立憲主義の成立過程と現状を明らかにする本。
特に重要となる現代立憲主義は次のようなものをいう。
――主権者である人民が憲法制定権力者として、人権の保障と権力分立ないし抑制・均衡の統治構造を定める憲法典を制定して政府を創設し、立法権を含む政治権力に対する「憲法の優位」性を確保するために独立の裁判所に憲法適合性に関する最終的判断権を付与するというものであった。
立憲主義を守り、多様な人間の生存を可能にする「寛容」と「知恵の交換」を保持しなければならないと著者は主張する。
1
現代における憲法の特徴……
1 他の法律と区別して制定された成文法が憲法である。
2 政府の正統性の唯一の法的根拠である。
3 基本的人権を保障し、権力の濫用を防止するための統治構造を定めている。
4 他の法律に対して優位しており、優位性確保のための機関が、違憲立法審査権を持つ。
2
憲法の分類と分析について。
硬性憲法と軟性憲法の違い、憲法の法源がどこにあるかについて等。
3
憲法の概念は古代ギリシア、ローマ、中世イギリスと徐々に変化していき、ホッブズとロックにより近代的な憲法概念が確立した。
ホッブズは、人間の自己保存のための権利を自然権ととらえ、これを万人が守っていくための自然法を提唱した。
かれの思想は「自由平等な人間の同意=契約から国家や政府の成立を説く論理、また、その論理から必然的結果として生じる法の支配の要請と権力抑制的志向」を持つ。
続くロックは、自然権の保持のために国家という政治社会を創設し、立法権を「最高の権力」とする統治形態を定め、統治者に権力を「委託」するという思想を唱えた。
ロックは、自然の法が万人を拘束する規範であり、立法者を含めて、誰でもこれにそむくことはできないと考えた。
これは「国家・実定法に先行する自然権の考え方や立法権をも制約する法の存在」を認める考え方であり、アメリカ憲法の基礎となった。
4
アメリカでは、自治政府による憲法の策定、イギリスの立憲君主制からの独立を経て、憲法概念が発展した。アメリカにおいてはモンテスキューの影響が強かった。
首席裁判官マーシャルが提唱した概念は次の通り。
・憲法は法である。
・人民に直接由来するこの法は、議会制定の法律に優位する。
・憲法も法である以上、この法を扱う最終的権限は司法権を担う裁判所にあり、裁判所は法律が憲法に適合するか否かを判断する権限を有する。
5
フランス革命により成立した憲法において、法は人民の一般意思であるとされ、司法審査の概念は生まれなかった。ここでは人民の法を審査する機関はなく、また裁判所も歴史的な経緯により軽んじられた(高等法院は既得権益の団体となっており、裁判官は革命時に多数処刑された)。
フランスは貧しい市民による叛乱という社会問題を含んでいたため、その後の推移については憲法の不安定性が顕著である。
ドイツ統一に伴うビスマルク憲法は、君主と国民の二元的権力構造を持ち、また憲法は立法権に優位しなかった。
ドイツ憲法を範とした明治憲法は、神権的国体観念と立憲主義との複合であり、どのように運用されるかが不明確だった。
その後、統帥(作戦運用)が内閣から独立しているために、権力が分裂した。また裁判所は検察の付属機関の扱いしか受けず、違憲立法審査権についても議論されなかった。
6
19世紀に忘れ去られていた「人権」の概念は、ファシズム、ナチズム、全体主義による第二次世界大戦の被害を受けて再び注目を浴びるようになった。そこで、諸国による立憲主義の復活強化が図られた。
具体的には次の項目を意味する。
・国民が憲法制定権力として憲法を制定し、それにより統治権力をコントロールする。
・基本的人権の保障
・立憲主義にとって最大の敵たる「戦争」の放棄と、平和の追求
ドイツやフランスにおいても司法審査機関が創設されたが、違憲立法審査にはそれぞれ方法や課題がある。
日本国憲法について……
――……日本国憲法下での「憲法改正」といえば根本的改正ないし全面否定かその阻止かの文脈になってしまい、日本国憲法を発展させる見地からの個別的事項についての真に必要な改正に取り組めなかったことが惜しまれる。
憲法はその運用こそが重要である。90年代以降、社会の様々な変調が認識されるようになり、立法、行政、司法分野での改革が試みられるようになった。
ここでは『法の支配』強化のための司法制度改革(労働審判制度、法科大学院、裁判員制度等)が例示される。
しかし、著者によれば、我が国は違憲立法審査権の行使には消極的である。司法が、政治とは異なる存在として、国民の間に広くいきわたることが重要だという。
立憲主義は権力への法的統制であり、法曹の役割がかぎとなる。
***
憲法97条
――この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。