うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『戦争論』ロジェ・カイヨワ その3

第三章 全体戦争 一九世紀は戦争の神聖化の時代だったが、クリミア戦争、普墺戦争、普仏戦争は限定的なものだった。普墺戦争で使われた弾の数を兵数で割ると、一人あたり一週間に一発しか撃っていない。 鉄砲が決定的に改良されたのは一八七五年頃であるとい…

『戦争論』ロジェ・カイヨワ その2

第四章 イポリット・ド・ギベールと共和国戦争の観念 彼はフランス革命思想の先駆であり、またクラウゼヴィッツの先駆であった。彼は、王朝は圧制にむかわざるをえないと批判し、国民の主権を説いた。彼が失脚して死んだときに、すでに革命は起こり、軍隊は…

『戦争論』ロジェ・カイヨワ その1

副題「われわれの内にひそむ女神ベローナ」。第二部「戦争の眩暈」は、戦争が人間の心と精神をいかにひきつけるかを、フランスを中心に研究したものである。 ――国家と軍隊を一体化しようとする傾向は、国民戦争を生む一方、平等で全体主義的な国民を生む結果…

マクシミリアナ等をみて(2012)

魚とおもったらそうでない わたしは印刷に頭部を近づけて これは、クレーンを操縦するようには 人物と夜景に注目した 魚型の、 輪郭をもつ人体の 模型から肺を抜きとったもの 架のなかに吊るしておいた それは、やった 肺の複写物だけ ミルクの色に塗られた …

『アメリカの反知性主義』リチャード・ホーフスタッター その4

第五部 民主主義の国の教育 ――反知性主義をアメリカ的生活文化のひとつの特質として考えるとき、目を向けなければならない重要な事実は、この国全体が人民の教育に強烈な、ときには感動的とさえいえる信仰をもちつづけてきたことである。 しかし、著者は現在…

『アメリカの反知性主義』リチャード・ホーフスタッター その3

第三部 民主主義の政治 建国の父たち(founding fathers)はみな知識人である。 「しかし、合衆国が知識人によって建国されたことは、あとからふり返ると皮肉な話だった。その後の合衆国の政治史を通じ、知識人はたいていアウトサイダーか従僕かスケープゴー…

『アメリカの反知性主義』リチャード・ホーフスタッター その2

第二部 心情の宗教 知識人と反知性主義とのたたかいは、まず近代初期プロテスタンティズムからはじまった。アメリカでは信仰において感情が知性をくだした。洗練された貴族たちのカトリックにたいして、民衆は簡潔で熱狂的なプロテスタントに惹かれた。内的…

『アメリカの反知性主義』リチャード・ホーフスタッター その1

アメリカを調べるうえで必読の書だと直観した。宗教、政治、文化の面から反知性主義の推移を書きだす。 エマソンのことば……「正直に、事実を述べようではないか。わが国アメリカは皮相な国だといわれる。しかし偉大な人びと、偉大な国ぐにが、かつて法螺ふき…

ボイス(2012)

唐竹の檻(おり)に ひとひと、つるべの かみなりをゆびでなぞった その時間 常に掘った わたしたちは 時間になると、みぞから這いだして コカと、芝の花をつみとる つぼみアンテナから、毎秒 おびただしい数で送られる 粉ひきの声をきく きいた

『君主論』マキャヴェリ

世襲君主国家はもっとも安泰である。 「古くから連綿と君位が続いていれば、革新の記憶も動機も消え去ってしまう。変革というものはひとたび起きると、かならずつぎの変革を構築するもので、いわば歯型の石壁をのちのちに残していく」。 ――人はささいな侮辱…

『兵器と文明』メアリー・カルドー

専門的な事実の列挙が多いので、おおまかに読む。 序章、まず刊行時の東西軍拡競争についての解説。改良をつづけるバロック的な軍事技術は、「設備投資と生産性の伸びの低下に寄与し、米国経済が衰退の一途をたどるのに手を貸してきたのである」。このときは…

転写は月面のへこみを(2012)

スコップをさしこんだ この人は泥をほった スコップのべろを、べろの 上を、すきとおった水が 黄色い塗装のうえをつたう なめらかな金属の 泥の肉からしみだしたものは 純度が高い予感が する、このたび、やさしい 女の子たちは鳥のくびをねじった ひねり、…

『軽い帝国』マイケル・イグナティエフ

「本書は介入後に秩序をもたらそうとする帝国が直面する問題に焦点を当てた」。 介入側の権益、地元住民、そして地元指導者層の対立に着目する。 第一章 序論 帝国の自覚を長い間持たなかった帝国、「直接統治の重荷と日々の警備のリスクを伴わないグローバ…

『想像の共同体』ベネディクト・アンダーソン その4

Ⅸ 歴史の天使 社会主義国同士の戦争に話題を戻す。革命もナショナリズムも、資本主義とマルクス主義と同様、「特許権の設定できない発明品」なのである。カンボジアが革命モジュールの移転された極端な例ならば、ヴェトナムはナショナリズム・モジュールの移…

『想像の共同体』ベネディクト・アンダーソン その3

Ⅵ 公定ナショナリズムと帝国主義 オーストリア=ハンガリーのヨーゼフ二世はドイツ語を国家語に選んだが、これはドイツ語話者と他言語、とくにハンガリー語話者とのあいだに軋轢を生んだ。同じことがオスマン朝のトルコ語でおこった。 国籍のなかったハノー…

『想像の共同体』ベネディクト・アンダーソン その2

Ⅲ 国民意識の起源 国民意識の発生の土壌となったのは、出版物と、資本主義である。 フェーヴルによれば一六〇〇年までに、既に二億冊の本が出版され、フランシス・ベーコンはこれが世界の姿と状態を変えてしまったと嘆いた。ラテン語市場は一五〇年で飽和し…

『想像の共同体』ベネディクト・アンダーソン その1

国民国家論の有名な本。日本語が読みにくい。 Ⅰ 序 インドシナ戦争をみて、マルクス主義諸国もまた、国家という概念のもとに成り立っていることを指摘する。 「ナショナリズムはマルクス主義理論にとって厄介な変則であり続けてきた」。 ナショナリズムのパ…

複写の仏(2012)

ひだり ひだりから、みぎからの色線の たばと、でこぼこの道を その道に合流する 顔面のきれいな像、からだの 像、正対した 脂肪の縞もよう をなぞって、となりの男が 小刀を一定の間隔で発光させる わたしは、かわいい児童を、頭部のひしゃげた犬と、小人と…

『悪霊』ドストエフスキー

農奴解放前後の無政府主義者を題材にした作品。支離滅裂の青年たちが登場し、各種の犯罪行為をおこなう。 政府が目をつける危険思想家になりたかったステパン・トロフィーモヴィチの話。 自分をひとかどの人物と思い込んではいるが善良な男。彼には乳母、面…

『サートリス』ウィリアム・フォークナー

第1次大戦から帰ってきた、自暴自棄気味の青年が主人公の話。後のフォークナー小説に登場する人物も何人か現れる。 銀行経営の老ベイヤードは御者の黒人サイモンから、孫のベイヤードが第一次大戦から帰ってきたと告げられる。父はジョン・サートリスである…

『消去』トーマス・ベルンハルト その2

遺書 彼は葬儀に立ち会うためにヴォルフスエックにやってくるが、すぐには邸宅に行かず、弓形門の陰から棺の納められたオランジェリーに出入りする庭師たちを観察している。そこで再び彼の思い出しがはじまる。 上の者(彼の家は村の上にある)にはぞっとし…

『消去』トーマス・ベルンハルト その1

オーストリアの代表的な作家。呪詛でつくられた小説だとのこと。薄暗い、暗鬱な、じめじめした旧家、土地持ちの家に一生住み続けることを義務付けられる家に生まれた主人公が、脱出した話。 電報 これはフランツ=ヨーゼフ・ムーラウの手記である。彼は両親…

菌糸のステップ(2012)

冷たい金具の糸を、 くもの幼虫がつたって ステップは幼い弟の なんとも、細くて、白い すべすべした自然造形のからだ 小さな海の産卵する あごと、汗のけいれん周期にあわせている ようだ、ステップは。 管から、錦と金糸の顔面にむけて おびただしい惑星の…

『コンラッド短編集』

「エイミー・フォスター」 風景と町の説明からはじまる。 「あれを見れば誰だって、彼女が過剰な想像力のもたらす危険からは永久に守られていると思うだろうよ」、「我々すべての者の頭上に絶えず懸かっている不可知なるものに対する畏れから生じる悲劇が………

『昔話の形態学』ウラジーミル・プロップ その2

Ⅳ章 登場人物への機能の割り振り 「機能が登場人物にどう割り振られているかという問題は、検討しておく必要があります」。 行動領域というものがあり、それらを合わせたものが機能の担い手たちと対応する。 敵対者(加害者)の領域は、加害行為A、主人公と…

『昔話の形態学』ウラジーミル・プロップ その1

構造主義の真祖といわれるプロップの本。 第一部は方法について、第二部は分析の実例をおこなっている。 第一部 方法と一般的結論 民間説話の領域においてその構造上のきまりを確立するのが形態学である。本書は昔話の形態学をできる限り一般向けにやさしく…

『レトリックと人生』レイコフ、ジョンソン その4

23 メタファー、真実、行動 24 メタファーと真実 「権力のある方の人間が自分たちのメタファーを押し付けるようになる」。 哲学者にとっての真実(Truth)とは、客観的、絶対的真実である。彼らによればメタファーは真実をあらわすことはできない。この…

『レトリックと人生』レイコフ、ジョンソン その3

15 経験に一貫した構造を与える ある経験がメタファーによって構造を与えられ、一貫したものになるとは、どういうことか。 談話conversationに、戦争というメタファーが与えられることで議論が生まれる。この談話にはいくつかの相dimensionsがある……参加者…

『レトリックと人生』レイコフ、ジョンソン その2

6 存在のメタファー 物体objectや内容物substanceに関する経験から得られたメタファー。ひとたびその物体などと関連付けできれば、それを一個の物として扱うことができる。 「人間の目的というのは、人為的に境界を設定して物理現象をわれわれ人間と同じよ…

『レトリックと人生』レイコフ、ジョンソン その1

「メタファーは伝統的に哲学においても言語学においても真摯な関心が払われることなく無視されてきた」。 むしろメタファーが、理解ということを説明する鍵であると著者は書く。西洋哲学の前提を崩すこと……「とくに、それは客観的真実あるいは絶対的真実が存…