2014-01-01から1年間の記事一覧
船乗りの手で育てられた娘アッソーリは、町で仲間外れにされていた。森の中で出会ったエグリから、将来、赤い帆に乗った王子が迎えに来ると予言される。 富豪の家に生まれたグレイは、家を継ぐことに満足できず、船乗の修行をして自前の舟を用意し、深紅の帆…
ハイゼンベルクの19歳から60歳までの自叙伝。湯川秀樹によれば、かれは知力だけでなく体力もあったという。「知的冒険のためにもまた、精神と肉体の両面にわたる耐久力が必要である。それと気力とが互いに支えあうわけである」。 1 第1次大戦直後の混…
となりの男、黒いすすでできた、大きな眼球の 尋問官の、肩や、腕から立ち上る蒸気を 確認する。 わたしは確認した。 地下牢はとても暑く、高濃度の 音素のたばが繰り返し、床を走る ねずみたちをつつく。 それで。 やさしいことのつぐないをしながら、 あわ…
謎のドイツ文学者と、シウダフアレス市で発生している連続女性殺人事件を題材にとった小説。 *** (1)アルチンボルディという架空のドイツ人作家を愛好する4人の学者(女含む)について。架空の作家を追求するところまでは興味がわいたが、4人の恋愛関係…
――慈悲深く、慈愛遍きアッラーの御名において。讃えあれアッラー、万世の主にして、人びとに良き教えをもたらし、彼らを善導し、警告を与え、アッラーの元にそのみ許を得て誘う、煌々たる灯のような聖預言者ムハンマドを遣わされた御方。 本書はイスラーム法…
今年はほとんどレンタルで映画を観た。あまり人気のない映画、非英米系の映画は店に置いていないので、なかなか観る機会がない。 シュヴァンクマイエルの粘土アニメとホドロフスキーはDVDボックスを買ったが、現場系作業員の身分としてはいつもそんな余裕が…
副題:満洲と戦時帝国主義の文化 満洲を軸として、日本帝国主義を社会と制度から分析する。制度は個人を帝国主義に参加させるための媒体であり、また社会は国家政策に影響を与えるものである。 1 総動員帝国をつくる 日本の満洲政策は軍事的征服、経済開発…
測定しにくいもの。 木々のあいだから、沁みこむように 現れる、明日の子供のように、 計りがたいもの。 自然光にあわせて運ばれる、 山と、山の皮フに埋もれてしまった 管理者たちの、声の波、 険しい崖を伝う暗号的な、かれら 技師たちの、号令を聞き分け…
マチウという男は、人の気配のしない夜の街にたどりつく。服の下に黒い皮膚を隠した不気味な女主人と少年に迎えられて、意味不明な会話を行う。 その後、外に出ると自分の若いころに瓜二つの青年に会う。かれはアンデルス(他人)という名前を持っていた。 …
著者によれば刑事と呼ばれるべきは刑事課の人間だけである。刑事課はその担当地域について犯罪者を検挙するという発生責任を負い、また人の死が犯罪によるものかそうでないかを判断する。 変死体が自殺なのか他殺なのかを判断できるのは刑事課の人間だけであ…
今日は筋肉の運動を行った。それ以外の、日中のほとんどの時間は椅子に座って指の運動にはげんだ。筋肉の運動は自分の生命力に資するが、指の運動はそうはならない。 破裂しそうな、運動不足の職員がいて、常に顔面をふくらませて気分を害しているようだ。と…
炭鉱夫の生活、炭鉱業界の経緯をたどる本。 ――炭鉱夫が生き抜くのは、ひとえに運と勘である。 1989年夕張新鉱においてガスの突出と火災が発生し93名が死亡した。火災が発生した時点で50名の安否未確認者が坑内に残っていたが石炭を保護するために注…
赤軍の近代化と革新について説明する本。年代としては1928年から1933年にかけてが該当する。 *** 1 導入:赤軍改革 これまでの定説や先行研究を批判しつつ、新出の要素を述べる。 赤軍は1918年、レフ・トロツキーによって創設された。以来、ス…
城跡研究者のためのガイドであるため、はじめに調査のための持ち物が示される。地図、カメラ、セクションペーパー、方位磁石、三角スケール、メジャー、年表、手鏡、竹べら、手箒、名刺、論文等の抜粋、その他服装。 城の基本的な構造がわかる。 1 建築(作…
わたしは袋詰めされた 多数の顔を見る。 各個の差を埋めるように、それはもう 粘土とパテで、ていねいにみぞを 補修するように、僧房の床に整とんされた 顔、顔は。 顔の連関は、眼球のソケット、鼻、口、その他の 装置のすべてが泥でふさがれており 袋の中…
同じ係の人が、腹が痛いのと下痢が止まらないのとですぐに帰った。 これは面妖な、と思う筋肉の保有者がいる。贅肉のように柔らかいが、筋線維が収縮したときの圧力が強く、すぐにやられる。このような筋肉の人間と組み合った場合ほぼ9割負けた。 一方、自…
正しく、電気の柱にたかる鳥の、 複数の鳥と、それにぶらさがる無線技士たちが、 夕焼けを浴びて影絵に変わるときのこと。 大きな背中の男、かれの、筋骨たくましい、大小さまざまの 筋線維が立体的に絡まった、馬のような背筋に、 足場を組んで、ケーブルを…
四角い区画に書かれた文字を確認して、眼球と図像が触れ合うくらい近づいて確認したあと、白い四角を黄色い四角に変質させる作業に取り組んだ。 その後、バスに乗った。 バスには操縦手のほか、留置場に長く住んでいたキリスト教徒にそっくりの男が左前方に…
動物機械と昆虫機械とのあいだには、 だれがいる。 柔らかい、指の関節で押すと弾力を得るような 外皮に覆われて、それで その中にはだれがいる。 濃度が薄く、さむい。その晩、わたしは 戸を開けて庭に飛びだした。 茶色い土に、ステンドグラスのように突き…
1 なめし皮を持ったおばあさんが地面を確認し、肩にべろりと皮をかけて、腰を曲げた。おばあさんは手で土と草をかきわけ、異状なしと言った。 2 青銅ラッパの音が聴こえなくなるところから、月は二重写しになる。月面を指向して、夜、おやすみなさいとあい…
青い顔、青い脳が動いた、青と茶の偽装的な組み合わせの脳があった。かれらの鳥小屋のなかに。なぜなら世代を経て、すべての、平面じみた鳥のそれぞれが鳥小屋を具えていることを、やさしい声によって聞かされていたからだ。わたしたちの背の曲がった先生自…
白い手、白い手、蜂の巣のソケットの 1つ1つを指で触るアルタイ系の人、しかし良く観察すると 光学的糞尿をときほぐすように、アルタイの 馬たちの群れが、各員の毛並みが太陽を分解し 緑の地平を移動するときの まさにアルタイ風の顔面から浮かび上がる、…
今日は白と水色の細い銅線をたくさんの眼窩にとりつけて、専用の器具を使ってパチン、パチンと固定する作業がおこなわれるのを後ろから眺めた。 午前中は、作業員らが片手に握った器具を振り回し、もう片方の手で試みのための受話器を操作するのを見た。 そ…
銀色の、3段いや4段のかぎの円盤に映りこむ 娘の首と足。 首に巻き付けられた磁気テープの、灯りを反射して点滅する 表面と、細い足をわたしは監視した。 足は白く長かった、きれいな部位が丸ごと 保管容器のなかに格納されているにもかかわらず。 見ない…