うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『ザ・フェデラリスト』ハミルトン、ジョン・ジェイ、マディソン ――その権力分立、機能してますか

所感

独立したアメリカ合衆国において、適切な権限を持つ連邦政府を作ろうと主張した古典。

 

合衆国憲法は、歴史上最古の近代的憲法であり、本書に書かれている基本的な原則は今も有効のものが大半である。

特に「司法の任命権が行政・立法に委ねられているとき司法の独立は存在しない」、「基本的な法律に対する侵犯は、為政者の憲法に対する敬意を失わせ、遵守の義務を形骸化する」といった洞察には説得力がある。

共和政あるいは民主政システムは常に維持の努力が必要である。身の回りの職場や町内会、PTAと同じく、放っておけば簡単に大人の動物園と化してしまう。

 

概要

1784年に起草された連邦憲法を擁護・普及するために、ハミルトンらがニューヨーク州の新聞紙上に掲載した政治文書のうち、よく引用されるものを抜粋している。

合衆国の政治制度を構成する立法、司法、行政、また連邦政府と州政府との関係について、創立者たちの意図や目的を理解することができる。

常に念頭に置かれているのは、専制の防止と、連邦解体から生じる外国勢力の略奪を阻止することである。

そして、政府の根本目的とは人民の幸福を達成することである。

 

イギリスから独立した13州は、その直後、弱い結合のために様々な弊害に悩み、強力な中央政府の必要性が生じた。

本書では、権限を持つ州政府と連邦政府という関係もまた、権力分立の1つとされる。

 

連邦憲法案利点のまとめ

  • 局地的な争い・州の野心的な人物による専制を抑止
  • 外国による陰謀からの防衛
  • 内戦に伴う民兵拡大の抑制
  • 各州の共和政体を保障
  • 貴族制を全面排除
  • 州政府による腐敗慣行の予防

 


1篇 序論

連邦政府の設立は、州の権限を奪い自由や共和政を奪うものだ」という反対派をけん制し、案に示すような強力な連邦政府が、自由・共和制・財産の保障のために不可欠であることを強調する。

 

3篇 対外関係と連邦の効用

安全保障の確保のためには、強力な連邦政府が外交を担うのが最適である。

連邦政府は全州からもっとも優秀な者たちを集め奉仕させることができる。

統一された政府は常に節度を持ち冷静であるため、他国との条約において信義を守ることができるからである。

また、同じ理由で国境を接するインディアンやイギリス、スペインに対しても容易に侵略することがない(これは歴史上誤りだった)。

また、統一された強力な政府それ自体が、他国の侵略や脅迫に対する抑止力となるだろう。

 

 

4篇 続き

 

人間性にとってなんとも不名誉なこととはいえ、一般に国家は、戦争によって何か得るところがあると予期できるときには、いつでも戦争に訴えるものであることはこれまた真実である。

 

戦争を抑止するためには、連邦と1つの全国的政府が必要である。安全は政府、軍備、資源に依存する。

軍隊は各州が別々に指揮権を持つより、行政首長たる大統領の下に指揮されたほうが効率的で強力である。ばらばらの州政府が、共通の敵に対して果たして団結できるだろうか。むしろ隣の州の敗退を喜んだり、侵略国と妥協したりしないだろうか。

 

省略された8篇では、アメリカ連邦を維持することで、隣国を持たない海洋国として、イギリスのように陸軍力を節減することができると説いている。

 

 

9篇 連邦共和国の利点

モンテスキューは、君主制の利点と共和主義の利点を調和させるための方法として連合(Confederate)共和国を好意的にとらえる。連合のなかで、各共和国は内政上の幸福を享受し、対外関係においては、大きな君主制国の利点を享受する。

 

10篇 派閥の弊害と連邦制による匡正

連邦制は、人民による政治の弊害である派閥を防止する。

派閥とは「一定数の市民が、他の市民の権利に反する、あるいは共同体の永続的・全体的利益に反するような利益といった動機により結合したもの」をいう。

派閥同士はお互いの利益……課税や政策などをめぐって対立し、ときに不正義や永続的利益に反する結果を招く。派閥を除去することは不可能なので、その効果を抑制しなければならない。

 

多数派が圧政の陰謀を一致して実行しようとしたときにどのようにそれを阻止すべきだろうか。

 

(圧政の陰謀を)適当に抑圧するものとしては、道徳的な動機も、あるいは宗教的な動機も頼りにならないことをわれわれはよく知っている。そうした動機は個々人の不正や暴力に対してもそれを抑制できないが、ことに一致団結する多数派に対しては、効果がない。

 

直接民主政はその形態上、こうした暴政を阻止できない。

 

……弱小の党派や気に入らない個人は、これを切り捨ててしまうという誘惑を抑えるようなものは何もないからである。

 

共和政(間接民主政)における代表は、優れた人物にも悪人にもなり得るが、「大きい共和国」すなわち多数の選挙民から選ばれた代表のほうが優秀である可能性が高い。

また党派・派閥を多様化させることで、ある1つの党が他を圧殺することを抑止できる。ある州で多数派が暴政をとっても、それが他州に拡大することはない。

よって、「広範な地域と適切な構造とを備えた連邦こそ、共和政体にともないがちな病弊を処置する共和政的な匡正策にほかならないのである」。

 

 

11篇 連邦共和国と海洋国家

海上貿易におけるアメリカの台頭は、他の大国……イギリス、フランス、オランダの敵意や対抗を招きつつある。アメリカが1つの政府の下にある場合、政府は例えばイギリスに対しても対抗策をとることができる。

連邦が海軍を持てばそれはアメリカの海上貿易を守ることにつながるだろう。各邦が分裂してればたちまち他国の略奪の餌食になるだろう。

 

中立権は、適切な武力によって守られている場合にのみ尊重されるのであって、弱体なために侮られている国家は、中立という特権すら失う。

 

海運業保護のため海軍建設を主張するとともに、ヨーロッパの高慢を批判する。

 

さまざまな事実は、ヨーロッパ人の傲慢なうぬぼれをあまりにも長きにわたって裏付けてきた。人類の名誉を守り、尊大な兄弟に節度を教えてやるのはわれわれの役目である。連邦は、そうすることを可能にするであろう。

 

アメリカ人よ、ヨーロッパの偉大さのための道具であることを恥としようではないか!

 

14篇 連邦共和国の実現可能性

合衆国の領土の広さは、連邦実現の障害にはならないことを説明する。また、連邦憲法は州政府の解体を意図したものではない。連邦法の権限が及ぶ範囲は、明確に定められている。

議会参集に不便な遠い州(西部や北部、ジョージア)であっても、外敵に対抗する際は連邦の力を頼ることができる。

 

 

15篇 連合規約の欠陥

当時の邦連合の不完全性について。

当時の連合規約は連合政府の権限が弱く、州政府は各自が連合の指示を無視し振舞うことができていた。

ここでは、連邦政府が州を超えて各個人に直接権限を行使できるような改正を要求する。

 

 

23篇 連邦の維持と強力な権限

連邦の目的、必要な権限について。

 

目的:

各州の共同防衛、外敵・内乱に対する公共の安全の維持、通商の規制、外交交流の管理

権限:

陸軍兵の募集、艦隊の建設と装備、陸海軍管理規則の制定、陸海軍の統帥、軍のための財政的措置

 

 

25篇 共同防衛の必要性とその性格

各州が独自に常備軍を持つことは、国土防衛の負担を不公平にし、また地方政府による連邦への軍事的反抗を容易にする。

常備軍を持たないということは愚の骨頂だが、民兵に頼ることができないのは独立戦争が明確に示している。

 

戦争は、他のことがらと同様、勤勉によって、忍耐によって、時間によって、訓練によって、はじめて習得され、完成される1つの科学なのである。

 

無用な法律は法の遵守に対して悪影響を与える。国民は、本質的に無用な法律は無視するからである。

 

……基本的な法律に対する侵犯は、……いかなるものでも、およそ為政者の胸中に深くおかれるべき憲法に対する厳粛なる尊敬心を傷つけるものであり、さらに、それほどの必要性が存在しない場合でも、あるいはそれほど緊急かつ明白でない場合でも、法律を侵犯してよいという先例になりかねないことを、よく承知しているからである。

 

 

27篇 内政における連邦政府の役割

中央政府の議会は、州政府よりも優秀な代表を集めることができ、また州政府や小規模な立法におこりがちな腐敗・圧政の可能性も低い。

新しい憲法案は、「連邦政府の権威を各州の個々の市民にまで広げる」ものである。また連邦法は、「列挙された正当な管轄対象については」、国の最高法規となり、州にも遵守義務が生じる。

 

 

28篇 連邦共和国内における軍事力の行使

中央政府が内乱や反乱対策のために軍をもつことは、州政府と同じく正当な権利である。また中央政府と地方政府を並立させることで、どちらかの権力簒奪や暴政の企てを抑止できる。

合衆国中央政府は、その後、合衆国からの離脱を表明した州に対して反乱鎮圧を決定し、これが南北戦争となった。

 

 

33篇 「必要にして適切」条項と「最高法規」条項

連邦憲法が州法に対してもつ優越性についてその必要性を強調する。

 

 


39篇 憲法案の共和政と連邦制との関係

連邦憲法案は、共和政の定義に適合している。またこの憲法制定行為は各邦の同意と承

に基づく。よって、憲法案は国家的性格ではなく連合的性格をもつ。

 

以下、連邦政府の権限の由来や政府の作用について、それが完全に国家的性格なのではなく、州政府から権限をはく奪するものでないことを説明する。

この案は連邦的であると同時に国家的である。

 

 

45篇 列挙された連邦の権限と留保された州の権限

連邦政府が各州の権限を危うくるのではないかという反対論に反駁する。

歴史上、連合はしばしば加盟国の強力な力のために分裂、解体してきた。

 

 

46篇 連邦政府及び州政府と人民との関係

州政府の自律性と、武装の権利との関連について下のように述べられる。

市民の武装の権利は、連邦政府による圧制や、僭主に対する防衛策として定められた。

 

アメリカ人がほかのほとんどすべての国民に対してもつ強みである市民皆武装に加えて、人民の帰属心を得ており、民兵の士官を任命する下位の政府の存在は、野心ある企みに対して、いかなる形態の単一政府がなしうるよりも難攻不落の障壁となっている。

 

 

47篇 権力分立制の意味

三権分立が確保されていないという批判への反論。

モンテスキューが真に伝えたかったこととは、「ある部門の全権力が、他の部門の全権力を所有するものと同じ手によって行使される場合には、自由なる憲法の基本原理は覆される」ということである。

 

 

51篇 抑制均衡の理論

政府がその目的である正義を達成し、多数派による圧政が少数派を抑圧しないような政治体制を確立するためには、連邦制と連邦憲法案が最適である。

 

52篇 下院議員に関する被選挙規定

選挙がなくなったところで専制が始まる。

 

 

62篇 上院

 

よい政府は2つのことを含んでいる。第一に、人民の幸福という政府の目的の遵守であり、第二に、その目的がもっともよく達成される手段についての理解である。

 

政治的安定性の維持のために、上院議員の規定の必要性を定めるものである。任期、選出方法(直接投票ではなく州議会からの選出)など。

なお、1913年の憲法改正により、州議会選出は廃止され小選挙区制となった。

 

上院は元老院(Senetus)の由来のとおり、人民の暴走を抑制するため、任期を長くし、熱狂に左右されないよう設計された。

直接民主政は専制を生む危険な道と解釈されている。

歴史上、元老院や上院は、人民の直接的な支持を基盤にした庶民院護民官によって無力化されてきており、上院が貴族制の萌芽になる可能性は低い。

 

 

70篇 強力な行政部

行政部は1人が指揮した方が仕事ができ、逆に複数行政部のメリットは歴史上伝えられていない。

 

人間というものは、単にその計画に参与しなかったからとか、あるいはその計画が嫌いな人間によってなされたからというだけの理由で、物事に反対することもまれではない。

 

また社会全体の利益が、世間的名声があるために、自分の気持ちや気まぐれを世間一般の関心事たらしめることのできる人びとの虚栄・慢心・強情の犠牲とされることがいかに多いか。

 

立法部の複数性は、多数派の行き過ぎを抑制するのに役立つ。

しかし行政府の複数性は、強力性と迅速性を犠牲にし、特に戦争ではきわめて有害となる。複数行政部は責任の所在を不明確にする。

 

 

78篇 司法部の機能と判事の任期 

司法部は三権のなかでもっとも脆弱だが、その安定と独立性のために、判事の終身任期制が必要とされる。かれらは立法部の権力侵害を防ぐ防塞となる。

 

裁判権が、立法権や行政権から分離されていない限り、自由は存在しない、ということには私も同感だからである。

 

憲法の明白な趣旨に反する一切の立法行為を無効であると宣言するのが裁判所の義務なのである。

 

ときに人民は、憲法を無視しよう、また少数派を弾圧しようという意思を持つことがある。こうした状況で、憲法に基づいて意思を抑制する判事には、並外れた覚悟が必要となる。

 

判事の任命権が立法部や司法部に握られている場合、また人民の直接選出である場合、司法の独立は達成されないだろう。