うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2015-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『ニュートリノ天体物理学入門』小柴昌俊

科学者の半生、素粒子論、宇宙論、ニュートリノ天体物理学の誕生と発展(カミオカンデとスーパーカミオカンデ)、今後の動向などについて。 小柴氏は次のように書く。 ――学校の成績がよくなくても、何かをやろうと本気になってやれば、ある程度までいけるこ…

『近代医学の建設者』メチニコフ

近代医学、とくに伝染病とのたたかいに貢献した3人の医学者、パスツール、リスター、コッホの伝記。 はじめに、1850年代の医学の状況が説明される。クリミア戦争においては、特に、戦死よりも病死が多かった。このときの伝染病と傷口腐敗のようすは陰惨…

冬の日

山の根を抜けて、 石を登り 高台にやってきた。 規則的な 石膏の頭部の上には、それはそれは、 粉末的な 天気があった。 不意に、背後から、 銀のじょうろを手に持って、 顔、顔に水をやる 児童の姿が浮かび上がる。 かれらの影は 鷲やコンドルのように、骨…

『マックスウェルの悪魔』都筑卓司

マクスウェルの悪魔とは物理法則に逆らったうごきをうながす存在である。 この本では、物質の法則の、かんたんな説明からはじまって、熱力学の法則を解説し、また自然界のみならず、人間社会をも規定しているエントロピーについて解説する。数式や計算は省略…

『狼の太陽』マンディアルグ

非現実的で、具体的な言葉の本。問題ある人間がつぶやく形式が多い。物語は伝聞や、時間の転々とするつくりなので、内容を把握しにくいものもある。 「小さな戦士」は、小人の女戦士をつかまえるが逃げられてしまうというみじかい物語。 「赤いパン」では、…

『毒ガス開発の父ハーバー』宮田親平

フリッツ・ハーバーは空中窒素固定法及び毒ガスの発明者として名高い。彼は日本とも親交があり、来日の際には大きな話題となった。 ビスマルクによるドイツ統一後、ユダヤ人に課せられた制限が徐々に撤廃されていき、ユダヤ系の資本家、実業家が台頭した。 …

『銀河の世界』ハッブル

この本は銀河の世界について説明する。「はじめに」によれば、銀河の世界は宇宙の一部であり、現在の望遠鏡によって探求できる場所であり、そこでは銀河がうすく分布している。 ――銀河の領域への探求は、巨大な望遠鏡によって達成されたものである。それは、…

『続・入沢康夫詩集』

全体をとおして非現実の印象をうける。 わが出雲……古い文体のことばと、島根県をおもわせる風景と、非現実的な印象がならべられる。ページの構成が、20世紀はじめの実験を連想させた。 形式は部位によってばらばらで、出雲ということばでかろうじてひとつ…

『中世ヨーロッパの城の生活』ジョゼフ・ギース

「城づくりはどのようにはじまったのか、城の歴史的役割とは何か、城が最盛期を迎えた13世紀に城の中ではどのような暮らしが営まれていたのか――これが本書のテーマである」。 ――城主の一家は、大広間の上座、すなわち出入り口とは正反対の、奥まったところ…

『無門関』

中国宋代の禅僧無門慧開による公案集。 形式としては、禅僧たちの問答を紹介したあとに、慧開がその問答にけちをつけるというものである。禅僧たちの問答も意味不明だが、それに対する慧開の批判も難しい。 パタン……□□は何か? に対し、こうだ、と答える。そ…

『The Wonderful Adventures of Nils』Selma Lagerlof

『ニルスのふしぎな旅』の原作の翻訳版。 未熟でひねくれた少年ニルスが、家の小人にいたずらしたために、自分も小人にすがたを変えられてしまう。ニルスは家畜に助けを乞うが、逆に襲われる。動物たちは、ニルスによっていじめられ、いたずらされたことを覚…

『虎よ、虎よ!』ベスター

主人公に勢いのあるSF小説。ジョウントという瞬間移動を身につけた人類たちの未来世界が舞台である。 ガリヴァー・フォイルは宇宙船で遭難し、救難信号を射出する。しかし、通りかかった宇宙船ヴォーガは信号を無視し、フォイルを見捨てる。ここで、フォイル…

『生誕の災厄』シオラン

ルーマニア人の随筆家。暗い雰囲気の断章が続く。 作者は、生まれてきたことが不幸なことだとくりかえし書く。かれの脳みそでは、不幸と呪いはわけられている。 ――不幸は受け身の、忍従の状態だが、呪いは逆方向ながらある選抜がおこなわれたことをしめし、…

『パリ日記』エルンスト・ユンガー

1941年から1944年まで、ユンガーはパリ占領軍司令部において勤務した。日記はその間書かれたもので、演習時や、コーカサス展開時をのぞいて、ほぼ毎日書き続けられた。 日記の話題……パリの、育ちのよさそうな人びととの交流、ドイツ将校との話、爆撃…

『ラテン語のはなし』逸身喜一郎

「ラテン語を語ることは、おのずとヨーロッパを語ることになる」。 ラテン語は古代ローマの言語であり、ヨーロッパ文化に多大な貢献をなした。いわく、ラテン語最大の遺産は、「こみいった複雑な内容を、論理構成のしっかりした、あいまいさの少ない文章で書…

道具の日

きょう、残ったものは これからも、そのようであるもの わたしの顔が 灰色になってからも、 熱波と雨の下をくぐって、電気的な 蚕のように、しぶとく 糸を保持するもの。 わたしが、きょう、その後の日に 残していくもの。 道具の手ざわりを阻む 刃物をちら…

『世界終末戦争』リョサ

ブラジルで発生した農民の反乱を題材にした話。 ブラジル北部にバイア州があり、かつては帝国の中心だったが、経済産業の変化によってさびれてしまった。バイアの奥地セルタンウで飢饉がおこり、これにともなって、信仰と、打倒共和国を主張する聖人、コンセ…

『プルードン・セレクション』

フランスの無政府主義者の著作を抜粋したもの。 アナーキズムということでテロや暗殺のイメージが強かったが、本書によればプルードンは当時社会的にも認められており、貧乏だったが何度か代議士にもなったという。 無政府主義の内容については、わかりやす…

『世界の潜水艦』坂本明

潜水艦の構造、各国の運用制度、歴史等を概説する本。 潜水艦の誕生は米独立戦争における1人乗りのタートル号とされ、その後改良発展していった。 潜水艦乗組員、潜水艦長は海軍の中でもエリートであり、様々な技術を習得し、精神力を鍛えなければならない…

『ハイラスとフィロナスの三つの対話』バークリ

1713年に出版された本。 バークリは経験論者の立場から、「知覚の原因物質が外界に存在することを否定し」、非物質主義哲学を提示し、懐疑主義者その他に反論する。 自分の論文をわかりやすく説明するため、学生ハイラスと学者フィロナスの会話をとおし…

『世論』リップマン (2)

民主主義のシステムにおいて、こうした現実把握の形式はどのような障害となるのか考えていく。後半は、民主主義が成立するまでの試行錯誤と、民主主義にとって世論形成がどのような役割を果たすかに、とくに分量が割かれている。 われわれは、自分の経験しな…

『世論』リップマン (1)

◆所見 民主主義と報道、情報を考える上でとても参考になった本。 民主主義は様々な政策決定に国民が関わる。正しい判断をするためには正確な情報が必要である。しかし国民が自分の生活圏を超えた事項についてそうした情報を得るのは困難である。このため、わ…

『ネルヴァル全集5』

1800年代のはじめに生まれたフランス詩人・劇作家で、デュマと仲がよかった。社会的にもまっとうな地位をもち、不遇だったわけではないらしいが、発狂して首をつって死んだと書いてある。 「ローレライ」はドイツ旅行の記録、「十月の夜」はフランスの地…

『闇の子午線パウル・ツェラン』生野幸吉

パウル・ツェランの詩についての評論だが、読むまでツェランの詩集だとおもっていた。この作者の詩は1つ1つ強く印象に残るが、著者の難しい解説は理解しきれなかった。 この作者はドイツ生まれで、強制収容所に入れられ、戦後、創作活動を行ったという。ホ…

トフェテは現れる

きょうは、 卜占の日。 脳断面を切り札のように テーブルに乗せて、 かれら地球の友達を見守る日。 温かい、 人身御供の光の日。 その人は黒い帽子をかぶっている。 岩の下には、 かれらを格納する無数の幕舎が 並ぶ。1つ、1つの 部位を横たえる、兵隊たち…

『アメリカ海兵隊』野中郁次郎

海兵隊の成り立ちから、変遷、組織としての特徴までを解説する本。太平洋戦争の戦史部分が多すぎて、どこかから抜き書きしてきたかのようだ。 海兵隊はアメリカ独立戦争時に創設された。イギリス海軍にならって、特に理念もなくつくられたため、当初は、海軍…

『利己的な遺伝子 <増補新装版>』ドーキンス

遺伝子と進化の関係を、いろいろな例をあげて説明する本。ドーキンスは、生物の利己主義と利他主義について研究し、進化論の重要性を説明する。 著者はまず、利己主義と利他主義を定義する。「ある実在(たとえば1頭のヒヒ)が自分を犠牲にして別の同様な実…

『大学生物学の教科書 1』サダヴァ

1巻は、細胞生物学について説明する。 細胞の構造と機能、原核生物(古細菌と真性細菌)の特徴、真核細胞(動物、植物、真菌類、原生生物の細胞)の特徴、その内部の、多様な小器官について、また、生体膜の構造と機能、生命活動に関連する生化学反応、その…

『スワン家のほうへ』プルースト

有名な作品だがまだ続きが読めずに停止している。 ――……将来書くべき主題を探し求めようとすると才能がないと感じられ、頭の中に真っ暗な穴が穿たれるようになるのも、もしかしたら実体のない幻影にすぎず……。 ――すると、このような文学的関心から離れ、それ…

『神聖喜劇』大西巨人

日本軍での営内生活を題材にした戦争文学。大西巨人は独特の硬い文体と古典の引用が特徴であり、他にも『精神の氷点』や短編集等おもしろい本がある。 主人公東堂太郎は補充兵として招集され新隊員教育を受ける。入隊から卒業までのまわりの人間とのやりとり…