「しんしゅうこうけつじょう」
武田信玄の配下の1人、土屋庄三郎は、蒸発した父親を探すため富士山麓に向かう。そこには洞窟に住む教団と、人間の生き血を絞り布をつくる纐纈城とがあった。
土屋庄三郎は教団に帰依する。一方、富士三合目に潜んでいた殺人鬼の陶器師は自分の嫁を取った男に復讐しようとたくらんでいた。纐纈城の主は庄三郎の父親であり、癩病を患っていた。
それぞれ行動目的があり甲州と富士を行き来するが、彼らが完全に出会うわけではない。
印象に残った場面……
・生き血を搾り取る城の地下工場と、くじ引きによる犠牲を待つ城の虜囚たち
・人を殺したくてうずうずしている陶器師
・次々と癩病を巻き起こす纐纈城の主
・人体を解体し薬をつくる場面
話は散漫で、完結しないまま終わっている。
***
三島由紀夫の解説……
――作者には陰惨、怪奇、神秘、色彩の趣味が横溢していた。小説はまず、秘密への好奇の心をそり立てねばならぬことを知悉していた。
――そこで、小説が文学であるためには、二次的ながら、この過程を単に手段たらしめず、各細部がそれぞれ自己目的を以て充足しうるような、そういう細部で全体を充たし、再読しても、手段としての機構ではなく、自足した全体としての機構のみが露わにされるように作るべきであり、それを保障するものが文体というわけだ。