1800年代のはじめに生まれたフランス詩人・劇作家で、デュマと仲がよかった。社会的にもまっとうな地位をもち、不遇だったわけではないらしいが、発狂して首をつって死んだと書いてある。
「ローレライ」はドイツ旅行の記録、「十月の夜」はフランスの地方へ行った記録、「ボヘミアの小さな城」は、3つの話と、詩をあわせたもの、「火の娘たち」はいくつかの、むかし話や冒険の要素をふくむもの、さいごに「幻想詩篇」が入っている。
旅行記の文には、もの、自然のものや、人工のもの、工業製品、町の風景が細かく説明されている
「十月の夜」や、「火の娘たち」のなかのフィクションには、作者が手紙のやりとりをする、または、各地を調査する過程で、問題の話が復元されていく、という構成をもつものがある。
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「神秘主義」という詩の連作のなかで印象にのこったことば……
――つづいて、隕石で縁取られた煉瓦の城、
赤みをおびた色合いのステンドグラスの窓があり、
広い庭園にかこまれて、城の足元をひたしつつ
花のあいだを小川が流れる
――絹の舞扇のように
銀をちばめた
マントをひろげ
玉虫色のドレスは
緑の彩なす金色に
かがやいている。
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「エミリー」という話……偶然が重なって、主人公の軍人は配偶者の父親を戦場で殺してしまう。配偶者の兄も殺され、主人公は特攻して死に、配偶者は僧院に入る。偶然がつみかさなって、陰惨な結果になるという物語である。
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――私は暗き者、――妻なき者、慰めなき者、
廃絶された塔にいるアキタニアの領主、
私の唯一の星は死に、――星ちりばめた私のリュートは
<メランコリア>の<黒い太陽>をおびている。
――私を慰めてくれたおまえよ、墓の夜の闇の中の、
私に返してくれ、ポシリポ岬とイタリアの海を……
――神クネフは身震いをして、宇宙を揺るがせていた。
母なるイシスは、その時しとねの上に身を起こし、
粗暴な夫に対し、憎悪にみちた態度を示し、
するとかつての熱情が、彼女の緑の眼に輝いた。
――彼らは3度、私を地獄の河(コキュトス)の流れに浸けた、
そして、私は唯ひとり、母アマレクタを守りつつ、
その足元に、年経た竜の歯を再び蒔く。
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神話やむかしの物語を材料にした詩には、図像が印象に残るもの、ことばの選択がおもしろいものがある。