うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『本と人の歴史事典』高宮利行

ヨーロッパを中心に、本の成立と発展をたどる本。カラーの図がたくさん入っておりおもしろい。 Ⅰ ペンと文字 はじめ、ローマや中世においては下書きには蝋板が使われた(タブラ、テーブルの語源である)。木枠に蜜蝋を注ぎ、そこにスタイルスとよばれる鉄筆…

『南回帰線』ヘンリー・ミラー

『わが読書』『北回帰線』につづく三作目。 有名なことば「私の周囲のものは、ほとんど落伍者であり、落伍者でないやつは、ひどく不愉快な人間ばかりであった」。「どだい、われわれアメリカ人は非常にゲルマン民族的だ――ということは、つまり、大ばかだとい…

蜂の影(2012)

端子の島にむけて、ある日、虫と動物の影が投げ込まれた 狭い土壁の家を出て、共同の墓地をすり抜けた かれらは、その中でも、わたしと昔から住んでいる老人は 黒土の上に残された石の幕舎に向かった。 不穏な熱と磁力を帯びた影がレリーフに映りこむと、か…

『裸者と死者』ノーマン・メイラー

太平洋戦争における米軍と日本軍との戦闘を題材に、軍隊組織の性質について考える小説。 アノポペイ島に上陸する前夜、夜明け前の輸送船から話ははじまる。主人公はレッドという北欧人で、長身痩躯である。彼と敵対するのが脳みそも筋肉でできている好戦的な…

『セクサス』ヘンリー・ミラー その2

ユートピア的政治組織はいつも人間を自由にすると約束する。 ウルリック曰く芸術家はよろこびを手に入れるために食事や金を抑制する。いったい金持ちが貧乏人のように食事を楽しむだろうか? 芸術家はふだんは働かないがもっともゆたかである……そしてミラー…

『セクサス』ヘンリー・ミラー その1

『薔薇色の十字架三部作』の一作目。 彼はマーラに「なぜ本を書かないのか」と言われる。 ――大人は、おのれのまちがった生活によって鬱積した毒物をはき出すために書くのである……だが彼が(書くことによって)なしうるのは、せいぜい自己幻滅のヴィールスを…

銀の水とところ(2012)

あるとき、ちょうど、湿地のとぎれるところ ゴム靴の裏から、冷たい対応の人たち 窓とのりしろの それからかれらは抜けた 自分たちの色と紙のついた像が足から はるか水平線まで延びている なんと間抜けな引き延ばされた かれらのにせのすがた。 銀色のみず…

『オランダ東インド会社』永積昭

最盛期オランダはスペイン・ポルトガルの時代とイギリス・フランスの時代をつなぐ。オランダ東インド会社は世界ではじめての株式会社である。この本はとくに東インド会社と現地インドネシアとのつながりを中心に据えるものである。 一 香料への道 モンスーン…

単眼(キュクロプス)の規則(2012)

うわずみの、序列の脂をぬぐいとる一つ眼の男 多重の円盤を持つ、眼の 白い男。 その人物は文書、 筐体のほころび、くずれる通路をしるしたもの を指示した。 食肉、腐肉への指示はすばしっこい手のひらに よっておこなわれ、 ひとつの眼で、複数の口もとを…

『機関銃の社会史』ジョン・エリス

この本は出版されると「殺人の機械化、産業化」についての論議、思索を喚起した。「互換性部品によって大量に生産される機械の時代の産物、つまり旋条銃身をもつ機関銃」がテーマの中心である。銃は社会的な歴史をもっているとエリスは主張する。 一八八六年…

『第二次世界大戦下のヨーロッパ』笹本駿二

ポーランド電撃戦では、奇襲によって、開戦二日目になるとポーランド空軍は消滅した。ポーランド騎兵はドイツ戦車に切り込みを行った。英仏はポーランドをけしかけて結局見殺しにしたのだが、英仏ははじめから助ける気などなかった。 「ポーランドの運命を決…

村(2012)

ようやく、しびれの波を あたまに加える、その 管の道路に打ち入って いく、忍びの里 練り粉から、 雲をつくり、ふくらませた 青い村落をおとずれた。 わたしは 森の濃度にめりこんでいった、そのため 蘭の花畑のすき間から わたしを、監視する 釣り下がった…

『数量化革命』アルフレッド・クロスビー その2

第二部 視覚化 数量化革命を起爆させたのが視覚化のうごきだと著者は考える。 ルネサンス期にかけて視覚重視の傾向があらわれる。新プラトン主義者マルシリオ・フィチーノは太陽は「神の視覚行動」であり「神の影」だと言った。大学では黙読が主流になり、こ…

『数量化革命』アルフレッド・クロスビー その1

ヨーロッパ帝国主義がこれほど成功したのは、彼らがもっていた現実世界を数量化して見るというメンタリティによる、と前書きに書かれている。汎測量術(パントメトリー)の歴史をわかりやすく説明する。 第一部 数量化という革命 ヨーロッパが現実世界(リア…

管路(2012)

これらの昼、氷の肉で 太陽をさえぎられた、うすぐらい 伝送路にさしかかる 冷たい砂の道をえらぶ。 見晴らしの よい、空のへりにこしかけた 安定したうごきに よって、衣裳をきた娘 息子と子孫が、装置をあつかう 2人の端子部からよだれが ふきだす、その…

『戦争の科学』アーネスト・ヴォルクマン その2

第三章 龍の顎 シャルル七世は長弓に対抗するためにヨーロッパ中から科学者・技術者を呼び研究させる。火薬は中国で誕生しイスラムにも伝わったが、まだ決定的な兵器にはなっていなかった。「ボンバルド」または「カルヴァリン」という初期の大砲は、発射音…

『戦争の科学』アーネスト・ヴォルクマン その1

兵器等についての比較的読みやすい入門書。 イントロダクション ゼロテを首謀者とするユダヤ人の反乱軍は、絶壁のうえに立つマサダ砦を占領しローマ軍をむかえうつ。ここでローマ軍が使ったのが攻城機と弩級である。 「自分たちよりも科学的にはるか先をゆく…

『アジアの海の大英帝国』横井勝彦

副題「一九世紀海洋支配の構図」。 本書はアジア海上覇権のかぎを握った、イギリス海軍Royal Navyを扱ったものである。アジアの海上帝国を築くにあたり、海軍と海運と造船が主力要素となった。 一般的にヴィクトリア中期(一八五〇~七〇年代)は小英国主義…

『中国の軍事力』平松茂雄

中国軍の動向は変化が激しいため、この本とはすでにかけ離れている面もある。 中国の将来に対する見方は両極端である。 「中国という国は非常に両極端な面を持っていて、どちらもある一面の真実である。しかしそれは中国のすべてではない」。 八〇年代からす…

赤い技術の歴史(2012)

ヒスイのかざりつき マチ針を手に とって、木の葉、煙を いぶされた、単色の男に注目する。 文書係が、粘土を彫った わたしは銀と青の錦で目隠しを する、眼球の欠けた手の、5本ずつ 指の先によって点検する。 数字入りの書庫から おどりだす、毛皮の夢、灰…

『ロシアの軍需産業』塩原俊彦

ロシアは現在軍需産業によって外貨を獲得している。イラク戦争で話題になったイラクの対戦車ミサイル「コルネット」はロシア製である。ロシアはイラク、北朝鮮、中国、インド、その他諸国に武器を輸出しているがこれは国家事業である。軍事輸出ランキングで…

『私の中の日本軍』山本七平

敗戦というテーマで買った本のひとつである。 はじめに本多との論争からはじまる。百人斬りという虚報が、いま対中国懺悔の資料として用いられるのはなぜか。それでいて当時の大本営発表がよく知られているのはなぜか。 戦後、大日本帝国に関して多くの神話…

『山猫』ランペドゥーサ

シチリア貴族のファブリツィオ氏の家での貴族的日常から小説ははじまる。家庭はひからびており次男は優雅な生活に息をつまらせてイギリスの炭鉱労働者になってしまった。甥のタンクレディは革命勢力と交際している。ファブリツィオ公爵はシチリア王と親しい…

『小説のために』コリン・ウィルソン その2

第七章 実験 リアリズムは過激になっていき、ついにジョイスの『ユリシーズ』が出たのだった。彼がしたのは「普通のレンズの代わりに拡大レンズを忍びこませ、リアリティをかつて試みられたこともなかったほどの微細な細部まで示すことであった」。 二〇世紀…

『小説のために』コリン・ウィルソン その1

原題はThe craft of the novel、小説の構築、工作といったところだろう。作家とその作品のかかわりから小説の書き方を考えていく。 第一章 創作の技法 「わたしは、創造ということの基本的原理は適者生存だということだという気がしている……作家志望者を奨励…

『現代アフリカ文学案内』土屋哲

アフリカは現在五十三の独立国があるが言語は数百にわたるため旧宗主国の言葉を用いざるをえない。海岸部は熱帯だが内陸の高地は涼しい。 ナイジェリアは三つの部族が連邦をなしているがかつてビアフラ紛争を経験した。セネガルは旧フランス植民地である。ケ…

パラボラの顔(2012)

かれらの軸は ひとつひとつが骨になり かれらの くびは 結び目として、設計の 比較的根本にかかわる ところの 結節部をなす 黒くなりがちな わた、ひき網の檻(おり) 男の子たち、それで 中央系の機械が ひとつにつながって、檻をつかむと ガチャガチャと …

『雍正帝』宮崎市定

ヨーロッパの王宮にくらべ、紫禁城はあまりに巨大である。 これが独裁君主には必要だった。 「垂直に高さを計っても平面に距離を計っても、人民と天子との間には広大な空間が横たわっているのだ」。 独裁制を論ずるためにはその実例を綿密に調べてゆくべきで…

『科挙』宮崎市定

「中国の試験地獄」、『アジア史概説』につづく宮崎市定の本。彼曰く、歴史考証を通して現代社会を論じる、評論家風の仕事は苦手であるので、事実の記述に徹するつもりだという。 五八七年、ゲルマン民族大移動の頃に、科挙制度ははじまった。貴族制度は中国…

俗対話(2012)

ならび、 古紙 この年は、非常に 気分のわるい年、口角から ほっぺた、眼のしたにかけて、むくむくと たくわえられた栄養 粉末系のいくつか、 粉と液体を人形が変換する 首の、間延びしている、この 個体は、間延びしている、と 女の子は注文をつけた。 アル…