うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

◆その他の本

『言語を生みだす本能』スティーブン・ピンカー その1

言語を習得する本能について説明する本。著者は特に言語学等の一般向け書籍を多く書いており、本書も文章、構成ともに明快で読みやすい。 1 ヒトの最大の特徴は言語能力である。従来の説や先入見と異なり、著者は、言語は人間の本能に基づく能力であり、文…

『新しいウイルス入門』武村政春

ウイルスは生物とはみなされていないが、ではいったい何なのか。 *** 1 生物に限りなく近い物質 ウイルスは生物に限りなく近い物質である。生物学では細胞を持つものが生物であると定めているが、ウイルスは細胞を持たない。 形……核酸がタンパク質の殻で囲…

『日本の象徴詩人』窪田般弥

ヨーロッパの象徴主義運動を解説した後、日本における受容や、日本の象徴詩について考える本。前提となる知識が足りないので、読みにくかった。 エドマンド・ウィルソンによれば、「フランスの象徴主義の運動は、ロマン主義者が手をつけずにいた韻律の諸法則…

『ニコマコス倫理学』アリストテレス その2

つづき 徳のある情念及び行為とは、それらが随意的(アクシオン)である場合に限る。すなわち、自覚的になされたものであるということ。 ――……大いなるうるわしきことがらに対する代償として何らか醜悪な苦痛的なるものに耐えるのであれば、ときとしては、こ…

『ニコマコス倫理学』アリストテレス その1

第2巻より……この本は、われわれが善き人となるためのものであり、純粋な研究ではない。 何をなすべきか、なさないべきかを知らなければ、人間は自然に悪い方向に流れていく。そういう人間は自分の生活がうまくいかず惨めな状態に陥ることになる。 ◆メモ 古…

『シュルレアリスムとは何か』巖谷國士

シュルレアリスム、メルヘン、ユートピアについての講演。それぞれの様式が、どのような意図で作られているのかを考える。 1 シュルレアリスムの定義について、誤った解釈が広まっている。シュルレアリスムは写実性、客観性を重視する。 シュルレアル=超現…

『ワンダフル・ライフ』スティーヴン・ジェイ・グールド

1章 バージェス頁岩の研究を通して、生物進化の歴史を説明する。 バージェス頁岩はカナダのブリティッシュ・コロンビア州東端ヨーホー国立公園内のロッキー山中にあり、無脊椎動物の化石群を擁する。頁岩の化石動物群は、5億7千万年前の多細胞生物の爆発…

『政治過程論』伊藤光利、真渕勝、田中愛治 その2

つづき 政治過程を考える上での、一通りの分野が網羅されている。興味のある事項はさらに専門的な本を読んで調べることができる。 3部 組織化 7 利益団体 今日の政治は、利益団体の存在を無視して考えることができない。 大別……セクター団体は経済的利益を…

『政治過程論』伊藤光利、真渕勝、田中愛治 その1

教科書 モデル、理論を利用して政治現象を実証的に研究し、さらにモデル等を発展させていく今日の政治過程論について教育するもの。各分野における研究について説明する。 1部 理論と概念 1 理論と方法 政治過程論は、政治家、政党、官僚、利益団体、市民…

『新版暗号技術入門 秘密の国のアリス』結城浩

暗号技術をわかりやすく紹介する入門書。特に情報技術の発展した現在では、暗号技術に対する理解が不可欠である。 暗号というと原始的なトンツーを思い出してしまうが、中心はコンピュータである。 *** 1部 暗号 1 暗号の世界ひとめぐり 暗号は、機密性、…

『田中清玄自伝』

何をしたのかよくわからない人物の自伝。本書だけを読んでも、客観的な経歴や成果を知ることはできないようだ。 1 自分の一生は次のとおりであると説明する。 ・コミンテルンと共産党の仕事で上海に渡る。 ・治安維持法で逮捕され1930年から1941年…

『現代のイスラム金融』北村歳治 吉田悦章

1 歴史 イスラム金融は「利子」の禁止、現物取引の前提、PLS(損益分担方式)、アルコール等の忌避ビジネス等を特徴とする。 イスラムの経済的活動は近代になると西洋に押され低調となり、またオスマン帝国がヨーロッパの銀行制度を用いたため退潮した。…

『英米法総論』田中英夫 その4

7 法の実現方法 総説 英米法とくにアメリカでは、「民事上の救済もまた法の目的とするところの実現の手段であるということを強調し、民事上の救済手段にも、法違反に対する制裁、法違反の抑止という機能を積極的に期待する」。 同様に法の実現においては私…

『英米法総論』田中英夫 その3

4 コモンウェルス 植民地統治はエリザベス1世の時代から始まった。 第1次大戦後は各自治領が準独立国の地位を得て、1931年ウェストミンスター憲章によりカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、アイルランド、ニューファンドランドは…

『英米法総論』田中英夫 その2

2 イギリス法の歴史 1066年ノルマンコンクエストによりノルマンディー公ウィリアム1世が国王となった。1085年の測地はドゥームズデイ・ブックにまとめられた。 1215年、国王ジョンに対し貴族と教会、ロンドン市民が文書をつくり承認させた。こ…

『英米法総論』田中英夫 その1

英米法の解説をもとに、イギリス、アメリカのものの考え方を検討する。 1 概観 英米法はイギリス法の伝統に多く影響を受けた法をさし、イギリス、アメリカの各州、コモンウェルス、インド等の法が該当する。 英米法が大陸法と異なる発展を遂げた原因は、ロ…

『森と芸術』巌谷國士

森をテーマにした美術作品の系譜をたどる。 森の歴史は人類よりも古く、かつて耕作がおこなわれる前、人類は森のなかで生活していた。このため森は「文明」に対する「野蛮」、「野生」の意味合いをこめてえがかれた。 旧約聖書の楽園は森に囲まれている。 森…

『The Essential Chomsky』

言語学者ノーム・チョムスキーの文章を集めた本。 言語学についてはわたしの素人知識では読みにくい部分が多いが、政治的なエッセイは明快だった。 ◆感想 チョムスキーの政治的立場は、自由主義、人権、民主主義を重んじるものである。かれは大国による侵略…

『戦争における「人殺し」の心理学』デーヴ・グロスマン

「敵を殺すこと」について心理学の視点から検討する本。 戦争は人間の活動の中心であり、歴史以前から続いてきた。時代や技術レベルが変わろうとも、敵を殺すこと、つまり殺人が戦争の中核であることは否定しようがない。 著者は軍人だが、殺人の経験はない…

『文化の国際関係』ミッチェル

本書は文化交流の性格と発展、その組織と運営、実践されている活動について論じる。 *** 文化交流、文化外交は、国際関係において重要な位置を占めている。文化交流の本質は理解することであり、文化の相互理解が友好に役立つ。 文化外交や文化宣伝は、それ…

『ゴルギアス』プラトン

弁論とは何かについて。プラトンの善に対する強烈な思い入れが感じられる。 ◆メモ 『ゴルギアス』はソフィスト・ゴルギアスとソクラテスらの対話である。 ゴルギアスは「すぐれた弁論術」をもつ弁論家である。弁論術とは「言論について」(p.17)の技術であ…

『統合失調症』林公一

1 医師が病気について勉強するときはまず症例を調べる。本書は統合失調症の症例をわかりやすく示すことを目的とする。 統合失調症は脳の病気であり薬を飲まなければ何も始まらない。 2 統合失調症は100人に1人の割合で発症する。主に20歳前後に発症…

『公認会計士VS特捜検察』細野祐二

本書は粉飾決算を関係者とともに共謀したとして逮捕され、東京地検特捜部から起訴された公認会計士の体験を題材とするものである。 1 経緯 公認会計士細野は株式会社キャッツの経営アドバイスを行っていた。キャッツの社長である大友と、経営首脳の村上らは…

『不確定性原理』都筑卓司

量子力学の根幹である不確定性原理について、たとえ話を用いて説明する本。 体系的にわかりやすく理解させるのではなく、エピソードを通して、あくまでも量子力学や不確定性原理の本質やイメージを伝えることを目的としているようだ。 *** ラプラスの悪魔は…

『国会事故調報告書』東京電力福島原子力発電所事故調査委員会

原発事故についての調査報告書。分厚いが、内容を理解しやすいように書かれている。 結論 共有認識……東日本大震災に伴う東京電力福島原子力発電所事故は現在も収束しておらず被害が継続している。 根本的な原因……シビアアクシデント対策や住民保護など、東京…

『日本の統治構造』飯尾潤

日本の政治制度について説明する本。特にシステム面について検討した本であり、読みやすい。 はじめに 議院内閣制は、行政権の成立根拠を議会すなわち政権党に置く制度である。 ――本書は、日本における議院内閣制の分析を通し、国会、内閣、官庁、政治家、官…

『国際宇宙ステーションとはなにか』若田光一

国際宇宙ステーションの概要から、宇宙飛行士の仕事までを説明する。宇宙飛行士はパイロットと同様、心身ともに高い水準を要求される。最後のスローガンは子供のように単純だが、それを実行するのは大変困難である。 1 ミニ地球 国際宇宙ステーションIntern…

『頭脳勝負』渡辺明

竜王が将棋の魅力を紹介する。 将棋は技術だけでなく精神力も要求される。相手との駆け引きや、態度が勝負を左右する。 どのような手を打つか考えるためには、長時間にわたる集中力のコントロールが必要である。 戦型には大別して居飛車と振り飛車の2つがあ…

『生命とはなにか』シュレーディンガー

物理学者シュレーディンガーによる、生物を物理の言葉で説明する本。生物もまた物理法則に基づく現象の1つであることを示す。 若干難しいのでさらに勉強が必要だと感じた。 生きている生物体の空間的境界の内部でおこる時間・空間的事象が、物理学と化学に…

『慈悲』中村元

古来、日本人の精神に大きな影響を及ぼしてきた「慈悲」の観念について考えることを目的とする。 *** 1 慈悲は仏教の中心的な徳であり、仏そのものともいわれる。 慈悲の重要性は現代において高まっている。それは、宗教の相対性が強く浮彫になったからであ…