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『法哲学』平野仁彦 編 その2 ――法とは何かを考える入門

 4 法と正義の基本問題

 法が実現すべき正義とは何か。どのような法秩序を形成していくのが望ましいか。

 

(1)公共的利益

 公共の利益を増進するにあたり、功利主義とその批判を並べ、問題を検討する。

 功利主義の問題点……個人の人格がなおざりにされる、少数者の犠牲を肯定できる、個人的善を無批判に受容する(原発は無条件にいいもので、その需要を減らそうという考えにならない)、目的がよければ過程や約束を無視してもよい。

 功利主義の問題は、多数決原理の功罪にも通じる。こうした作用の防止のために、自由・平等たる基本的な権利が求められる。

(2)自由

 リバタリアニズムの視点を検討する。

 自由は実際には法的・事実的に制約を受けているが、リバタリアニズムは、「様々な規制によって狭められた個々人の自由領域を拡大し、基本的な自由権にもとづいて法秩序の再構築をはかろうとする考え方」である。

 その共通項は、個人的自由の擁護、拡大国家に対する批判、市場の有意性の主張である。

 リバタリアニズムの根拠……個人の尊厳――個々人は目的であって単なる手段ではない、何らかの目的のために個人が犠牲にされたり利用されたりすることがあってはならない(カント)。また、自己所有が所有権の根拠である(ロック)。

(3)市場――効率性と倫理

 市場における規制強化と規制緩和について。

 経済市場の意義……自由、普遍性、効率性。

 政府の失敗……非効率的、公費無駄遣いにつながる

 市場の失敗……情報不均衡、市場がうまく働かない、外部不経済、公共財の問題

 商品と格差……何でも商品にされてしまう、格差の拡大

(4)平等

 

 ……尊厳を傷つけるような差別をなくし、等しい者として扱うところに平等原則の主旨がある。

 

 法の下の平等

 分配的正義

 機会の平等と結果の平等という区分が現在では発展し、形式的な機会の平等、資源の平等、福利の平等に細分化されている。

(5)共同体と関係性

 自由社会の病弊を指摘し、平等な自由への権利を基本原理とする法秩序に疑問を投げかけるのが共同体論である。

 自由平等が、共同体や家族を破壊する。

 我々は実際には「負荷なき自我」ではなく、国、民族、宗教などによって属性づけられた「位置づけられた自我」を持つ。

 

 共同体論の主張……共同善の秩序、関係性を視野に入れた、実質的な考慮にもとづいた秩序づけ。

 自由主義理論からの反論……全体主義につながる、国策に利用される、複雑な現代にそぐわない。

 

(6)議論

 

 議論は、法によって実現されるべき正義の意味内容について意見が対立するとき、調整をはかる1つの手段として重要な意味合いをもっている。

 

 重要なのは、「相互了解と合意の形成をめざして議論をすること」である。

 手続的アプローチとしての議論の重要性について。

 法もまた本来議論的なものである。法システムを、「議論、手続き及び合意からなる「対話的合理性」が制度化されたもの」とみる見解がある。

 

 

  ***

 5 法的思考

(1)法的思考とは何か

 ここでいう法的思考は、裁判を念頭に置いた職業的な法律家の思考である。

・判決の理由づけ、正当化

・法学教育と法制度、法的思考の関連

 近代の法律家による法的思考には、共通したイデオロギーがある。

 

 イデオロギーとは一般に……自己の主張が真理ではないのに、自己または自己の属する集団の利益のために、それを真理だと主張する場合、その主張はイデオロギーとなる。

 

・実質的イデオロギー……実定法の内容にかかわるもの、法の下の平等や人権尊重など。

・形式的イデオロギー……法の運用に係る思考。教義の法的思考。

 

 以下、各種の法的思考について……

法治国家

・予測可能性

・法的安定性……法による予測可能性。

・判決三段論法……大前提、小前提、判決。自然言語を用いるため、「解釈及び無自覚的変化の余地」がある。

・事実問題と法律問題……法適用のためには事実がある程度固まっている必要がある。法規範の適用には、当該事件の事実が大きく影響する。

・事実認定……わが国では事実認定は裁判官が行うが、その教育は軽視されがちだった。裁判官は経験則(Aであれば、Bであろう)に基づいて事実を認定する。それに反対するには反証の必要がある(アリバイなど)。

・制定法主義と判例法主義……わが国や大陸国家では制定法を第一次的に適用する。英米など判例法主義国家では、制定法に準拠しつつも、先例を考慮した判決を行う。

・先例……判例とは異なり、過去の事件で示された法規範を指す。「先例拘束の法理」は、同種事件は原則として同じように扱うというものである。

・日本での判例……最高裁判決理由の内、制定法の解釈をルールとして定式化したもの。

 

 ※ レイシオ・デシデンダイ……判決主文に直接かかわる判決理由

   オービオ・ディクタ……傍論

 

 一般基準と原理……「できるだけ何々せよ」という規範。

 

(2)制定法の適用と解釈

 裁判で用いられた法的推論は蓋然性を含むため、論理必然的なものではない。

 法文の意味は明白でないため、法の解釈が必要になる。

 

 解釈の種類……制定時客観説と適用時客観説、立法者意思説と法律意思説。

 

 法の欠缺……「適用すべき法規範が既存の法源、とくに制定法の中に見出せない場合を指す……罪刑法定主義をとる近代的な刑事裁判では被告人は無罪となる」。

 解釈の技法……文理解釈、拡張解釈と縮小解釈(法文の「真の意味」と表現との間)、厳格解釈、類推と擬制(フィクション)、反対解釈、勿論解釈、論理的解釈

 概念法学的客観説……「立法時、適用時とは無関係に、法解釈学によって構成された概念体系を参照すれば法規の客観的意味が定まる」

 

 歴史的解釈……立法時の意図や記録、過程を参照

 目的論的解釈……「法文はその目的を考慮して読むべきである」。

 整合性とは、法秩序全体に「おかしなこと」がない状態。理性性とは、「正義にかなっている」、「筋が通っている」こと。

 

(3)法的思考と経済学的思考

 法学の内部に経済学的思考を取り入れようとする試みは、アメリカで70年代以降盛んである。

 ミクロ経済学に依拠する。初歩的な経済学の理論を応用するためイデオロギー性が強い。

 

・パレート効率

・費用便益分析……功利主義との類似

コースの定理……(略)

・経済学から学ぶべき概念……費用、犠牲、トレードオフ

 

 

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 6 法哲学の現代的展開

(1) デモクラシーとは何か
古代ギリシア、ルソー、功利主義者たちの「人民のための統治」から、ケルゼンらの「人民による統治」(多数決)へ。

・人民による統治は、やがて「政治家のためのデモクラシー」に至る。

・議会主義……議員が選挙によって選ばれない場合もあるため、元々は民主主義とは関連がない。議会主義は自由主義の系譜に属し、公開の討論を保障する。

・自由の分類……政治的自由、市民的自由、経済的自由

・リベラル・デモクラシー……自由主義と結びついた近代民主主義

・共和主義……市民の政治参加が不可欠。

直接民主制と間接民主制

 

 決定の方式として多数決を採用する制度が、必ずしも多数意見を反映するものではないということは、現代政治学の常識として知っておくべきであろう。

 

・民主制は人権を担保するわけではない。

 

 

法哲学 (有斐閣アルマ)

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