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『社会契約論』ルソー その1 ――社会契約説の古典を読む

 副題は「政治的権利の諸原理」。

 1762年に出版され、フランス王国カトリック教会から激しい批判を受けた。

 

 

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 ◆所見

 人民は自由と平等を確保するために「社会契約」に基づき国家を成立させる。このため国家・政府・統治者の主人は人民でなければならない。

 こうした国家に対する価値観は現在にも影響をおよぼしている。市民の契約と承認によって国家が成立すべきであって、王や君主の私物ではないという考えは、民主主義の前提の1つとなっている。

 しかし論の細部や、「一般意思」については、ホッブズら他の思想家や現代の一般的な考えと異なる点もあり興味深い。

 

 自然状態を否定的にとらえたホッブズと異なり、ルソーは自然状態を理想形の1つとする。またルソーが提示する理想の政治形態は、理想的な市民を前提としている。

 このため、不適切な状態に対しこの法を適用した場合は深刻な害が発生するに間違いなく、ルソーも度々そのような注意喚起をおこなっている(堕落した市民に対しいたずらに理想の形態を適用することは……)。

 

 ◆論点

 ルソーの著作の中には、いまも議論を呼び起こす主張がある。

 

・国家からの贈物である人間の権利

 契約によってつくられた国家が、人間に対しあらゆる権利を与える。

・犯罪人への処罰

 犯罪人は法律違反者であり国家の敵である。

・「一般意思」

 人民の共通意志が正しく反映された場合、それは一般意思であり、無謬の存在とされる。よって、一般意思に対しては論争は不要であり構成員は従わなければならない。しかし一般意思が実現するかは疑わしく、また真偽を証明する手立てがない。

・「立法者」

 国家の設立に際し立法を行うのは神か超人に近い優れた人物であり、かれが法をつくらなければならないという。

・よい統治の指標としての人口増加

・安定よりも自由

 奴隷の平和よりも、たとえ戦争や騒乱を招くとしても自由のほうが重要である。

 秩序の為に市民の権利を制限するのか、それとも自由を絶対視するのかという論争は終わっていない。

・正統な政府

 君主政、貴族政、民主政のいずれにおいても、人民の契約に基づく政府は成立しうる。

直接民主制原理主義

 ルソーは代議制民主主義を明確に否定する。よってイギリス政治は否定される。いわく、有権者は代議士を選ぶ間だけ自由であり、そのあとは奴隷となる。

・議論の不要について

 一般意思の表明される理想的な政治にとって、議論討論は不必要である。

・緊急事態のための対処……護民府、独裁官

 緊急事態のための制度をあらかじめ制定しておかなければ国家存亡の事態に対処できないという。

 それでも、法と執行双方を掌握する独裁官は、半年程度の時限が定められるべきとされる。

政教分離

 教会が世俗権力と並立する状態、あるいは神政政治を否定する。かれが掲げるのは契約に基づく理想の法を維持するための信条……市民的宗教である。

 

 

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 1 自然状態から社会状態へ、社会契約の本質的条件

 市民の世界における政治上の法則を検討する。

・人間は自由なものとして生まれた。

・社会秩序はあらゆる権利の基礎となる権利であり、「約束」に基づく。

・人間の第1の掟は自己保存である。

・家族は、政治社会の最初のモデルである。これまで、アリストテレスホッブズグロチウスによれば、国家は支配者のためにあると考えられてきた。ルソーはそれに反対する。支配者こそが被支配者に従属しているのである。

・権利は力、すなわち暴力に由来するものではない。力による強制は、義務ではなく単なる服従に過ぎない。追剥は暴力によって財布を奪うことができる。では、われわれは追剥に対しては、いかなる場合でも財布を与える義務があるのだろうか?

 

 ――……力は権力を生み出さないこと、また、ひとは正当な権力にしか従う義務がないこと、をみとめよう。

 

・人間は本来自由であり力(暴力)は権利を生まないため、「正当なすべての権威の基礎としては、約束だけがのこることになる」。

 

 ――ところで、他人の奴隷となる人間は自分を与えるのではない、身を売るのだ、少なくとも自分の生活資料をえるために身を売るのだ。しかし、全人民が何のために自分を売ったりするのか? 国王はその臣民たちに生活資料を与えるどころか、自分の生活資料をもっぱら臣民たちから引き出しているのだ。

 

・子供たちもまた親の監督を離れれば自由である。子供たちは無条件で専制君主に隷属してはいない。よって、一世代ごとに人民が専制君主を承認できなければならないはずだ。

・戦争は本来的な状態ではないから、敗者を殺す権利、征服の権利などは存在しない。よって、命を救う代償に自由を奪い奴隷化する権利は無効である。

・人民は王を選ぶことができるが、そのためにはまず人民が人民でなければならない。

・社会契約は次のような問題を解決するためにある。

 

 ――各構成員の身体と財産を、共同の力のすべてをあげて守り保護するような、結合の一形式を見出すこと。そうしてそれによって各人が、すべての人びとと結びつきながら、しかも自分自身にしか服従せず、以前と同じように自由であること。

 

・社会契約において、われわれはすべての力を共同のものとして一般意思の最高の指導の下におく。そしてわれわれは各構成員を、不可分のひとまとめとして受け取る。

・人民の団体は集会における投票者に等しい。

・いかなる憲法基本法)も、社会契約でさえも、全人民という団体に義務を負わすことはできない。

・主権者は、全構成員を害することができない。

・社会契約によって人間は自然的自由のかわりに市民的自由を手に入れ、同時に所有権、道徳的自由をも手に入れる。

・土地の先占権の条件……誰もいないこと、生存に必要な広さのみであること、労働と耕作によって占有すること。

 したがって、専制君主や新大陸征服のスペインなどは不当な占有である。

 

・社会契約の意義は次のようにまとめられる。

 

 ――この基本契約は、自然的平等を破壊するのではなくて、逆に、自然的に人間の間にありうる肉体的不平等のようなもののかわりに、道徳上および法律上の平等をおきかえるものだということ、また、人間は体力や、精神については不平等でありうるが、約束によって、また権利によってすべて平等になるということである。

 

・実態としては、法律は常に持てる者に有利で、持たざる者に有害である。よって、格差の是正が不可欠である。

 

 

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 2 立法について

・国家を指導できるのは個々人の利害の共通する部分、すなわち一般意思のみである。

・主権者とは集合的存在であり、主権者の権利は譲り渡すことはできない。

・主権は分割することができない。諸々の権利は主権に従属している。

 

・一般意思は誤らないが、人民は欺かれたり特殊意志を優先したりすることがある。国家のうちに徒党や党派、部分的社会があると、人民の議決が歪められてしまう。

・市民は、主権者が求めれば、いかなる奉仕でもする義務がある。しかし、主権者側は、不必要な負担を市民に課すことができない。

・社会契約は市民に対して平等に義務と権利を与える。それは政治体と構成員との間の約束である。それは一般の幸福だけを対象とする。

 すなわち市民(臣民)は自分自身の意志にのみ服従する。

 

・社会契約は当事者の保存を目的とするから、そのとき命の危険を要求することがある。国家は構成員の生命を制御できる。

 

 ――……また彼の生命はたんに自然の恵みだけではもはやなく、国家からの条件つきの贈物なのだから。

 

・罪人は国家の敵であり、かれを殺すのは敵としてである。とはいえ刑罰の多い国は怠惰で弱い国である。

・法は一般意思の行為に属する。一個人が権力によって発した行為は法ではなく行政機関の行為であって、主権者の行為ではない。

 

・法に基づくすべての国家は共和国でありすべて合法的な政府は共和的である。

 

 ――……政府は主権者と混同されてはならず、主権者のしもべでなければならない。

 

・立法者は、異常な天才である必要がある。これは一般人に作れるものではないため、立法者は神の権威を借りる必要がある。

 

 ――……諸国民の起源においては、宗教が政治の道具として役立つ、と結論しなければならない。


・人民は未熟であったり腐敗した場合には正しい法を受け付けないが、それでも栄えることがある。

・大きすぎる領土や、絶えず膨張せざるを得ない国家は、必ず没落する。人口と国土、富の分配もまた人民の成立に影響する。

・立法体系の目的は自由と平等である。特に、平等のかぎは格差の是正である。百万長者と乞食は、前者は公共の幸福を害し、後者は暴君を生む。

 

 法は自然的条件と調和し、各国民ごと固有の原則を持つ……

 アラブとユダヤの宗教、ローマ人の徳、アテネの文学、スパルタの戦争、ロードスの航海など。

 

・法の分類……根本法(基本法憲法)、民法、刑法、そして第4の法である「習俗、慣習、世論」

 [つづく]

 

社会契約論 (岩波文庫)

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