うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

◆日本のフィクション

『龍陵会戦』古山高麗雄

『アーロン収容所』からのビルマつながりで読む。 「勇」師団管理部衛兵隊に配属された主人公は弾薬運びとなる。前作とは異なり今作は著者自身が主人公という私小説の体裁をとっている。龍陵会戦を体験した東北出身の「勇」師団の兵たちに取材する。 古山氏…

『断作戦』古山高麗雄

古山戦記三部作のはじめ。騰越作戦で生き残った芳太郎について。中国戦線での雲南もまた激戦区であったらしい。これは小説だから書き手は古山ではない。 落合一政は、従軍経験者と親交を結ぶうち、詩人である吉田に戦争体験の手記を書いてみないかとすすめら…

『笛吹川・甲州子守唄』深沢七郎

笛吹川は戦国時代の武田氏のもとで生きる農民を、甲州子守唄はおそらく戦前から終戦までの、山梨の農民の生活を描く。 笛吹川では、百姓は力をもつ武士に翻弄される。昔から武士に斬殺されたりと怨みしかなかったにもかかわらず、若い息子たちは「先祖代々お…

『生きている兵隊』石川達三

南京攻略にむかう日本兵たちのすがたを描く。国家の問題に動員される人間はさまざまである。開高健にも取り上げられていた僧兵から、現実と妥協することのできるインテリまで、人間の性質は多岐にわたる。 ほとんど過去形しか使われておらず、特定の人物に視…

『短編小説傑作選』邱永漢

「濁水渓」 台湾統治の情景、内地人(日本人)と本島人(台湾人)との関係が詳しく描かれる。日本がかつてれっきとした宗主国であったことに気付かされた。 たしかに展開が散漫で文も印象には残らないが、政治変動のもとで生きる人びとが克明に解説されてい…

『野呂邦暢・長谷川修往復書簡集』

ボルヘス『不死の人』を二人とも評価している。リアリズム、日記文学からの解放を目指していたようだ。 芥川賞が文学を志す人間の登竜門であり、原稿料で生活することで作家になれる、また書き手に不足している時代だった。 リアリズム・私小説派と反リアリ…

『紙の中の戦争』開高健

「塹壕の中のことは語らない」ということばにあるように、戦場は本来極度に言い表しにくいものである。 開高はわたしと大分異質な人間なのか、読んでいると頻繁にひっかかる。つねに感心しうなづきながら読める文章があるとすればこちらはその反対である。か…

『口奢りて久し』邱永漢

『中国の旅、食もまた楽し』につづく邱永漢の料理本。 ――進化とは、違った角度から見れば退化のことだから、これは無理からぬことかもしれない。ちょうど自動車が普及すれば足は退化するように、自分で料理する必要がなくなれば、舌も退化する。アメリカ人が…

『中国の旅、食もまた楽し』邱永漢

大陸の中華料理にこだわったエッセイで、自分のいってきた場所も紹介されている。ウルムチ、トルファンあたりの観光ルートはわれわれが行ったのとそっくりそのままで、あれほどの僻地においても観光業が確立しているのだとおどろかされた。 香港は邱永漢によ…

『続・春日井建歌集』

「白雨」 「未青年」にあったような鮮烈さ、血の匂いはなく、前に読んだ歌集の、後半部と同じく、枯れた調子の歌が並んでいる。 ――降る雨は光あまねく充ちてゐる空をぬけきて木立をぬらす 水墨画のような、白黒の風景と、淡い光線、白くぼうっと輝く雲をおも…

『塚本邦雄歌集』

戦後短歌の有名な人の作品を集めたもの。細かいこと……『透明文法』、『水葬物語』、『装飾樂句(カデンツァ)』、『緑色研究』など。 「透明文法」…… 無風景の、言葉の奇抜な組み合わせを重視した歌が多い。春日井建のような情緒はない。旧字体が印象に残る…

『敦煌』井上靖

人間の戦争と転変を、雲の上から眺めているような静かな歴史小説である。 主要な人物は三人、科挙に落ちて西域に流れた趙行徳、西夏漢人部隊の将、朱王礼、亡びた王朝の末裔である尉遅光(うっちこう)である。 趙行徳は、ウイグル王族の女を犯すとき、西夏…

『フーコン戦記』古山高麗雄

九州在住の老人が、自分の従軍したフーコンについての思い出を滔々と語る。 彼はビルマのフーコンに送られ、そこで激戦を経験したが、このことはあくまで彼個人の体験にすぎない。個人の体験にすぎないものを、平和のため、反戦のためという名目で喧伝したり…

『ロンドンの味』吉田健一

本の解説や雑誌の短評、全集に織り込まれた評論などをジャンル別に集めたもの。第一部が料理関係の雑誌『あまカラ』などに掲載した食や名産品などにかんする文章、第二部、第三部はおもに英文学について、第四部は日本文学についての文章を扱う。 *** 吉田健…

『春日井建歌集』

「未青年」の序が趣があってよい。 ――少年だつたとき 海の悪童たちに砂浜へ埋められた日があつた ……ああ日輪……ぼくの真上には 紫陽花のような日輪が狂つていた 序、本編の歌にも、太陽の出てくることが多い。 ――太陽を恋ひ焦がれつつ開かれぬ硬き岩屋に少年…

『孤島の鬼』江戸川乱歩

なんの変哲もない生活から、異常な人間たちの世界にまきこまれていく話。 主人公の賃金労働者は、恋人を殺される。これを調査していた友人の探偵も殺される。主人公のことを好いている同性愛者の友人がいて、2人は協力して犯人をつきとめようとした。 雑記…

『無関係な死・時の崖』安部公房

短編ごとに種類はまったくちがう。ことばは平坦でわかりやすく、「ぼく」という人称が鼻につく以外は、とくに不快なところがない。古臭い、堅苦しい小説調子のことばでないところが重要だとおもった。 「夢の兵士」……脱走兵を追い詰めてみたら自分の息子だっ…

『遺跡の声』堀晃

下級の遺跡調査員と、かれが育てている知的生命結晶体「トリニティ」は、銀河の辺境にのこされた生命体の遺跡をまわる。惑星の様子や、地球のものとはかけはなれた生命の図像が鮮明でおもしろい。どこかでみたような宇宙人もいるが。 文と人物はつねに冷静で…

『香港発・娘への手紙』邱永漢

――いままでパパの周辺で殺された人たちをみると、そのほとんどが「俯仰して天地に愧じず」と考えている人たちです。悪い人が罪に問われたり、ひどい目に遭わされるわけではないのです。そんなことよりも、現在自分がやろうとしていることが、どんな反応をひ…

『紫苑物語』石川淳

「紫苑物語」、「八幡縁起」、「修羅」の3篇を集めた本。どの話も古代の日本とおぼしき場所を舞台にしていて、ひらがなが多い。ことばを注意ぶかくえらんでつくっているという印象をうけた。 「紫苑物語」……弓で人を殺すことにとりつかれた守の話で、ばけた…

『細雪』谷崎潤一郎

関西に住む中流家庭の4人姉妹(特にそのうちの3人)を題材にした話。姉妹のうちの1人は社会性がなく30を過ぎても見合いがうまくいかず未婚だった。また末っ子は才気走っているが、身分違いの人間と付き合う、複数人の男と付き合う、結婚前に妊娠する等…

『桜の森の満開の下・白痴』坂口安吾

中学生の頃に読んで、さらに最近読んだ。 どうでもい短編や掌編が混ざっているので読み飛ばした。 著者の話には、たびたび女の肉体、恋、肉体のない恋といった言葉が登場するが、これら一連のテーマはわたしにはどうでもよいものである。本と相性が合わない…