うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

◆その他の本

『無門関』

中国宋代の禅僧無門慧開による公案集。 形式としては、禅僧たちの問答を紹介したあとに、慧開がその問答にけちをつけるというものである。禅僧たちの問答も意味不明だが、それに対する慧開の批判も難しい。 パタン……□□は何か? に対し、こうだ、と答える。そ…

『ラテン語のはなし』逸身喜一郎

「ラテン語を語ることは、おのずとヨーロッパを語ることになる」。 ラテン語は古代ローマの言語であり、ヨーロッパ文化に多大な貢献をなした。いわく、ラテン語最大の遺産は、「こみいった複雑な内容を、論理構成のしっかりした、あいまいさの少ない文章で書…

『プルードン・セレクション』

フランスの無政府主義者の著作を抜粋したもの。 アナーキズムということでテロや暗殺のイメージが強かったが、本書によればプルードンは当時社会的にも認められており、貧乏だったが何度か代議士にもなったという。 無政府主義の内容については、わかりやす…

『ハイラスとフィロナスの三つの対話』バークリ

1713年に出版された本。 バークリは経験論者の立場から、「知覚の原因物質が外界に存在することを否定し」、非物質主義哲学を提示し、懐疑主義者その他に反論する。 自分の論文をわかりやすく説明するため、学生ハイラスと学者フィロナスの会話をとおし…

『世論』リップマン (2)

民主主義のシステムにおいて、こうした現実把握の形式はどのような障害となるのか考えていく。後半は、民主主義が成立するまでの試行錯誤と、民主主義にとって世論形成がどのような役割を果たすかに、とくに分量が割かれている。 われわれは、自分の経験しな…

『世論』リップマン (1)

◆所見 民主主義と報道、情報を考える上でとても参考になった本。 民主主義は様々な政策決定に国民が関わる。正しい判断をするためには正確な情報が必要である。しかし国民が自分の生活圏を超えた事項についてそうした情報を得るのは困難である。このため、わ…

『利己的な遺伝子 <増補新装版>』ドーキンス

遺伝子と進化の関係を、いろいろな例をあげて説明する本。ドーキンスは、生物の利己主義と利他主義について研究し、進化論の重要性を説明する。 著者はまず、利己主義と利他主義を定義する。「ある実在(たとえば1頭のヒヒ)が自分を犠牲にして別の同様な実…

『大学生物学の教科書 1』サダヴァ

1巻は、細胞生物学について説明する。 細胞の構造と機能、原核生物(古細菌と真性細菌)の特徴、真核細胞(動物、植物、真菌類、原生生物の細胞)の特徴、その内部の、多様な小器官について、また、生体膜の構造と機能、生命活動に関連する生化学反応、その…

『日本に足りない軍事力』江畑謙介

今は事情が変わっている箇所もあるようだ。 安全保障とは、 1 経済的制約2 技術的制約3 政治的制約 といった条件のなかで「予想される脅威に対して備えておく」ことをいう。脅威に対して、適切な防御対策を実施することが重要である。 ――……日本には遠方に…

『日本人は人を殺しに行くのか』伊勢崎賢治

安全保障法案に反対する著者の本。 1 国連憲章は、国連的措置(すなわち集団安全保障)が行われるまでの間、各国に対し個別的および集団的自衛権を認めている。 個別的自衛権と集団的自衛権は、国益を守るために行われる。一般的に、自衛権の行使に際して、…

『過激派事件簿40年史』

戦後の学生運動時代から、最近までの過激派の犯罪を紹介する。事件の概要と、当時の背景が説明され、左翼運動の変遷、組織の展開を知ることができる。安保闘争、新安保闘争の時代には、活動家に加えて、大学生や労働者もデモ等に参加していた。やがて、一部…

『The structure of scientific revolution』Thomas S. Kuhn

科学の発展は、パラダイムの転換によっておこなわれる、という主張の有名な本。 科学は科学者集団によって営まれる活動である。通常科学とは、科学的な業績に基づく、さらなる基礎と実践を加えるための研究である。 通常科学において、高度の説得力をもつ、…

『現代イスラエルの預言』アモス・オズ

作者はイスラエル人の作家で、シオニストのハト派として政治活動をおこなった。この本では、シオニズムの成り立ちが紹介され、また、イスラエルアラブ紛争についての見方が示される。 作者は平和運動を進めるが、自分の立場があくまでイスラエル側であること…

『文学と哲学のあいだ』照屋佳男

◆オーウェルの文学について かれは人間の自立性を重んじた。自分の感情が、自律のための原動力であるとオーウェルは考え、追い詰められたときにこそ、自分の我を貫きたいという欲求が生じる、と述べた。 また、彼によれば作家のための前提として3点の心的態…

『Politics among nations』Morgenthau

国際関係論のうち、リアリズムの代表的な本のひとつとのこと。 *** 第1部 政治思想にはリアリズムと理想主義の2派がある。リアリズムは政治の世界を人間の権力の結果ととらえる。世界の改革は力の原則を通しておこなわれる。リアリズムは抽象原理よりも歴…

『敵あるいはフォー』クッツェー

ロビンソン・クルーソーを下敷きにしたフィクション。古典を題材に、物語や歴史とは何なのかを検討する。 無人島にながれついた女のつぶやきから本がはじまって、本家とちがって生気のないクルーソー、黒人のフライデーなどが登場する。どういう展開になるの…

『憲法と平和を問いなおす』長谷部恭男

立憲主義とは何かを考える本。立憲主義の成立には、戦争と平和が深くかかわっている。 立憲主義は、「憲法典への服従」ではない。 ヘンキン教授は立憲主義の定義を次の2項目とする。 ・人民主権とそれに基づく代表民主制 ・権力分立及び抑制・均衡、個人の…

『自由と社会的抑圧』シモーヌ・ヴェイユ

フランスの哲学者の本だが、内容が難しかったので漫然としたメモになった。 マルクス主義を批判し、人間の歴史が常に抑圧とともにあった事実を検討する。人間を、自然や社会形態、権力から解放するためには、個人の自由な思考が重要である、と考えているよう…

『自動車絶望工場』鎌田慧

トヨタの劣悪な工場労働を記録した古典的な本。著者は他にも炭鉱夫について本を書いている。 企業が唱えるスローガンの嘘くささは現在もまったく変わっていない。単調な作業について、一日目は記録できるが、二日目からは何も言うことがない。退屈は言葉を奪…

『夜の言葉』ル=グウィン

『ゲド戦記』の作者グウィンの創作論。伝統的に子供向けの幼稚なジャンルとされてきたSFやファンタジーの価値を検討する。 グウィンが作風を確立するためには、SFというジャンルのなかでの試行錯誤が必要だった。 一定のジャンルに沿って書けばそれだけで…

『小説の黄金時代』スカルペッタ

現代小説12作品についての批評。日本語が難しかったので飛び飛びにしか読んでいない。 サルマン・ラシュディ『悪魔の詩』は一神教体制にたいするアイロニーの書である。宗教がほかのすべての言語、テクストを犠牲にしてひとつの言語を確立するのに対し、文…

『ジョイスとケルト世界』鶴岡真弓

アイルランド、アイリッシュ・ケルトはヨーロッパの周縁を前線に逆転させ、珍しいことばや形象をうみだした。 全米で三月に行われる聖パトリック祭はもともとアイルランド移民のイベントだった。三つ葉のクローバーは「シャムロック」、緑色。 一八四〇年の大…

『比較言語学入門』高津春繁

比較言語学とは近代に創始された学問であり、特にインド・ヨーロッパ語族(印欧語族)を対象とする。言語学は19世紀から20世紀にかけて大きく発展したが、本書で紹介される方法は今でも有効性を持っている。 第一章 言語の比較研究 比較研究はおもに三つ…

『時間』吉田健一

時間の観念についての本。吉田健一の本のなかでも特に文体の特徴が強く出ている。 ――併し一秒前の針の位置が三秒前、四秒前のことになってその四秒前が過去であると考えるのは物理的な所謂、時間が頭にあってのことでそれならば過去、現在の区別も全く物理的…

『武装解除』伊勢崎賢治

国際NGO、国連等で紛争地帯の武装解除に取り組んできた人物の書いた本。 紛争を調停し、武装を解除させ、民主化を支援する仕事がどのようなものかを解説する。NGOや人道支援ビジネス、紛争の実態について詳しく書かれている。 紛争の調停は現地の武装…

『外国語上達法』千野栄一

外国語学習をする人間に必読だと評判の本。千野氏は語学の才能がないことに失望し、ポリグロット(多言語使用者)の伝記をよく読んだ。彼いわく才能もあるが、それだけでなく上達法も大切なのだという。 バイリンガル、二つの言語を同等に使いこなせるには努…

『英語と英国と英国人』吉田健一

『吉田健一著作集 Ⅸ』に収録されていたもの。英語学習のアドバイスや、英国人と英国文化についての漫談。 この本は英語を勉強するときの参考になった。 「英語と英国と英国人」 著者によれば、外国語は外国語と開き直って取り組むべきである。 「外国人は一…

『声の文化と文字の文化』オング

口語文化と文字文化との大きな違いを論じる。科学や哲学に含まれる特長の多くは人間生来のものではなく書く技術がもたらしたものである。本書では声文化と文字文化をそれぞれオラリティー、リテラシーと呼ぶ。 「ホモ・サピエンスが地上に出現したのは、いま…

『批評の途』ノースロップ・フライ

副題は「文芸批評の社会的コンテクストにたいする試論」。フライはブレイクの解読を足がかりにして、批評の役割を考えていた。 文学を、学問や思想から切り離し、作品そのものとして受け入れる立場をとる。 所々難しくて理解できない箇所がある。 第一章 ――…

『言葉の秘密』エルンスト・ユンガー

ドイツ語についての文章が多いため、ドイツ語が読めない私には8割方理解できなかった。 母音頌 ドイツ語ふくむ印欧語では母音はあらゆるものの根源をなす。われわれが記憶において日付よりも視覚像を鮮明に思い出すように、言葉において母音は描線にたいす…