うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2016-01-01から1年間の記事一覧

2016年の本と映画

今年読んでおもしろかった本と映画について。 ◆本 『Diplomacy』Kissinger 国際政治における理想主義と現実主義の変遷をたどる。著者はニクソン時代の大統領補佐官であり、特に本人の関わる時代(ベトナム戦争等)については、視点の1つであることに注意す…

『Ordinary Men』Christopher R Browning その3

14 ポーランド・ルブリン地区のゲットーが解体され、ユダヤ人の大半がトレブリンカに移送されてからは、森や集落にひそむ「ユダヤ人狩り」が大隊の業務となった。かれらは再びユダヤ人個人と対面しての殺人行為をしなければならなかった。 15 1943年…

『Ordinary Men』Christopher R Browning その2

6 ◆ラインハルト作戦 1941年、ヒムラーはロシア・ユダヤ人と同様、ヨーロッパのユダヤ人も絶滅させるよう指示した。射殺は現場隊員の精神的負担が大きいため、新しい方法として絶滅収容所が考案された。 オディロ・グロボクニクはオーストリア出身の親…

『Ordinary Men』Christopher R Browning その1

ポーランドでユダヤ人殺害を実行した第101警察予備大隊について書かれた本。 当該大隊については、他の移動殺人部隊と異なり、所属隊員のリスト、証言、詳細な裁判記録が残されていた。 調査の過程で、「ホロコーストは多くの人間が多くの人間を殺害する…

『ルポ 貧困大国アメリカ』堤未果

米国の貧困状況や社会問題を紹介する本(2008年)。 見習うべきでない政策・事例が多数ある。 サブプライムローンは、低所得者層に高利率で住宅ローンを貸し付けるビジネスである。当時、このローンを十分な知識がないまま契約させられ、破綻する移民や…

「メランコリア」

制作:2011年 監督:ラース・フォン・トリアー 地球への惑星衝突をテーマにした映画。 精神疾患のある花嫁が、自分の結婚式をぶち壊し夫と破局する劇が第1部、地球の滅亡を受け入れる人びとの様子が第2部。 第1部の悲劇の結婚式は非常におもしろい。…

雨が降って 足場が茶色い泥水で満たされた、 それから 三角の幕舎の下に 身体の右半身を、 水中に沈める。 それから? 日が昇り、すべての土が水を吸って 粘土になる。 頭の横から、草の大砲が あらわれ、露がぽたぽたと落ちた。 最後に、虻たちがやってきて…

『「仮想通貨」の衝撃』カストロノヴァ その2

4 貨幣とは物につけられるラベルである。貨幣の機能は、交換の媒介、価値の尺度、価値の貯蔵である。価値は人びとの主観的な判断によって生まれる。 著者は、従来の貨幣の3つの機能に加えて、オンラインゲームにおける仮想通貨の隆盛を踏まえ、「喜びを提…

『「仮想通貨」の衝撃』カストロノヴァ その1

原題は「Wildcat currency」で、19世紀のアメリカにおける、民間の貨幣発行銀行を意味する。銀行は、ヤマネコしか住んでいないような僻地に設置され、金を担保に貨幣を製造し、容易に換金されないようにし流通を図った。 *** 貨幣の問題とは、「取引をする…

『旧約聖書の謎』長谷川修一

旧約聖書の記載内容を考古学の方法によって追求する本。各エピソードを取り上げ、考証を行い、エピソードに含まれるメッセージを考える。 *** ノアの方舟……メソポタミア(アッシリア、バビロニア等)に普及していた洪水伝説の変形バージョンと考えられる。 …

『自壊する帝国』佐藤優

10年程前に『国家の罠』、『獄中記』等を読んで以来、久々にこの著者の本を読んだ。 著者は極端なロシア政府寄りというわけではないだろうが、暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤやリトビネンコに対しては冷めた見方をしている。 どちらの書いた本も読ん…

「ミッシング」

制作:1982年 監督:コスタ=ガヴラス ピノチェトのクーデタによって殺戮される人びとと、それを支援する合衆国が背景にある。 チリで行方不明になった一人息子を探す父親の映画。息子は、チリのクーデタの背後に合衆国が関与していることをかぎつけてい…

バイソンの親子の 腹部にかみついて 脂をすする魚を どうやって釣り上げようか ここには 山から下りてきた 生きたマスと、 イヌサフランの、食べかけがある 首が、となりの山まで延びた 両手の指が焦げるまで 収獲を待っている。

『アフガン侵攻1979-89』ブレースウェート その2

戦闘…… ムジャヒディンは地元と密着しており、各監視所や部隊は、地元民と協力しなければやっていけなかった。 マスードは大学を出て働いた後、イスラーム主義運動に参加し、ムジャヒディンの一角となった。共産主義政権と同じく、ムジャヒディンも一枚岩で…

『アフガン侵攻1979-89』ブレースウェート その1

著者はロシア経験の長いイギリスの外交官で、独ソ戦についても本を書いている。 1978年、アフガニスタンにおいて、クーデタにより共産主義政権が成立すると、タラキはスターリンと同じ手段で政権を安定させようと試みた。このため、翌年、ヘラートにて大…

『憲兵』大谷敬二郎

満州事変前夜から終戦までの間、憲兵として勤務した人物の本。 憲兵としての初度配置が関東軍であり、石原莞爾らが謀略によって事変を起こす場面に立ち会うことになった。 軍を含む国家全体が、感情的、短絡的な傾向を強めていく様子を冷静に記述していく。 …

『個人と国家』樋口陽一

人権主体としての個人と、主権の担い手としての国家とを考える本。 個人の自由に対する保障をより強化していこうという考えが貫かれている。 個別の事例にあれこれコメントする形式をとっており、漫談に近い。しかし、憲法とは何か、立憲主義とは何か、国家…

鉱山歌

(マフェキング(Mafeking)において、イエローケーキの塊を飲み込むベーデン=パウエル大佐を見て) 細密画の指からたどる林檎の実をなめて気道のウランを溶かす 岩の中で赤い子黒い子頭をおさえ文様を彫る火の国のため 不整合の真鍮製の人形さえ落ち葉をた…

「オールド・ボーイ」

制作:2003年 監督:パク・チャヌク ネタバレ注意 日本の漫画が原作ということで、各所にデフォルメされた人物、設定が登場する。 内容は、個人的な恨みや思い入れからくる復讐劇であり、登場人物たちにとっては一大事だろうが、わたしはそこまで入って…

『ダーウィンの危険な思想』デネット その4

16 道徳と進化の関わりについて考える。 道徳の起源を論じた学者として、ホッブズ、ニーチェに言及する。 ニーチェはダーウィンの影響を受けているが、同時代の社会ダーウィニズムについては厳しく批判した。 ニーチェは、道徳が成立することによって、そ…

『ダーウィンの危険な思想』デネット その3

10 ダーウィン主義に対して大きな影響を及ぼした、批判者の1人であるグールドについて。 スティーヴン・グールドは、進化論を普及させる上では素晴らしい業績を残した。しかし、彼の説は進化論に「スカイフック」(何者かが進化を今あるように導いたとす…

『ダーウィンの危険な思想』デネット その2

6 現在の生命の形は、DNA配列により可能な無数の形の中のごく一部に過ぎない。それらは、盲目的で無作為な過程によってつくられた生物学的秩序である。 種は非行為者であり、自然淘汰が様々な問題を解決していく。デザインは知性を必要とするが、それは…

『ダーウィンの危険な思想』デネット その1

ダーウィンの持つ重要性をわかりやすく説明するための本。 具体的には、ダーウィン革命が既存の世界観をどのように変えてしまうのか、ダーウィン思想が、その反論に対し、いかに耐えてきたか、ダーウィン思想がヒトにも適用されうることを説明する。 *** 1…

居留地において

沼から足をだした わたしは、底に固まった泥が 無音でふくらみ、表皮まで せまるのを見た 反復する魚たちの、腹をこすり 水の藁と塵を舞い上げる動きに 目をこらす 無数の手がフィールドをかきまわし かれらは探す この国の殻、抜け殻は、 口からマンガンを…

「グランド・ブタペスト・ホテル」

制作:2014年 監督:ウェス・アンダーソン 架空の国にあるホテルのコンシェルジュが主人公の映画。こっけいで非現実的な登場人物が登場し、殺された老女の遺産をめぐって事件が進む。 人物たちのやりとりや動きに、笑える箇所がある。 平面図を意識した…

夢の旗

朝の煙を丸めたもの 黒色火薬のにおいのする 雨を口にふくんだ 生ぬるいこぶしの石 いたるところから 土器たちの戦列が 運動をくりかえす 登場人物たちの 眼のソケットは、1カ所ずつ 除染され ようやく、光において 何も見えなくなる

『憲兵物語』森本賢吉 その2

*** 「注意すべき中国人の慣習」……面子を重んじ、言動に注意し、敵意を持たれないようにすること。大家族主義を認識すること。中国人は収入に応じた生活をする。 *** 北支軍の憲兵の悪評について、小磯国昭陸軍大将に尋ねられた著者は回答する。 ――……憲兵令…

『憲兵物語』森本賢吉 その1

徴集兵出身の憲兵による話。 著者は成績優秀によって憲兵となり朝鮮、中国を中心に活動した。 憲兵の仕事だけでなく、当時の中国戦線の様子も詳しく書かれている。特に、占領地域や、後方地域でのスパイやゲリラとの関わりについて参考になる。 *** かれは広…

『靖国参拝の何が問題か』内田雅敏

なぜ靖国神社参拝に対して諸外国が内政干渉を行うのかを、神社の起源等から明らかにする本。 自民党、特に安倍晋三への非難の調子が強烈であるため、同じ意見の読者が安心することはできても、違う考えの読者を説得させることはできないのではないか。 わた…

『スターリンの対日情報工作』三宅正樹

クリヴィツキー、ゾルゲ、日本人スパイ「エコノミスト」等の事例を参考に、昭和前半期における日本政府の内部情報のほぼすべてが、スターリンに伝達されていた事実を明らかにする本。 1 クリヴィツキー クリヴィツキーはスターリンの工作員だったが亡命し、…