遺伝子と進化の関係を、いろいろな例をあげて説明する本。ドーキンスは、生物の利己主義と利他主義について研究し、進化論の重要性を説明する。
著者はまず、利己主義と利他主義を定義する。「ある実在(たとえば1頭のヒヒ)が自分を犠牲にして別の同様な実在の幸福を増すようにふるまったとすれば、その実在は利他的であるといわれる」。利己的行為はその反対であり、幸福は「生存の機会」を意味する。
ドーキンスによれば、淘汰の基本単位は種や群ではなく遺伝の単位、つまり遺伝子である。
生命はまず原子のパターンからはじまった。分子のなかに、自己のコピーをつくる能力をもつ「自己複製子」が生まれた。自己複製子のなかでも、安定したもの、長持ちするもの、複製の速度が高いものが増加していく。すぐれた自己複製子の特徴は、永続性、多産性、複製の正確性である。これは、生物の進化の過程とおなじである。
異なる自己複製子は、原始のスープのなかでお互いに数を増やしていくため、競争がうまれる。かぎられた資源をもとに自己を増殖させていくために、自己複製子たちは性質を変化させていった。安定性を増大させ、競争相手の安定性を弱め、ミスコピーの生産をはじめたり、相手の分子を破壊する方法もつくられた。ある自己複製子は、身をまもるためにたんぱく質の壁をまとった。
「こうして最初の生きた細胞が出現したのではなかろうか」。
――生き残った自己複製子は、自分が住む生存機械(Survival machine)を築いたものたちであった。
自己複製子を保護する生存機械は長い時間をかけて発展し、「いまやかれらは、外界から遮断された巨大なぶざまなロボットのなかに巨大な集団となって群がり、曲がりくねった間接的な道を通じて外界と連絡をとり、リモート・コントロールによって外界を操っている」。
――かれらはあなたの中にもわたしの中にもいる。かれらはわれわれを、体と心を生みだした。そしてかれらの維持ということこそ、われわれの存在の最終的論拠なのだ。かれらはかの自己複製子として長い道のりを歩んできた。いまやかれらは遺伝子という名で呼ばれており、われわれはかれらの生存機械なのである。
ヒトとかゾウとかの生物の個体は、遺伝子の連合によってつくられた生存機械である。性の存在は、個々の遺伝子が自分を利するためにおこなわれる。生殖だけでなくコミュニケーションを通じた相互利益も、遺伝子の生存戦略から説明できる。
個体は遺伝子プールになり、遺伝子の長期的な環境となる。
「遺伝子プール内で生き残ったものであれば、なんであれそれが「すぐれた」遺伝子なのである」。
すぐれた遺伝子とは、有能な生存機械をつくる能力である。遺伝子プールは進化的に安定な遺伝子のセット、すなわちどんな新遺伝子にも進入されることのないものである。
動物個体間の相互作用は、利己的な遺伝子という視点から説明できる。これが、近親関係の相互作用となると、またちがったうごきをする。
「これは、近親個体どうしがかれらの遺伝子のかなりの部分を共有しているためである……(遺伝子は)別々のからだのあいだに分配されている」。
***
生殖によって自己のコピーをもった生存機械、つまり兄弟や親は、お互いに遺伝子を反映させようと行動する。
家族計画について……「個々の親動物は家族計画を実行するが、しかしそれは公共の利益のための自制ということではなく、むしろ自己の産子数の最適化なのである。かれらは、最終的に生き残る自分の子供の数を最大化しようと努めるのであり、そのためには産まれる子の数は多すぎても少なすぎてもまずいのである。個体に過剰な数の子をもたせるように仕向ける遺伝子は、遺伝子プールの中にはとどまれない。その種の遺伝子を体内にもった子供は、成体になるまで生き残るのがむずかしいからである」。
どうぶつの子も親も、また兄弟も自己の遺伝子を有利な方向にもっていこうとする。これが、遺伝子が淘汰のなかで行動する方針なので、人間の場合、子供には利他主義を教える必要がある、と作者はいう。
生存機械の性質はほかの対立する遺伝子をだますようにできているので、信心深い人や、異なる学説を指示する人たちにむけて、このように弁解する必要があったという。
生物が集団をつくって行動するとき、一見するとかれらは全体の利益に奉仕しているようにみえる。しかし、作者は、直感はしばしば間違う、とくりかえし書いている。
利己的な、相手を出し抜く、あるいは相手を排除しようとする個体が複数集まった場合、全体としてもっとも損の少ない協調をとることがある。こうした現象はゲーム理論の初歩的な部分をつかって説明できる。
本の中盤のゲーム理論の説明で、ここでもESS(Evolutionary Static Strategy)、進化的に安定な戦略が最終的に勝ち残る。ただがむしゃらに相手を殺す、だます行動は、一時的には優勢となるが、長期的には安定していないことがわかる。
***
進化論のなかでも異例の対象が人間である。作者によれば、人間がもつもっともあきらかな特徴は文化である。文化は集団と世代を通じて保持されていく。かれは文化を、自己複製子になぞらえてミーム(ミメーシスから由来する)というアイデアを用いて説明する。
ダーウィン理論のミームとは、脳と脳のあいだで伝達可能な実体として定義される、理論の本質的原則をさす。ミームとは文化の要素をつたえるもので、遺伝子と強化しあうだけでなく、対立するものもある。
遺伝子、自己複製子は自己を運び、保存する「ヴィークル(乗り物)」のなかから、ヴィークルを操縦する。遺伝子が競争に用いる表現型効果は、ヴィークルをつくるだけでなく、外界にも影響をおよぼしたり、するようにしむける。遺伝子は徒党を組んでひとつのヴィークルに同乗する。遺伝子は、延長された表現型をのばして網を張る。
――自己複製子はもはや海の中に勝手に散らばっていない。かれらは巨大なコロニー(個体のからだ)の中に包みこまれているのだ……宇宙のどんな場所であれ、生命が生じるために存在しなければならなかった唯一の実体は、不滅の自己複製子である。
遺伝子と生物の基本的な成り立ち、進化論の原則についてわかりやすく書かれている。
- 作者: リチャード・ドーキンス,日高敏隆,岸由二,羽田節子,垂水雄二
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2006/05/01
- メディア: 単行本
- 購入: 27人 クリック: 430回
- この商品を含むブログ (185件) を見る