「紫苑物語」、「八幡縁起」、「修羅」の3篇を集めた本。どの話も古代の日本とおぼしき場所を舞台にしていて、ひらがなが多い。ことばを注意ぶかくえらんでつくっているという印象をうけた。
「紫苑物語」……弓で人を殺すことにとりつかれた守の話で、ばけたきつねが青年にとりいって、国政をみだすようにそそのかす。守は衝動につきうごかされてついに自分と、ばけぎつねの女といっしょに焼け死ぬ。人がよく死に、心もみなつめたい。風景は鮮明だが、時代や場所はぼやけていて、どこかわからないようになっている。
「八幡縁起」……神さまと、山、古代人が交流して、おたがいに殺しあう話。途中、歌がはいったり、多少中だるみするところはあるが、「紫苑物語」とおなじく、この話でも、人びとは力と欲にとりつかれて山や神を殺そうとする。
「修羅」……応仁の乱のとき、鬼になった姫や、一休宗純、ほか足軽などが入り乱れて交流し、殺しあう。