パリの出版業界を舞台にした小説。
詩人を目指すリュシアンは片田舎アングレームからパリに上京する。
著者によれば、田舎の社会は閉鎖的で、人のうわさしか話題がなく、人びとの心性は卑しくてくだらない。しかし、リュシアンが目指したパリはこれに輪をかけてくだらない。パリの上流社会とは、服装や言葉遣いといった暗黙のルールによって守られた閉鎖的なつながりである。リュシアンは田舎から来た、身分の卑しい人間として軽蔑され、排除される。
この時代においては、詩人を目指すという事と、くだらない社会で地位を手に入れる事は矛盾しない。一流の詩人になることと、世俗の名声を手に入れることは一致している。
登場人物の9割は資産と自分の世間体にのみ関心があり、そのような風潮に踊らされているリュシアンは、純粋ではあるが愚か者として扱われている。
しかし、これが世の中の実体なので、詩人になるためにはリュシアンのように汚れにまみれるしかない。そうしなければ作品が商品化せず、実体化しないからである。
――あんたたちは、何もわかっていない世間に対して、くさい詩でも投げつけてればいいんだから。……考えてもごらん。つまりな、引き出しにしまいこんだ小説は、小屋の中の馬とは違って餌を食ったりはしない。だけども実際、そいつが餌をくれるわけでもあるまい!
***
――中傷記事などすっかり忘れ去ってしまうような境地でテーマを練る心穏やかな人たちこそが、文学者としての真の勇気を発揮するのである。一見したところ弱い連中のほうが強く見えるのだが、彼らの抵抗は一時的なものにすぎない。
新聞業界で叩かれた主人公は田舎に帰る。
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軽薄な愚か者はあくどい人物たちに騙され、人のいい人物もあくどい人物に騙される。最後、善良なダヴィッド夫婦のみうまく助けられ、平和に暮らすことができる。
名誉と資産にのみ関心がある人びとを描いている。作者は主人公リュシアンを含めて8割方の人物を嫌っているのではないかと感じた。
幻滅 ― メディア戦記 上 (バルザック「人間喜劇」セレクション <第4巻>)
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幻滅―メディア戦記〈下〉 (バルザック「人間喜劇」セレクション)
- 作者: バルザック,Honor´e de Balzac,野崎歓,青木真紀子
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