うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

細菌ゲリラをつれて(2012)

やわらかい子供の手 ふくらみに、5つの芽のでた、指 キリキリの 手をひいて、おや、 ああ、適温の 子供手のひら 山のすき間から、眼のない 花のゲリラたちの手をひいて その道に案内してくれといわれた 唾液の子が命令された 朝方には、肺ボンベを 背負った…

宇宙開発(2012)

日曜日になると、この人 集団房の担当者のかたちが できあがる、水がめのなかに ばらばらの血とわたがただよって いる、それをカーボンスプーンで まぜた、この手順書から 担当者のかたちが実物に なった わたしはあたまの 骨、ドーム状のカバーを着脱する、…

『ネクサス・暗い春他』ヘンリー・ミラー

ネクサス 三部作の最後。ドストエフスキーの気違いたちの話。モーナはふたなりのスターシャと親しくなり、ミラーはこのスターシャをねたんだ。彼はドストエフスキーの世界を、退屈と狂人に満ちたニューヨークに投影させた。曰く、ドストエフスキーの想像のロ…

『われら・巨匠とマルガリータ』ザミャーチン、ブルガーコフ

「われら」 「1984」や「すばらしき新世界」につながる反ユートピア小説の元祖で、長い間ソ連文学史から抹殺されてきた。 われわれの文明は二百年戦争を経て完全に消滅し、「緑の壁」とよばれる外に追放された。生き残った一〇〇〇万の人びとは「慈愛の…

本メモのカテゴリについて

本メモの数が増えたので、おおざっぱに分類しました。 フィクション以外の本はだいぶ基準が怪しいですが……。 ◆海外のフィクション ◆日本のフィクション ◆歴史の本 少しでも歴史的な要素があるものはここに入れました。 ◆その他の本 経済についての本、科学の…

『龍陵会戦』古山高麗雄

『アーロン収容所』からのビルマつながりで読む。 「勇」師団管理部衛兵隊に配属された主人公は弾薬運びとなる。前作とは異なり今作は著者自身が主人公という私小説の体裁をとっている。龍陵会戦を体験した東北出身の「勇」師団の兵たちに取材する。 古山氏…

植物採取の国(2012)

風船のふくらみにパテをこすりつける金具の連結に付着した分泌物 標準的な時間になって わたしは犬を ひろった、生あたたかい 機械の熱、指紋と、耳の 紋様の、二重の航跡から じわじわとしみこんで わたしともうすこし幼い子供たちのからだが 加熱された 高…

『断作戦』古山高麗雄

古山戦記三部作のはじめ。騰越作戦で生き残った芳太郎について。中国戦線での雲南もまた激戦区であったらしい。これは小説だから書き手は古山ではない。 落合一政は、従軍経験者と親交を結ぶうち、詩人である吉田に戦争体験の手記を書いてみないかとすすめら…

『突破者』宮崎学

彼の生まれた京都は旧時代の要素が多く残っていて、差別や貧困のもとで育った。早稲田に入学して学生運動に身を投じたときも、まだ昔の雰囲気は残っていた。貧しさや暴力、人間同士の濃いつながりといったものが、戦後まだ存在していたのである。 本書に書か…

抗菌の湖(2012)

カクタスのよだれ、雨どいの ふちにこしかけた、その家族は よだれを秤にかけた 流れるように、また 白山をながめる 同時にサボテンから、抽出した、妹の または、羊のよこに立った娘の 幻覚を見る 死人の顔がたくさん、平行に スライドする風景があらわれた…

『F1ビジネス もう一つの自動車戦争』田中詔一

ホンダレーシング部門の元締めとして働く著者が、F1業界を詳しく説明する。F1は海外では、日本における野球と同じように、試合そのものだけでなく業界をも含めた広範な関心を集めるスポーツである。 日本におけるモータースポーツはまだ発展途上であり、これ…

『歴史人口学で見た日本』速水融

歴史人口学ははじまってからまだ日の浅い学問である。著者がこの学問を知ったのは偶然だが、その独創性に魅入られたのだという。フランス、イギリスでは教区簿冊とよばれる資料を用いて家族復元をおこなっているが、これにヒントを得た著者は宗門改帳を用い…

馬と星のならわし(2012)

夜中、窓の火が消えて、まばらな星と 黒くおちくぼんだ水面しか 映らなくなった、そのような 気温の問題 冷えて、草や石の道に そって、植込みにミントと ラッパ形状の花をもつ、固定の植物 これらの表面にはうっすらと氷が付着している 羊、羊とよく似たど…

われらの不正な橋(2012)

声を、くりぬいた人、ミントを ちぎって、コップのお湯にひたす うす状の、やわらかい山につくられた 都市にすんでいる。 泥とサボテンをまぶした、葉のきれはしを まぶした そのおわり 管理者が、この人物は からだ、ニスをぬった、血の気の ない肌のうえに…

『A journal of the plague year』Daniel Defoe

古い本のためか、ところどころ今と意味の異なる単語があるようだ。たとえばshyは、(感染者から)逃れたがるという意味で使われている。 一六六五年、イギリスで発生した大規模なペスト禍の記録である。語り手はロンドン市内の商人であり、各教区parishでの…

『第三の男・落ちた偶像・負けた者がみな貰う』グレアム・グリーン

グリーンの娯楽作品三つが収録されている。 『第三の男』では、冷酷な犯罪者に変わり果てた友人を密告する男が描かれる。ハリーは終戦直後の混乱したウィーンで偽ペニシリンを扱う闇商人となっていた。彼に招かれた三文小説家ロロは、ハリーの本質を知らされ…