有名な作品だがまだ続きが読めずに停止している。
――……将来書くべき主題を探し求めようとすると才能がないと感じられ、頭の中に真っ暗な穴が穿たれるようになるのも、もしかしたら実体のない幻影にすぎず……。
――すると、このような文学的関心から離れ、それとなんら関係なく、突然、とある屋根や、小石にわたる陽の光や、小石にあたる陽の光や、土の道の匂いなどが私の足をとめ、格別の喜びをもたらしてくれた。それらが私の足を止めたのは、目に見える背後に隠しているように感じられるものを把握するように誘われていながら、いくら努力してもそれを発見できない気がしたからである。……そうした印象と結びついていたのは、知的価値のない、いかなる抽象的真理とも関係のない、特殊なものだったからである。
***
――想像上の「時間」では、一度にひとつの旅行しかできないというわけではなく同時に複数の旅行も可能にあんるとはいえ、それらはどれも可能というだけで、さほどの感動はもたらさない――おまけに想像上の「時間」はつねに再生可能で、ある町である時間をすごしたあとでも、同じ時間をべつの町ですごすことさえできる。
人に対する感情よりも、人の心、人がものを考える方法に関心をもっていると感じた。
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――われわれの知った場所は、われわれが便宜上それを位置づけている空間世界に属するだけではない。それは、われわれの過去の生活を構成するさまざまな印象がつみ重なったひとつの薄い層にすぎない。あるイメージの想い出とは、ある瞬間を哀惜する心にほかならない。そして残念なことに、家も、街道も、大通りも、はかなく消えてゆくのだ、歳月と同じように。
主人公は何の変哲もない風景から過去の風景やできごとをおもいだす。ほとんどは俗世のことで、社会的ステータスに気をつかうフランス人たちのうごきが解明される。
わたしにとっては、富裕層の人付き合いや、独身男の恋愛ざたはどうでもよかったので、ただなにも感じずに読み進めた。死んだ父親の肖像につばを吐きかける娘など、ところどころに非道徳的な場面がある。それでも、膨大な量のおもいでのなかではそこまで決定的ではない。
主人公はおもいでから何を探そうとしているのか、または、延々とおもいだして何がしたいのかわからない。
非現実的なおもいで、おもいでが徐々にかたちを変えて事実とかけはなれていくようす、空想等についてことばをつなげた箇所が、印象深い。
スワンという男の精神を細かく書いている章がつづき、これはほんとうに主人公の記憶なのだろうかと疑問に感じた。他人の心の推移を、ここまでくわしく理解する、もしくは知るのは不可能ではないか。回想ではなく実際は空想か、つくりばなしかもしれない。
失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫)
- 作者: プルースト,吉川一義
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/11/17
- メディア: 文庫
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