国潜入記』高野秀行

1995年、著者がミャンマーのワ州に滞在した記録をまとめたもの。政治的な文章や偏見、主義主張はそこまでうるさくないので読みやすい。 1 アヘン生産地帯 東南アジアのゴールデントライアングルとは、ミャンマー、タイ、ラオスの3点で囲まれた国境地帯…

『現場刑事の掟』小川泰平

窃盗犯専門の刑事による体験談。著者は相撲部出身の屈強な人物らしく、文章もどことなく頭が悪そうだが人格の良さは伝わってくる。 警察官は犯罪者や悪そうな人間に対して弱気でいてはいけない。体力がまず重要である。 犯人を捕まえて自首させるまでが刑事…

『大学生物学の教科書3』サダヴァ

内容:情報伝達、遺伝子工学、免疫、発生と分化 *** 12 細胞の情報伝達 細胞に影響を及ぼすさまざまなシグナルについて説明する。どのようなシグナルであっても、それに応答できる細胞には受容体タンパク質が存在する。 細胞は、外部環境からの情報を処理…

小人の文言

耳の国 しゃれこうべの国 その冬は枯れ木の下で 暖を取り 墓堀人夫の衣類を燃やし 草の上に打ち立てられた 基盤をかじる、怒りの子 自分の兄を食べては太る 児童の城 わがままの城 子供たちに顔向けできない住職の城

『大学生物学の教科書2』サダヴァ

本書は「染色体と細胞分裂、メンデル遺伝学、DNAの構造と複製、DNAをもとにタンパク質が合成される過程、遺伝子発現制御、ウイルス、細菌の遺伝学」を取り扱う。 6 染色体、細胞周期及び細胞分裂 ヘンリエッタ・ラックスから摘出されたHeLa細胞は…

『生物から見た世界』ユクスキュル クリサート

人間や動物は主体である。主体が知覚するものは知覚世界となり、主体が作用するものはすべて作用世界となる。この2つを合わせて「環世界」Umweltとなる。本書はこの環世界を紹介するものである。 *** 動物主体は知覚と作用によって客体をつかむ。 ――……動物…

『原子爆弾』山田克哉

目的……原子爆弾の原理、放射能とは何か、等について説明すること、原子爆弾の理論を歴史を追って書くこと。 原爆と原子力発電の原理はほとんど同一である。原爆を理解することは、原子力行政の理解にもつながる。 *** 原子爆弾とは正確には原子核の分裂を利…

『創造』エドワード・ウィルソン

目的……自然保護を有効に推進する社会的な勢力の形成にある。その勢力とは「愛と科学をもって、あるいは冷静かつ合理的な利害計算をもって生物多様性に対処する非宗教的な勢力と、神による創造を信じるキリスト教的な宗教世界に暮らしつつ、神に想像された自…

『神州纐纈城』国枝史郎

「しんしゅうこうけつじょう」 武田信玄の配下の1人、土屋庄三郎は、蒸発した父親を探すため富士山麓に向かう。そこには洞窟に住む教団と、人間の生き血を絞り布をつくる纐纈城とがあった。 土屋庄三郎は教団に帰依する。一方、富士三合目に潜んでいた殺人…

『ハルツームのゴードン』W・S・ブラント

チャールズ・ゴードン将軍はイギリスの軍人であり、太平天国の乱のとき、中国人傭兵からなる「常勝軍」を率いて活躍した。その後、1885年、マフディー叛乱鎮圧の際包囲されて死亡した。 ゴードンに関する本は、日本語では本書くらいしか出ていないようだ…

終わらない体操

人形の、黒い手と、白い手との 約束ごと。 糖度の高い、大きな眼球の、遠隔監視人形と、 あちらには 原住民をかたどった、槍と盾の人形、 2つのものが、歩調をあわせて 糸をはく。 真鍮色のまばゆい糸に吊るされて わたしは医学の門を閉めた。 数字1つでも…

おもしろかった本と読みたい本

1 2015年に読んで特におもしろかった本 2 2016年に優先的に読みたい本 1 つまらないもの、眠くなるもの、合わないものは大体途中で放り投げているので、読み終わった本は大体おもしろい本でした。 ◆『Embracing Defeat』John Dower 日本の敗戦か…

『蝦夷と東北戦争』鈴木拓也

奈良時代前半から光仁天皇、桓武天皇治世にかけての蝦夷との戦争を淡々と説明する本。 律令国家成立後、九州の隼人と東北の蝦夷は王朝に従わぬ分子として問題視されていた。蝦夷の反乱が始まると朝廷は彼らの「王化」のための政策を実行する。 ――「征夷」と…

2015年 映画のメモ その9

◆「フライボーイズ」 第1次大戦の戦闘機パイロットたちが主人公の映画。アメリカからやってきた義勇兵たちが、大変死亡率の高い戦闘機操縦士としてドイツ軍と戦う。 映画は大赤字だったらしいがおもしろかった。複葉機が飛行するだけで魅力がある。 フライ…

2015年 映画のメモ その8

◆「戦場でワルツを」 レバノン侵攻に参加した映画監督のフォルマンは、虐殺の日の記憶が抜け落ちていることを発見する。かれはかつての同僚と連絡を取り、戦争の記憶をたどっていく。 コンピュータ製のアニメはよく動いておもしろい。展開は散漫で、特にサス…