うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『レトリックと人生』レイコフ、ジョンソン その2

 

 6 存在のメタファー

 物体objectや内容物substanceに関する経験から得られたメタファー。ひとたびその物体などと関連付けできれば、それを一個の物として扱うことができる。

「人間の目的というのは、人為的に境界を設定して物理現象をわれわれ人間と同じようにはっきり個別化することを――境界面をもつ存在物化することを――われわれに要求するのである」。

 これを存在のメタファー(ontological metaphors)とよぶ。例にあげられたのはInflation is entityインフレはひとつの存在物である……combat inflationインフレと戦う、などなど。これはあまりに広範に及ぶ、およそ主語になるものはほとんど存在のメタファーが使われているといってよい。その言葉はわたしを怒らせた、など。

 The mind is a machine……My mind just isn't operating today. など。

 ――「機械」のメタファーから、mindというものはオン・オフの状態をもち効率の水準や生産能力があり、内部にはメカニズムやエネルギー源を備え、作動状態があるのだという概念を得ることができる。

 容器のメタファー……われわれは自分自身や家などを容器とみなす。in/outがそれにあたる。

「区分けするという習性は最も基本的な習性のひとつである」。

 区分けするとはつまり数量化することである。カンザス州はひとつの容器であるから、内容物をあらわすときThere is a lot of land in Kansasと表現するのである。

 視界も概念化される、visual fieldというのは、自分の見られるものを容器にしたということだ。視界に「入る」。in the way「じゃまだ」(視界に入っていて)。in washing the window...なども、窓拭きをひとつの容器としているのだという。

「このように、諸々の活動activitiesというのは、さまざまな行為や、その行為を成り立たせている別の活動を盛る容器であるとみなされている」。

 状態も容器として概念化されるから、We're out of trouble nowやHe entered a state of euphoriaのような表現も成り立つ。

 

 7 擬人化のメタファー

 ただ単に人間とされるだけではなく、インフレなどは敵adversaryとされる。

「われわれはインフレのことを、自分たちを攻撃し、傷つけ、奪い、破壊する敵であると考えている」。

 擬人化によって、われわれは複雑で抽象的な事柄をとらえることができるのだ。

 

 8 換喩としてのメタファー

 「メタファーは主として、あるものを他のものを通して把握する方法であり、その第一の役割は理解することである。これに対して換喩の第一の役割は、指し示すことである」。

 また全体からある部分を選ぶことで、どのような特徴をもつかを理解させることにもなる。「部分が全体を代表する」という換喩の概念は、普段の思考や行動にも影響している。たとえば「顔がその人をあらわす」など。人間はまず顔を見て人間を認識する、その他……The part for the whole,producter for product,object used for user,controller for controlled,institution for people responsible,the place for the institution.

 He bought a Fordフォード(車)を買った、The gun he hired彼の雇った銃(ガンマン)など。Remember pearl harbor真珠湾(の奇襲)を忘れるな。

 換喩に基づいた思考……「われわれが一枚のピカソの作品(a piccaso)に対して敬意を払うのは、それは、ピカソという芸術家と関連付けてその作品のことを考えるからにほかならない」。ニクソン(の政府)がハノイを爆撃した、というのは、責任の所在を部分の選択によってはっきりさせているのである。

 鳩が平和を象徴するというのも換喩である。

「文化や宗教の概念体系というのは、現実にメタファー的なものである」。

 

 9 メタファー相互の間の一貫性

 岩の前にボールがあるin front of the rockとするのが英語であり、たとえば西アフリカのハウサ語は、ボールが岩の後方にある、と表現する。英語では時間は動く物体であ、前後の方向をもっている。。時間はわれわれのほうへやってくる(time will come...)。そして、われわれは未来へ向かう(I look forward to...)。「これからの週」を、時間と関連付けてweeks to fllow(あとにつづく週)、人間と関連付けてweeks ahead of usと表現する。

 もうひとつの時間のメタファーとして、Time is stationary and we move through itというものがある。どちらも、Time passes us時間が通り過ぎていく、という考えの下に、時間が動くのか、われわれが動くのかの分岐がある。

 

 10 さらなる例

 英語の表現には、字義通りliteralの表現と、メタファーにふさわしい慣用表現idiomとがある。significant is big, emotional effect is physical contact, life is container人生は容器である。ここにあるたくさんの例はどれも「メタファーから成る概念によって構造を与えられている字義通りの表現なのである」。"We'll have to take our chances" 一か八か賭けてみる必要がある、といっても、これがメタファーとは思わないだろう。

 Life is gamblingというメタファーによって、われわれの経験、発想の仕方は構造を与えられているのである。

 

 11 メタファーと概念構造

 ひとつひとつのメタファーはそれぞれ概念の一部分にしか構造を与えていない。そして、Theories are buildingsというメタファーがあるとき、foundationやconstructは使われるが、屋根、廊下、階段、部屋などは普通使われない。これが使われるとそれは字義通りの表現ではなく、比喩的表現、想像力による表現となる。

 この想像力によるメタファーには、「使われる部分」を拡張したもの、「使われない部分」を使ったもの、既存の体系にないメタファーを用いたものの三種がある。

 ――wasting time, attacking positions, going separate waysなどのような表現は、われわれの行動や思考を成り立たせている「メタファーから成る体系的概念」の存在を映し出している。

 これらの表現は生きているものだという。

 

 12 メタファーと概念体系の基盤

 はたしてメタファーをまったく介入させない概念もあるのか。彼曰くup上、などはそのひとつであるという。up-down, front-back, in-out, near-farなど、「われわれの空間概念の構造というのは、われわれの絶えざる空間体験から生じているのである」。

 われわれの世界経験がそのまま文化となってあらわれてくる。

 「われわれは常に肉体的なものを基盤にして非肉体的なものを概念化している……より明確な輪郭をもつものを基にして、より不明瞭な輪郭をもつものを概念化しているということである」。

 

 13 構造のメタファーの基盤

 動物は欲しいものを手に入れるために単純な殺し合いをするが、人間はことばで議論するという、手の込んだテクニックを発達させてきた。ことばでおこなう、相手への攻撃は、威嚇、脅迫、権威、侮蔑、見くびり、権威への挑戦、問題のはぐらかし、駆け引き、へつらいなどさまざまである。しかし、より理性を重んじる分野ではこれらは禁止されている(学問、宗教、外交、法律など)。

 それでもなお、議論は戦争ととらえられる。一見、理性的に見える表現でも、戦争にまつわる攻撃手段を隠していることが多々ある。「議論は戦争である」は、われわれの生活に影響を与えている構造のメタファーである。

 

 14 因果関係の概念の基盤

 因果関係はわれわれが最も頻繁に使用する概念のひとつだが、分解不可能な構成要素ではない。

 「因果関係というのは経験のゲシュタルト(ひとつのまとまりをなす全体像)である……他の諸々の構成要素が寄り集まってできたひとつの集合体であると考える必要がある」。

 ここでの類似性による分類は難しくてわかりにくい。

 「因果関係の概念は確固とした概念になっているが、それは因果関係の概念に基づいてわれわれは滞りなく活動し続けているからである」。

 「因果関係の概念は、ひとつの原型に基づいて定義されており、その原型の特徴は、諸々の属性から成る繰り返しあらわれる複合体であるということであった」。

 この概念は、「全体はそれを構成している部分の単なる総和ではなく、むしろ各部分の属性や関係などを決定する価値をもったものである」という全体論なのである。

 作るmakingは、われわれの手で操作された結果、別のものができるという特徴をもっている。Creation is birth.

 ――「因果関係」の概念は「直接手で行う操作」という原型を基盤にしている。この原型は、経験から直接あらわれ出る(emerge)。

 ここらへんはよくわからない。

 

レトリックと人生

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