第1次大戦から帰ってきた、自暴自棄気味の青年が主人公の話。後のフォークナー小説に登場する人物も何人か現れる。
銀行経営の老ベイヤードは御者の黒人サイモンから、孫のベイヤードが第一次大戦から帰ってきたと告げられる。父はジョン・サートリスである。
ベイヤードが帰ってきて、老ベイヤードと叔母のジェニイが迎えた。ベイヤードの双子の弟ジョニーはドイツの戦闘機に撃墜されて死んだ。
サートリス家に仕える黒人一家はサイモン、その子キャスビイ、その孫アイサムだ。キャスビイは大戦に行ったうぬぼれから白人にたいして横柄になるが、すぐ老ベイヤードにはりたおされる。ベイヤードは自動車を買って叔母ジェニイとアイサムを乗せた。二人は車のとりこになった。老ベイヤードは、車を嫌い、車に乗る人間には金を貸さなかったから、この事態に怒る。
サートリス家は寿命で死ぬことがなかった。曰く、彼らは戦争を口実にして自殺するのだ。
――サートリス家の人びとが、彼の若いころの紳士であるならあざけりとばしたであろうもの、今ではどんな貧乏人でも所有し、どんな馬鹿者でも乗りまわすことのできる機械に乗って、出たり入ったりしているのを見つめていた。
ベイヤードはスピード狂である。町に出て、種馬に乗ろうという無謀なふるまいをして、落馬する。怪我をした直後に酒を飲んで車で暴走する。
第一次大戦と、弟ジョンの死は彼に生きることを面倒にさせた。「兵士の故郷」と似た雰囲気がある。
ヨーロッパからかえってきた明るい好青年ホレス・ベンボウと、彼を溺愛する妹ナーシサ、それに隣近所の養母に近いサリィ叔母。貧農の大家族スノープス家。
「しかし彼女は一九〇一年以後のことに対しては、それがどのようなことであれ、おだやかなうちにもきっぱりと自分の心を閉ざしていた。そして完全に過去のなかに生きていた。彼女にとっては、時は馬にひかれて去っていったのであり、そのあとに残されたかたくななまでに静かな空白のなかには、自動車の、きしるような制動器の音などは、まったく入ってこなかった」。
ベイヤードは一人で事故をおこして、療養するはめになる。だが、まだ死ななかった。
人間への憎悪を糧に生きるらばの話。ナーシサは結婚した兄に絶望して、ベイヤードとともに行動するようになる。車をとばしていたベイヤードは山を滑落してしまう。彼は平気だったが、同乗していた老ベイヤードは死んだ。彼はポニーで遁走する。
――オマエハ自分デ考エテミテモウマクイクハズハナイ、イヤ、不可能ダトワカッテイタヨウナコトヲワザトヤッテ、ソレデイテ、自分ノヤッテシマッタコトノ結果ニ顔ヲツキ合ワセルノヲ恐レテイルンダ……
ベイヤードのみならずサートリス家には死相が出ている。
老ベイヤードの友人ヘンリイらは、皆ヤンキーのことをいまだに根に持っている。彼らは負けた国なのだ。
「レフのはなしでは、おとっつぁんとストンウォール・ジャックソンは、けっして降服しなかったんだそうです」。
連邦政府の、ヤンキーの軍に加わってヨーロッパ戦線に行くなどけしからんと老マッカラムは言った。ベイヤードはマッカラムの家に逃げ出していたが、祖父を死なせたことはじきにばれるだろう。彼はクリスマスに汽車で帰る。クリスマスにはみな祝い、爆竹をならす。
メキシコからカリフォルニアへと放浪したベイヤードは、デイトン飛行場での試験飛行のパイロットを引き受け、その飛行機、「紙の上でだけよくとぶ殺人機」は空中分解した。
「あれは行く用もないところに行って、自分にかかわりのないことをやったのですよ」。
ナーシサとベイヤードの赤子だけが残される。