うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

◆海外のフィクション

『現代の英雄』レールモントフ

一部小説でよく名作として引用される小説。中短篇が集まってできている。ツルゲーネフ『父と子』といい、舞台は古いロシアだが、今読んでも納得のできる点がある。人間の精神は根底では変わっていないのかもしれない。 ナポレオン戦争後のロシア(推定)、エ…

『南回帰線』ヘンリー・ミラー

『わが読書』『北回帰線』につづく三作目。 有名なことば「私の周囲のものは、ほとんど落伍者であり、落伍者でないやつは、ひどく不愉快な人間ばかりであった」。「どだい、われわれアメリカ人は非常にゲルマン民族的だ――ということは、つまり、大ばかだとい…

『裸者と死者』ノーマン・メイラー

太平洋戦争における米軍と日本軍との戦闘を題材に、軍隊組織の性質について考える小説。 アノポペイ島に上陸する前夜、夜明け前の輸送船から話ははじまる。主人公はレッドという北欧人で、長身痩躯である。彼と敵対するのが脳みそも筋肉でできている好戦的な…

『セクサス』ヘンリー・ミラー その2

ユートピア的政治組織はいつも人間を自由にすると約束する。 ウルリック曰く芸術家はよろこびを手に入れるために食事や金を抑制する。いったい金持ちが貧乏人のように食事を楽しむだろうか? 芸術家はふだんは働かないがもっともゆたかである……そしてミラー…

『セクサス』ヘンリー・ミラー その1

『薔薇色の十字架三部作』の一作目。 彼はマーラに「なぜ本を書かないのか」と言われる。 ――大人は、おのれのまちがった生活によって鬱積した毒物をはき出すために書くのである……だが彼が(書くことによって)なしうるのは、せいぜい自己幻滅のヴィールスを…

『山猫』ランペドゥーサ

シチリア貴族のファブリツィオ氏の家での貴族的日常から小説ははじまる。家庭はひからびており次男は優雅な生活に息をつまらせてイギリスの炭鉱労働者になってしまった。甥のタンクレディは革命勢力と交際している。ファブリツィオ公爵はシチリア王と親しい…

『悪霊』ドストエフスキー

農奴解放前後の無政府主義者を題材にした作品。支離滅裂の青年たちが登場し、各種の犯罪行為をおこなう。 政府が目をつける危険思想家になりたかったステパン・トロフィーモヴィチの話。 自分をひとかどの人物と思い込んではいるが善良な男。彼には乳母、面…

『サートリス』ウィリアム・フォークナー

第1次大戦から帰ってきた、自暴自棄気味の青年が主人公の話。後のフォークナー小説に登場する人物も何人か現れる。 銀行経営の老ベイヤードは御者の黒人サイモンから、孫のベイヤードが第一次大戦から帰ってきたと告げられる。父はジョン・サートリスである…

『消去』トーマス・ベルンハルト その2

遺書 彼は葬儀に立ち会うためにヴォルフスエックにやってくるが、すぐには邸宅に行かず、弓形門の陰から棺の納められたオランジェリーに出入りする庭師たちを観察している。そこで再び彼の思い出しがはじまる。 上の者(彼の家は村の上にある)にはぞっとし…

『消去』トーマス・ベルンハルト その1

オーストリアの代表的な作家。呪詛でつくられた小説だとのこと。薄暗い、暗鬱な、じめじめした旧家、土地持ちの家に一生住み続けることを義務付けられる家に生まれた主人公が、脱出した話。 電報 これはフランツ=ヨーゼフ・ムーラウの手記である。彼は両親…

『コンラッド短編集』

「エイミー・フォスター」 風景と町の説明からはじまる。 「あれを見れば誰だって、彼女が過剰な想像力のもたらす危険からは永久に守られていると思うだろうよ」、「我々すべての者の頭上に絶えず懸かっている不可知なるものに対する畏れから生じる悲劇が………

『ネクサス・暗い春他』ヘンリー・ミラー

ネクサス 三部作の最後。ドストエフスキーの気違いたちの話。モーナはふたなりのスターシャと親しくなり、ミラーはこのスターシャをねたんだ。彼はドストエフスキーの世界を、退屈と狂人に満ちたニューヨークに投影させた。曰く、ドストエフスキーの想像のロ…

『われら・巨匠とマルガリータ』ザミャーチン、ブルガーコフ

「われら」 「1984」や「すばらしき新世界」につながる反ユートピア小説の元祖で、長い間ソ連文学史から抹殺されてきた。 われわれの文明は二百年戦争を経て完全に消滅し、「緑の壁」とよばれる外に追放された。生き残った一〇〇〇万の人びとは「慈愛の…

『A journal of the plague year』Daniel Defoe

古い本のためか、ところどころ今と意味の異なる単語があるようだ。たとえばshyは、(感染者から)逃れたがるという意味で使われている。 一六六五年、イギリスで発生した大規模なペスト禍の記録である。語り手はロンドン市内の商人であり、各教区parishでの…

『第三の男・落ちた偶像・負けた者がみな貰う』グレアム・グリーン

グリーンの娯楽作品三つが収録されている。 『第三の男』では、冷酷な犯罪者に変わり果てた友人を密告する男が描かれる。ハリーは終戦直後の混乱したウィーンで偽ペニシリンを扱う闇商人となっていた。彼に招かれた三文小説家ロロは、ハリーの本質を知らされ…

『Youth』J.M.Coetzee

祖国南アフリカから脱出しようと試みるさえない主人公が、看護婦にもてあそばれるところから本書ははじまる。黒人政策をめぐるデモと弾圧で、数学を学んでいた彼は幻滅し、ロンドンに向かう。ここでIBMに採用されるが、長時間労働と孤独に苦しむ生活を送る。…

『戦う操縦士』サン=テグジュペリ

対独戦の仏軍パイロットとして出撃をまつ場面から本書ははじまる。仏軍は物量的に不利な状態にあり、司令官アリアスの出撃命令は死刑宣告に等しかった。焼け石に水のような貧弱な航空体制のもとで、彼は国家への忠誠を失いかけ、すべてを無意味と考えるよう…

『パーフェクト・スパイ』ジョン・ル・カレ

『寒い国から帰ってきたスパイ』、『鏡の国の戦争』につづいて読む。彼の作品に出てくるスパイは皆自己のコントロールに長けたエリートである。 *** 詐欺師の息子として生まれたマグナス・ピムは嘘に囲まれて育ち、自分も父の片棒を担がされてきた。結果、嘘…

『Storm of steel』Ernst Junger

In the Chalk Trenches of Champagne 学校を繰り上げ卒業して志願兵に応募したユンガーは一九一四年十二月、シャンパーニュに送られる。開戦当時の昂揚した雰囲気について述べられている、偉大な、圧倒的な、聖なる(the Hallowed)体験を、戦争はわれわれに…

『Childhood's End』Arthur C. Clarke

「宇宙の旅」と並ぶクラークの作品。 the Overloadsとよばれる超越者が地球にやってきた世界を主題とする。超越する存在の使い(ロボット?)があやつる巨大宇宙船が大気圏上に降下してくると、人類は無意識のうちに行動を矯正されていく。この超越者と統一…

『Starship Troopers』Robert A. Heinlein

一人用の惑星突入カプセルに乗り込んで侵略をおこなうところからはじまる。いわく「これは戦闘ではなく、侵略だ」。兵隊から恐怖を取り去る催眠教育、大気圏突入用のポッドなど、後世のSFにも受け継がれる要素がそこらに散らばっている。 ジョニーとその仲…

『Rain and other south sea stories』W.S.Maugham

船上の二組の夫妻、マクフェイルとデヴィドソンはお互いを唯一気の会う同行者と感じていた。教父であるデヴィドソンの担当地区には、現地人のあいだに非道徳的な踊りの習慣がある。 雨が降り、彼らの船は感染病者発生のためしばらく停留せざるを得なくなる。…

『星を継ぐもの』ホーガン

本の大部分は科学者たちの努力と研究の発展の記述に割かれている。同じSFとはいえ冒険小説的なものとは大分印象が異なる。月面で発見されたルナリアンおよびガニメデで発見されたガニメアンの生態が徐々に解明されていくところはソラリスにも似ている。 科…

『鏡の国の戦争』ジョン・ル・カレ

『寒い国から帰ってきたスパイ』と共通の世界が舞台のようで、スマイリーやリーマスといった名前も出てくる。リーマスは死んだ、と言及されているので『寒い国~』以後の話らしい。 イギリス諜報部(サーカス)は外務省傘下の機関だが、この本で描かれるのは…

『追憶への追憶』ミラー

人間との出会いを賞賛するもっとも効果的な方法は「人との出会いが大事」と白々しいことばを吐くのではなく人びとの列伝をつくることである。ミラーの本のけっして少なくない部分が、人間の陳列棚で構成されている。棚はミラーの設計および装飾によってつく…

『冷房装置の悪夢』ミラー

これはWW2末期に書かれたアメリカ帰還の書である。 ヨーロッパから戻ってきたミラーは改めてアメリカの問題を認識した。アメリカは、奴隷たちの民主主義の国になってしまった。貴族ではなく奴隷、機械が平等に生活する国、無為と無害の一生を約束される国…

『終りなき戦い』ジョー・ホールドマン

ベトナム戦争から帰ってきた作者が書いた兵隊の話。強力かつ危険な強化スーツを着用し、遠い惑星に遠征したのち、トーランとよばれる敵性宇宙人とたたかう。ウィリアム・マンデラたちはすぐれた頭脳ゆえに兵士にえらばれたエリートたちだが、訓練中につぎつ…

『鼠と竜のゲーム』コードウェイナー・スミス

作者は20世紀初頭、日露戦争、中国の革命期にアメリカ政府の東アジア担当として多大な活躍をした人物であるという。『スキャナーに生きがいはない』はからだの感覚すべてを機械化された不死の人間たちを描く。彼らは視覚以外の感覚をもたず、肉体の動作や…

『火の記憶Ⅰ 誕生』エドゥアルド・ガレアーノ

インディオの創世神話には、罰と制約の概念が頻繁にあらわれる。神は完全な世界を司り、ほかのものが自らに伍しようとするのを許さない。こうして傲慢な動物はこらしめられ、その特徴をからだに刻まれる。うさぎは耳をつかんで放り落とされ、コウモリは羽を…

『レ・ミゼラブル』ユゴー

書名通りの惨めな人びとが順番に表現されていく。 ディーニュ市の司教ビヤンヴニュ氏の聖人伝と、そこにやってきた追放者ジャン・ヴァルジャンの司教宅訪問から物語ははじまる。銀の匙のみならず燭台までもさしだす話。ガキの貨幣を奪い取る話。 女と遊び人…