笛吹川は戦国時代の武田氏のもとで生きる農民を、甲州子守唄はおそらく戦前から終戦までの、山梨の農民の生活を描く。
笛吹川では、百姓は力をもつ武士に翻弄される。昔から武士に斬殺されたりと怨みしかなかったにもかかわらず、若い息子たちは「先祖代々お屋形様(武田家)のご恩に預かってきた」と参戦を煽られ、武将とともに立てこもって焼死する。
不潔さも含めて綿密に描かれる農民たちに対して、武士はほとんど描写されず、雲上の人のような印象を受ける。人間はすぐに年をとり、子供が生まれるのも早い。
甲州子守唄のなかでは、終戦間際の闇市での取引が詳しく書かれている。また、アメリカ帰りの徳次郎が自分の資産を東京の銀行に預ける経緯について確認した。
田舎の農民にとって戦争は天災にすぎない。