うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2019-01-01から1年間の記事一覧

『日本の軍隊―兵士たちの近代史』吉田裕 ――なぜ日本軍は国民から離れていったのか

◆所感 「天皇の軍隊」である日本軍と、社会・民衆との関わりに焦点を当てた本。 明治維新後に創設された軍は、当初、近代化の歯車として機能した。軍隊が近代社会の要素を確立させ、また近代文化を地方に普及させた。 軍隊は、社会のなかの要素として組み込…

年末になり、さらにリラックスする自宅戦闘員

◆今年、面白かった本 読んだ冊数は例年より少ないが、大部の本をよく読むことができた。ひとえに、わたしの膨大な自由時間のおかげである。 以下、順不同で本を紹介したい。 1 『King Leopold's Ghost』Adam Hochschild King Leopold's Ghost: A Story of G…

吐き気を催す/鶴の一声 ――サイコ特殊部隊員

◆軍にやさしい大統領? 戦争犯罪と規律違反(捕虜の殺害、殺害した屍体とともに写真撮影し友人に送信、民間人を無差別に狙撃)の容疑で、訴追されていた海軍SEALSの上等兵曹(Chief Petty Officer)ギャラガーがトランプ大統領の介入で懲戒処分を免れた。 ww…

ヨーロッパの敗軍 ーーフランス系ドイツ人による独ソ戦回想録『The Forgotten Soldier』

今読んでいるGuy Sajerの「The Forgotten Soldier」は、アルザス出身のフランス系ドイツ人による東部戦線の回想録である。 著者はドイツに占領されたアルザス地方のフランス人で、未成年で国防軍に徴兵され、はじめは兵站部隊に、その後志願して戦闘職種であ…

『アウシュヴィッツと<アウシュヴィッツの嘘>』ティル・バスティアン

アウシュヴィッツ否定論に対抗するための本。 事実の説明や、否定論や修正主義的言説の経緯が紹介される。 1 アウシュヴィッツ概要 ・1920年に制定されたナチ党綱領には、「ドイツ国民にユダヤ人は含めてはならない」とする規定が既に存在した。 ・19…

『Hegemony or Survival』Noam Chomsky その3 ――テロ国家、合衆国

6 ディレンマと覇権 イラク戦争を支持したヨーロッパ8ヶ国は、ただ「イエス・サー」と叫んだわけではなく、EUに加盟したいという思惑もあった。 合衆国は地球規模の覇権を保持すべきとの方針を継続してきたが、戦後、欧州やアジア地域の復興によりその影…

『Hegemony or Survival』Noam Chomsky その2 ――テロ国家、合衆国

4 危険な時代 国際テロリズムの本家たる合衆国の活動を検討する。 1962年10月キューバ危機の見直し……キューバがソ連に支援を求め、ソ連がミサイルを運搬したのは、キューバを合衆国の侵略から防衛するためだった。 合衆国はソ連のふところであるトル…

『Hegemony or Survival』Noam Chomsky その1 ――テロ国家、合衆国

◆所感 副題は、地球規模覇権へのアメリカの探求。 合衆国の歴史が暴力と独善に彩られている様を、細かい事実や報道を元に浮き彫りにしていく。 要点は、合衆国の掲げる理念――民主主義や自由、人権――といったものがまやかしにすぎず、さらに、その非道行為が…

『蚤と爆弾』吉村昭 ――731部隊と石井四郎

軍医中将石井四郎と731部隊をもとにつくられたフィクション。 京都帝大出身の曽根次郎は、陸軍で勤務する。しかし、軍医の世界は東京帝大派閥が幅を利かせており、出世は望めなかった。かれは「人を救う」という医者としての信条よりも、自分の能力を発揮…

パールハーバーの銃撃事件

日本でもニュースになったため無職の親類や知り合い等から安否確認の連絡が来た。 現場は観光地のパールハーバーに近いが南寄りの軍港内のドックである。 銃撃が発生すると全基地の軍人・職員に対してアラートメッセージが送信され近くの建物・部屋の中に入…

『法における常識』ヴィノグラドフ その2 ――法とは何かを概説する20世紀の古典

*** 5 立法 法の源(Sources):立法、裁判官のつくる法(慣習法、判決、衡平(Equity)) または自然法を源とする学者もいる。 法律の文理解釈は、裁判所に永久に課せられた仕事である。 裁判所は専門的な事柄に対しても技術的解釈を行わなければならない…

『法における常識』ヴィノグラドフ その1 ――法とは何かを概説する20世紀の古典

オックスフォード大教授、1919年初版の、法律入門書。 著者のヴィノグラドフはロシア人だが、帝政ロシアにおいて当局と衝突を繰り返したため、主にイギリスで活動した(最終的に帰化した)。 法律とは何かが簡潔にまとめられている。 調べたところAmazon…

『寺院消滅』鵜飼秀徳 ――衰退していく寺院、世俗化された坊主

全国には7万7000の寺院があり、うち無住寺院は2万、不活動寺院は2000以上である。寺院消滅の問題は、地方の消滅(高齢化、過疎化、人口流出)とつながっている。 本書は、社会構造の変化と寺院との関係に焦点をあてる。 1 ・長崎県五島列島宇久島…

『フランス革命 歴史における劇薬』遅塚忠躬 ――革命の光と闇

フランス革命が、フランスの歴史、フランス国民にとって劇薬であったことを伝えるという趣旨の本。 著者は、革命が人間の偉大(理想)と悲惨(現実の殺戮、恐怖政治、戦争)を体現していると考える。 岩波ジュニア新書ということで、子供向けにわかりやすく…

最近の買い物 ――日本史、マリオネット、

◆関東大震災 九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響 作者: 加藤直樹 出版社/メーカー: ころから 発売日: 2014/03/11 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (48件) を見る 『証言集 関東大震災の直後』が良い本だったので…

『英雄なき島』久山忍 ――硫黄島の戦いと名将の実態

海軍航空隊の要員として硫黄島の戦いに参加した大曲覚(おおまがり・さとる)海軍中尉の回想録。 ◆所感 所在航空部隊である海軍の、さらに下級士官からの視点ということで、末端の雰囲気や状況がよく伝わってくる。 防空壕での日本兵たちの生活は、完全に別…

『チェチェン やめられない戦争』アンナ・ポリトコフスカヤ その2 ――無法者と劣悪軍隊の違い

2 ロシアの現実 ・イングーシ共和国のアウシェフ大統領は、チェチェン難民の受け入れを表明した唯一の隣国だが、連邦政府からにらまれ、強制的に辞任させられた。 後任者は、FSB(連邦保安庁、KGBの後継機関)将官ジャジコフだった。イングーシはただ…

『チェチェン やめられない戦争』アンナ・ポリトコフスカヤ その1 ――無法者と劣悪軍隊の違い

◆メモ 1999年から始まった第2次チェチェン紛争により市民は無政府状態の下に晒された。 本書では「対テロ作戦」、「掃討作戦」によって日々迫害される人びとに注目する。戦争を概説するのではなく、末端の市民と末端の悪党たちの様子を細かく伝えようと…

国家・政治・行政の腐敗とどう戦うか

◆はじめに どうすれば腐敗と戦うことができるのかをGoogleで調べた。 わたしの読んできた歴史の本は、ほとんどが外国政府や権威主義体制・独裁体制に対するテロ活動で、腐敗との戦いにおいて直接参考にはならなかったからである。 The Revolt: Story o…

『By Trust Betrayed』Gallagher その3 ――ナチス・ドイツの安楽死作戦

8 T4作戦と弁護士(The Lawyers) ドイツ人には、社会が安定していた、治安がよかったとしてナチス時代をなつかしむ者もいる。 合衆国の法には権利章典(Bill of Rights)があるが、ドイツの法に個人の自由という概念はなかった。 ナチ政権の代表的な非人…

『By Trust Betrayed』Gallagher その2 ――ナチス・ドイツの安楽死作戦

3 T4作戦の始動 安楽死施設は次のような場所に設置された。 ・グラフェネクGrafeneck(ウルムUrm南西) ・ブランデンブルクBrandenburgの古い監獄(ベルリン南西) ・ハルトハイムHartheim(リンツLinz北西) ・ベルンベルクBernberg(中央ドイツ) ・ハ…

『By Trust Betrayed』Gallagher その1 ――ナチス・ドイツの安楽死作戦

ナチス・ドイツにおける障害者の安楽死(Euthanasia)・大量殺人(Mass Killing)――T4作戦(Aktion T-4)――を検討する本。 著者自身もポリオによって身体障害者となり、同じ境遇だったフランクリン・ルーズヴェルトを研究対象にしている。 ◆所感 ヒトラーは進…

『水俣病』原田正純 ――水俣病の発生から行政・チッソとの交渉、認定まで

水俣病の調査に取り組んだ医学者による本。水俣病発生の経緯から、行政、チッソとの交渉、公害認定と補償にいたるまでをたどる。 ◆所感 チッソ、役所、御用学者、患者を差別する隣人等、人間の悲惨な光景が集約されたような事例である。 東大がチッソを擁護…

国防総省では反逆者、亡命者扱いのスノーデン氏

Permanent Record (English Edition) 作者: Edward Snowden 出版社/メーカー: Macmillan 発売日: 2019/09/17 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る エドワード・スノーデンの自伝「Permanent Record」は、本人の生い立ちや亡命の経緯が書かれてお…

『ゲシュタポ・狂気の歴史』ジャック・ドラリュ その2 ――フランス人レジスタンスによる概説

4 侵略開始 ヒトラー、ヒムラーは軍をコントロールするため、ゲシュタポのミュラーらに工作活動をさせた。 国防相ブロンベルクは売春婦と再婚した疑いにより失脚させられ、陸軍総司令官フリッチュは同性愛の冤罪をかけられ失脚した。フリッチュの後任は新ナ…

『ゲシュタポ・狂気の歴史』ジャック・ドラリュ その1  ――フランス人レジスタンスによる概説

著者はフランスのレジスタンスであり、厳しい調子で秘密警察の概要を説明する。 ――このとき私は、かれらがまさに、愚昧であると知性あるとを問わず、いずれも個性を欠き、内的な道徳的抑制をもたず、命令に服するや否や、善悪を判断する力ももたない人間であ…

王土をたがやす

鋤をふる、鍬をふる、 土の波をつくり 種をまく わたしたちは、その手足の1つ 1つが、土の力となり 土の成長を点検し 散らかった砂に 荘園をつくる。 何が? というのは、何が 散らかっているかというと それは、 肉、骨、内的器官 すべては動体から 分離…

『諜報・工作』ラインハルト・ゲーレン その2 ――軍事情報業務について

2 パートナーシップ ドイツ敗戦時、かれらは資料を山中に埋めて身を潜め、機を見て米軍に投降した。 米軍と協議したゲーレンらは、ヨーロッパ駐留アメリカ軍総司令部参謀部軍事情報部USFET G2との協定を結ぶ。 内容: 現存勢力を利用し、ドイツ情報機関を設…

『諜報・工作』ラインハルト・ゲーレン その1 ――軍事情報業務について

◆所見 ドイツ陸軍、のちゲーレン機関、BND(ドイツ連邦情報局)で情報機関の親玉として働いた軍人ラインハルト・ゲーレンの回顧録。 独ソ戦時の、参謀本部における勤務要領や、情報組織の整備、経験談など、興味深い話が多い。 ベルリンは東西冷戦におけ…

『不死身のKGB』ゲヴォルキャン その3 ――秘密警察に支配された国

7 西側へ寝返ったスパイたち 亡命したクジーチキンの手紙。 ――イランにおけるソ連植民地のリーダーや党幹部らが、恥知らずにも私腹を肥やすことに血道を上げる信じがたい光景、ツデー党との汚いやりとり、アフガニスタンでの罪のない人びとの死、それにたと…