うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

◆海外のフィクション

『フリアとシナリオライター』バルガス・リョサ

リョサの学生時代を元にかかれた小説。 バルギータス(リョサの愛称)は大学に籍を置いたままラジオ局で働く一方、短編小説を書いては破り捨てていた。そこへやってきたのがボリビアの天才ラジオドラマ作家、ペドロ・カマーチョである。カマーチョの書くシナ…

『ノストローモ』コンラッド

コンラッドの最良の本といわれる。彼の小説にはかならず自身の解説がつけられているが、この話も自分の経験および知人をきっかけに生まれたようである。 *** 物語は語り手の意思によって場面を転々と変える。地理環境の描写から、クーデターにより逃れてきた…

『ヘリオーポリス』ユンガー

ギリシア、ローマ、ペルシアといった異教的道具でつくられた、大理石と宝石の世界が舞台である。「大戦争」ののち地球の環境は激変し、他の惑星への進出がはじまっていた。大理石都市ヘリオーポリスは、摂政の座に誰も座るものがない「空位の時代」にあった…

『The quiet American』Graham Greene

対米戦争中のベトナムが舞台である。題材として現代にも通じるものがあり、関心も強いので若干ていねいに読むことにする。 *** やかましい一般的アメリカ人とは異なるパイル氏が死体となって発見される。主人公であるフォウラーと、パイルの婚約者であった現…

『All the pretty horses』Cormac McCarthy

牧場の所有権はフランクリン氏に移り、フランクリン氏は少年にたいし、世の中には仕方のないことがいくつもあるが、これがそのひとつだ、と言った。少年は友達のロリンズを夜中に迎えにいき、一緒に旅にでる。二人は馬に乗るが、すでにトラックの走っている…

『The ministry of fear』Graham Greene

『権力と栄光』(挫折)、『第三の男』、『内なる私』、"human factor"につづくグリーンの本で、今回は戦時中、爆撃にさらされているロンドンが舞台である。 主人公ロウは、偶然おとずれた慈善バザールでのささいなもめごとから、なぞの男に命を狙われる。こ…

『クオ・ワディス』シェンキエーヴィチ

善悪には拘泥しないが審美眼だけはもっていると自負する男ペトロニウスと、知識だけは豊富で心性のいやしいキロンは、おそらく表裏一体の存在である。ウィニキウスの指令によってキロンはキリスト教徒のなかに潜入するが、ウィニキウスはこの信仰に心を動か…

『内なる私』グレアム・グリーン

逃げ込んできた男アンドルーズを、なぜかエリザベスは受け入れる。彼女も森の中の家でさびしく暮らしており、直前に唯一の同居人である叔父をなくしたのだった。処女作のせいか、設定はずいぶん都合がいい。 密貿易集団に所属していたアンドルーズは、密告を…

『The Humarn Factor』Graham Greene

外務省六課のなかからソ連へ情報がリークされた。情報自体はささいなものだが、アメリカに知らされれば協同関係に支障をきたす。重役のデントリーやパーシヴァル、Cらは、第六課のメンバーであるカストルやデイヴィスに容疑をかける。特に、デイヴィスを消…

『Brighton Rock』Graham Greene

剃刀と硫酸をもつチンピラ、ピンキーらが殺人を犯す。 彼らは仲間割れを起こし、仲間の一人をピンキーが殺す。はじめの殺人には目撃者がおり、これがカトリック信者の女ローズである。ピンキーはローズが自分に好意を持つように仕向け、婚約させることで口封…

『Child of God』Cormac McCarthy

文がなまっていて、章も断片的、地の文とせりふも一体化しているので、はじめは注意深く読んでいかねばならない。しかし、独特のスタイルがおもしろい。 レスター・バラードという男がいて、彼は幼少のころから頭がいささかおかしかった。また、女を殴って保…

『ガン病棟』ソルジェニーツィン

ソ連社会で要職につき、数人の子供をもつ幸せな家長パーヴェル・ニコラーエヴィチは、首にできた癌腫瘍のために僻地の病院に送られる。設備は劣悪で、賄賂を試みるがうまくいかず、大部屋に収容されてしまう。 生きているあいだは人間は地位や階層ごとに隔て…

『ヴォス オーストラリア探検家の物語』パトリック・ホワイト

空想的で、場の空気が読めないドイツ人探検家ヴォスと、社交こそがすべてと信じるオーストラリア商人の一家とその親戚たち。ローラ・トレヴェリアンとヴォスの意識の流れは、若干とってつけたような感がある。 ヴォスは謙虚を毛嫌いする。 「自己否定の行動…

『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』ジョン・ル・カレ

本作、『スクールボーイ閣下』、『スマイリーと仲間たち』をスマイリー三部作というらしい。 *** ル・カレの文章は皮肉と婉曲が多い。これらは相手にも同等の前提知識を必要とするので、自分はル・カレの文を理解することで彼と同じ知的レベルにいると感じて…

『ある男の聖書』高行健

過去の自分すなわち「彼」のおもいでと、今現在の「おまえ」を交互に並べることで対比させ、自由の象徴として性描写を繰り返しているだけではないかと感じた。 文革当時は恋愛もまた政治闘争によって制限されていたので、この語り手にとってはそれが抑圧迫害…

『文化果つるところ』コンラッド

『ロード・ジム』もそうだったが、蛮人の女にひかれて見境がつかなくなる、という心理が理解できない。 話の筋は以下の通りである。 ウィレムスという貿易会社に勤める男は一時期取引を成功させて権勢をふるうが、横領がばれてクビになる。彼の育ての親だっ…

『セヴァストーポリ』トルストイ

クリミア戦争の激戦地セヴァストーポリの実相を、二人称で紹介するところからはじまる。戦争の実態は華々しい行群ではなく荒れた町並みや死体、担架、野戦病院、四肢を切断された傷病兵である。こうした不快な光景にもかかわらず、ロシア兵たちは不屈の精神…

『シュルツ全小説』ブルーノ・シュルツ

――七月、父は決まって湯治場へ出かけていき、私と母と兄とは暑熱に白いめくるめく夏の日々のなかに置き去られた。光に放心した私たちは休暇というあの大きな書物を一枚ずつ見開いていくのであったが、どのページもちらちらと燃え、その底には黄金色の洋梨の…

『トラークル詩集』

色彩をやたらとつかうのはヘボ詩人のやること、とゴットフリート・ベンが批判した際、その例外としてあげられたのがトラークルである。ベンの賞賛の通り、どの詩にも大抵「なに色の」ということばが含まれていて、鮮烈な印象をあたえる。 ひなびた農村、田舎…

『ヤセンスキー、アンドリッチ、ゴンブロヴィッチ、オレーシャ』

ロシアおよび東欧の作家を集めたもの。 *** ヤセンスキー「パリを焼く」 不況におちいったパリで、ピエルは工場をくびになる。住む家も追い出され、現金もなく、恋人のジャネットはほかの男と出歩いて帰ってこない。ピエルは地下鉄の駅構内で寝泊りし、ゴミ…

『ワイルド・スワン』ユン・チアン

文章は飾りのない報告調で淡々と進むが、繰り広げられる話はおもしろい。古い因習、無政府状態の国、身分の違いなど、現代からすると奇想天外な要素がたくさんある。衒いや専門的な話はほとんどなく、あくまで女たちの人生の転変を語ろうという純粋な動機が…

『ハザール事典』ミロラド・パヴィチ

――二度目の人生は、別のある修道院の僧に挑んでチェスに明け暮れたが、但しチェス盤も駒も使用しなかった。対局は一手ごとに一年をかけ、黒海からカスピ海に拡がる広大な空間を使った。駒には動物を用い、対局者は交互にその動物めがけて鷹を放ち…… 牝牛亭は…

『兵士イワン・チョンキンの華麗なる冒険』ヴォイノーヴィチ

間抜けで朴訥な兵隊イワン・チョンキンが、ソヴィエトの巨大な官僚組織……軍隊、秘密警察、新聞、学界を混乱におとしいれる物語。墜落機の見張りのために村に派遣される前半部は退屈だが、秘密警察がチョンキンに目をつけ、逮捕状をもってやってくるあたりか…

『ロボット』チャペック

薄い本で、書かれたのも前世紀はじめと古いが、密度は高い。 R.U.Rなる企業がロボットを発明し、人間に代わる労働力として大量生産され、人間の仕事をすべて奪い、やがて反旗をひるがえす、という地球規模の出来事でありながら、描かれるのはドミンら企業の…

『セルビアの白鷲』ロレンス・ダレル

フライ・フィッシングと『ウォールデン』の好きな情報部員メシュインは、不穏な動きのあるセルビア山岳地帯に派遣される。外国語の能力に秀でた彼は、セルビア人に扮し、王党派のレジスタンスにうまく溶け込み、金を反チトー、反共産勢力に受け渡す行軍に参…

『The case for literature』Gao XingJian

高行健の活動は演劇が中心であり、これを読まないことには全貌を知ることができない。劇中で展開されているニーチェへの批判にとくに関心がある。 *** 「主義のないことへの前説」では、"without isms"が何であり、何でないかを痴呆のように列挙している。主…

『尖塔』ウィリアム・ゴールディング

大聖堂を舞台にした、ゴシック小説の雰囲気をもつ話である。 大聖堂の参事会長ジョスリンは、二〇〇フィートを超える尖塔を、大聖堂の上部に増築しようという野望にとりつかれており、模型を片手にいつも堂内を徘徊している。 大工の棟梁ロジャーは大聖堂の…

『Blood meridian』Cormac McCarthy

民間「ジークフリート」か、中世のピカレスク風の速度で少年が育つ。少年はすぐに家を出て悪党の道をふみだす。 "Outer Dark"よりも叙述は簡潔で、舞台もにぎやかな開拓地のようだ。荒くれ者との喧嘩、ナイフ戦闘、寝込みを襲って殺し宿屋ごと火をつけて逃げ…

『The Road』Cormac McCarthy

塵のつもった、誰もいない道、雨などの風景のなかで、カートを転がす父と子供が歩いている。父と子は寒さに耐えつつ、南に向かい、雪と塵のつもった山間部を越える。唯一であった人影は、彼らの前方をよろよろと歩いていた男だけで、この男も雷に打たれたら…

『収奪された大地』エドゥアルド・ガレアーノ

本書は土地は豊かだが外敵や独裁者から虐げられつづけているラテンアメリカの歴史をテーマにしている。本書は、外国(欧米日)企業による地場産業の搾取、労働力の搾取、国内の独裁者と少数の富裕層による多数の貧民の搾取など、「新版の序」での暗澹たる追…