うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

◆海外のフィクション

『地球の長い午後』オールディス

自転が停止し、植物が支配者となった地球で生きる人間を主役にした小説。 SFと分類されているが、機械類が出てくるわけではなく、物語をつくるのはグロテスクに進化した巨大植物、動物的な挙動をもつ不気味な植物、つる、茎、食肉植物、そして動物のなかで…

『しあわせな日々/芝居』ベケット

「しあわせな日々」は英文学の授業(落とした)で映像作品をすでに見ていた。おしゃべりで活発な老婆と、ほとんどあいづちをうつだけの老人の生活をテーマにしている。老婆はこれぞしあわせな日々といっているが、舞台設定(老婆は体の半分まで荒地に埋もれ…

『勝負の終わり/クラップの最後のテープ』ベケット

「勝負の終わり」 窓の二つある部屋のなかに、ゴミ箱に入れられた老夫妻と目の見えない老人、始終立っている男がいる。全員老化に直面しており、自分のこれまでの人生が無意味だったのではないかという疑いにとりつかれている。神はいないのではないかという…

『ウッドハウス、エーメ、ペレー、イリフ・ペトロフ、ケストナー』

現代ユーモア文学を集めたもの。 *** ウッドハウスの「ジーヴス物語」は、有能な執事ジーヴスが諸問題を解決する話である。主人のもとに問題が舞い込むと、主人は解決案を考え、ジーヴスに手伝いを頼む。ジーヴスは主人の解決案には与さず、最良の解決に向か…

『In Cold Blood』Truman Capote

カンザス州の田舎町でおこった強盗殺人事件について書かれた本。 殺されたクラッター一家は、豊かな農家を営んでおり、父ハーバートは地元の名士だった。娘は美人で成績がよく、ボーイフレンドがいた。弟は父と同じくらい体つきがよい。ハーバートの妻だけは…

『ブーベ氏の埋葬』ジョルジュ・シムノン

ネタバレあり パリの住宅街で老人が死ぬと、かれの妻を名乗る女があらわれる。死んだブーベ氏の経歴はなぞにつつまれており、アパートでひとりで暮らすかれの行方を、妻や、別の妻、娘たち、ほか、いろいろな人物が追っていた。 刑事たちはブーベ氏の正体を…

『神の裁きと訣別するため』アントナン・アルトー

作者がラジオ放送のためにつくった詩「神の裁きと訣別するため」と、ゴッホについての考えを書いた「ヴァン・ゴッホ」が入っている。 アルトーは外国の演劇などを参考に作品をつくった人で、精神病院に入れられて死んだらしい。 翻訳文を読んですぐ、すこし…

『赤毛のアン』モンゴメリ

「そう。これもいつかおぼえることの一つだわ。いろいろおぼえることがたくさんあるって考えているのは、すばらしいと思わない? あたし、生きてることがうれしくなっちゃうの、――こんなにおもしろい世の中ですもの。なんでもみんなわかっちゃったら、きっと…

『見えない都市』イタロ・カルヴィーノ

マルコ・ポーロはフビライ=ハンにさまざまな都市の見聞をきかせる。2人の会話は禅問答じみており、ことばで遊んでいる印象をうける。マルコ・ポーロの都市も、なぜか重機やバスターミナルがあり、抽象的な図像でしかあらわれず、非現実的な風景が広がって…

『トリスチア』マンデリシュターム

ロシア詩人の詩集と、文章を翻訳した本。 森や水などの自然物とあわせて、古典古代の風景があらわれる。色鮮やかな景色がおもいうかぶようにできている。 ――柔らかい草地を踏んで踊る影たちの輪舞へ わたしは旋律美しい名とともに紛れ込んだが、 なにもかも…

『ドゥイノの悲歌』リルケ

――ああ、いかにわたしが叫んだとて、いかなる天使が はるかの高みからそれを聞こうぞ? 冒頭のなげきからはじまり、抽象的なところから、風景まで、場面がうつりかわる。世界空間と、自分たちにたいするなげきがつづく。ことばには古い語句もあるが、読みに…

『The Cosmological eye』Henry Miller

本や美術、映画についての文章と、人物伝、シュルレアリスム的な文章を寄せ集めた本。1939年に刊行された。 かかれていることはいつも同じで、文明に服従しないで、人間として生きることを主張する。人は労働のために生きているのではない、とミラーはい…

『デルスウ・ウザーラ』アルセーニエフ

著者とロシア兵と、現地人のデルスウは、ロシアの沿海州、ウラジオストクの北方を探検する。針葉樹林の山が未開拓のままのこされており、つねに雨と霧にみまわれ、虎や猪、ノロといわれるけものが棲息している。 「カピタン」アルセーニエフたちは、けわしい…

『サーカス物語・ゴッゴローリ伝説』エンデ

サーカス物語……工場にやとわれている貧乏なサーカス団が、施設建設のために立ち退きを命ぜられた。工場長の温情によって、企業の宣伝に使ってもらえるというが、道化師たちは反対する。 サーカス団は知恵おくれの女の子を養っていて、この娘が知恵おくれにな…

『絶対製造工場』チャペック

すばらしい動力機関が発明されるが、これは副産物として「絶対」を生み出してしまう。「絶対」にあてられた人間は、人間を超えた存在を知覚し、信仰をいだいてしまう。世界中にちらばった絶対が、あらゆる人間を狂信者に変質させ、世界終末戦争をおこす。 人…

『愛しのグレンダ』コルタサル

全体的に文が読みづらくて、翻訳だけでなくたぶん、元のスペイン語も読みにくいんだろうとおもった。小説はいろいろと読んだつもりだが、それでも、話自体を追いかけるのが困難なくらい、状況を把握しにくい。 「猫の視線」……猫にたいする愛を語るような調子…

『砂の都』マルセル・ブリヨン

探検家が中央アジアの砂漠に深入りし、砂嵐に巻き込まれる。岸壁に掘られた穴にひそむと、仏陀の顔と壁画が残されている。眼下には巨大な砂山が広がっていて、砂嵐によって徐々に削り取られていき、嵐が晴れたとき、砂のなかに埋もれていた都があらわれた。 …

『In the country of the last things』Paul Auster

ある女はむかしの恋人に手紙を書いている。女は兄を探して「最後の国」にやってきた。そのまま出られなくなった。その国の状況を、女は細かく報告してくれる。 奈落の底のような、現世のむなしさを煮詰めたような町で、人びとは絶望にうちひしがれて生活して…

『自由の牢獄』エンデ

非現実的な話があつめられた短編集。どこにあるのかわからない不思議な場所や、奇蹟をさがしもとめてさいごに破滅するか死ぬ話がふくまれる。 かれらは絵や聖書の力にとりつかれてしまう。ボルヘスに影響をうけたという話では、非現実的な空間が出現して観察…

『アルゴールの城にて』ジュリアン・グラック

ブルターニュの森と丘に囲まれた城で、主人公アルベールと友人エルミニオン、謎めいた女ハイデがなにも繰り広げずにハイデが死ぬ話。ワーグナーの「パルジファル」が下敷きになっているというが読んだことがない。 柔らかい、幻想的な風景描写に、登場人物の…

『都会と犬ども』バルガス・リョサ

士官学校に入った少年たちの話。文才があり、口先でうまく標的になるのをまぬがれているアルベルトが作者の姿を投影しているとおもわれる。同じ区隊のジャガーは圧倒的な戦闘力をもつチンピラで、上級生を叩きのめし学年のボスになる。生徒たちは教官の影に…

『ドストエフスキー伝』トロワイヤ

1 経歴 退役軍人の父に育てられ、暗い子供時代を過ごす。父親は厳しく、また自分の貧乏と不遇を恨み酒をよく飲んだ。フョードルは工兵学校に進むが、規則ばかりの生活に嫌気がさす。 退学した後、当時はまだ社会で大きな位置を占めていた文学で立身出世しよ…

『ラーマーヤナ』

インド、東南アジアに普及している古典物語。 *** 王子ラーマは別の王国の王女シータと結婚する。しかし、弟の嫁の母方に意地悪な老婆がおり、策略によって王国を追放される。 ジャングルに追い出されたラーマ、シータ、ラクシュマナは森の悪魔スルナパカー…

『絶望者』レオン・ブロワ

パリに住む作家マルシュノワールは、カトリック信者であり、現代の醜い文明や人びとを呪っていた。かれは原稿を書くがその攻撃性のため採用されず、貧乏に苦しむ。グラン・シャルトル修道院に入ったが、ふたたびパリに戻り、呪いの原稿を書いた。かれにつき…

『詩という仕事について』ボルヘス

1 詩は読むことにより現れる楽しみである。無味乾燥とした研究や死んだ状態の書物が詩なのではない。 2 隠喩は無数にあるがそのほとんどは少数のパタンに帰着させることができる。しかし、そのパタンから外れた隠喩も存在する。 3 叙事詩が書かれることは…

『バガヴァッド・ギーター』

『バガヴァッド・ギーター』は叙事詩『マハーバーラタ』中の一篇であり、まえがきとして叙事詩のあらすじが紹介されている。荒唐無稽な神と聖人と王家の話で、聖人が欲情して女を犯すと聖なる子供が生まれる。また、妃が肉の塊を生んで、この肉をバター状に…

『タイガを通って』アルセーニエフ

概要 アルセーニエフらは、アムール河下流域、シホテ・アリニ山脈の地理学的踏査に出発する。目的は「移住政策の観点から計画されている鉄道の敷設地域が妥当であるかどうか」の検討だった。 探検隊はソヴェツカヤ・ガワニ(港)からアムール河までの187…

『皮商売の冒険』ディラン・トマス

状況報告や状況説明とは異なることばの使い方が多く、理解しにくい箇所が多い。ほとんど状況がつかめずに話が終わるものもあった。 表題作はまったく頭に入らず投げた。その他の短編も、話は頭に入らなかったが、ことばが独特だったので記録しておく。 *** …

『深紅の帆』アレクサンドル・グリーン

船乗りの手で育てられた娘アッソーリは、町で仲間外れにされていた。森の中で出会ったエグリから、将来、赤い帆に乗った王子が迎えに来ると予言される。 富豪の家に生まれたグレイは、家を継ぐことに満足できず、船乗の修行をして自前の舟を用意し、深紅の帆…

『2666』ロベルト・ボラーニョ

謎のドイツ文学者と、シウダフアレス市で発生している連続女性殺人事件を題材にとった小説。 *** (1)アルチンボルディという架空のドイツ人作家を愛好する4人の学者(女含む)について。架空の作家を追求するところまでは興味がわいたが、4人の恋愛関係…