近代医学、とくに伝染病とのたたかいに貢献した3人の医学者、パスツール、リスター、コッホの伝記。
はじめに、1850年代の医学の状況が説明される。クリミア戦争においては、特に、戦死よりも病死が多かった。このときの伝染病と傷口腐敗のようすは陰惨なので、あとでくわしくメモを書く。
続いて、3人の医学者の生涯を説明する。
パスツール……はじめ平凡だったが、熱意と規律正しさを持っていた。かれは研究に没頭した。後年は、論敵との争いによって疲弊した。普仏戦争時には愛国者としてパリで活動する。細菌学を研究し、殺菌法やワクチンの確立に寄与した。
リスター……パスツールとは全く異なる性格を持つ。無名の医者として勤務していたが、消毒法を発明し、名声を得る。本人を知る人びとによれば、人格はダーウィンに似て、落ちついた紳士だったという。かれは家系の影響か、ほかの2人の学者よりも長生きした。
コッホ……商人の息子として生まれる。早くから才能をあらわし、細菌学の進歩に貢献する。やがてドイツ医学界のリーダーとしてふるまう。かれは気難しい人物だった。
パスツール、コッホの発見は、科学的に正しかったにもかかわらず、当初、はげしい反対や否定にさらされている。これは、新説を受け入れることが既存の研究を無に帰することになるためと考える。
本の中に書かれた科学者集団の動きを読んで、クーンの科学革命を連想した。新しい発見を確立するには、脳みそだけでなく、攻撃に耐える体力も不可欠だと感じる。
この本は若者または入門者に向けて書かれている。
――私はこれを書いたのは、将来の活動の向かうべき道を求めているような若い人びとのためである。
――……そのときになってもまだ闘志をもっている人は、それを人間同士の間ではなくて、いたるところでわれわれを威嚇し、われわれの正常にして完全な一生を全うすることを妨げている、無数の可視ならびに不可視の微生物に対する戦いに向けてもらいたい。
◆クリミア戦争の風景
――言い換えればもっとも健康で抵抗力のある人びとから成り立っている軍隊の四分の一が、戦傷に続発した病気、あるいはそれと無関係の疾患の犠牲となって斃れたのである。
――戦傷者の中の大多数は後送の途中出血で死んだ。……切断手術を受けたものは……死んだ。……シューニューは『外科医学の失敗は絶望的である』と記している。
兵隊のなかでも、軍医は危険なものの一つであり、多数の軍医が伝染病にかかって死んだ。
ロシア軍においては、3万の戦死者に対し、その20倍が戦傷と病気でたおれた。
――『病院内で感染した伝染病のために死亡した人びとの眠っている墓地をじっと見つめていると、私は、手術の新法などをあみだしたりしている外科医の無神経さや、あるいはまた、政府や社会が多大の信頼を相変わらず受けているのが、この上なく不思議でならない。医師と政府が一致協力して、病院の瘴気の根源を一掃すべき新しい策を講じない限り、どうして先のある進歩が期待できようか』
傷口の腐敗は悪臭によって判断され、その原因をつきとめたのがパスツールらである。また、リスターは消毒法によって、手術や治療による死亡率を減少させた。それまで、外科手術を受けたものはほとんど死んでいたため、衛生状態の向上が図られた。