本書は粉飾決算を関係者とともに共謀したとして逮捕され、東京地検特捜部から起訴された公認会計士の体験を題材とするものである。
1 経緯
公認会計士細野は株式会社キャッツの経営アドバイスを行っていた。キャッツの社長である大友と、経営首脳の村上らは、証券外務員及び証券代行会社の常務に騙されて、巨額の資金と株を貸してしまう。かれらは資金と株を仕手に渡し、仕手はキャッツ株の買い占めを行った。これが株価操縦であるとして後に経営陣の逮捕につながった。
株価操縦について特捜検察が取調べを行ううちに、公認会計士の細野が呼び出される。かれが守秘義務を守るために情報提供を拒否したため、検察は憤り、会計士を犯罪者に仕立てようと考える。
検察は、会計士がキャッツについて粉飾決算を行う計画を立案し実行したというストーリーを作成し、本人らに同意をせまった。
経営者や弁護士はこのつくられた供述調書を認めたが、会計士は強硬に反対した。ここから、かれの検察との戦いが始まった。
1審ではずさんな起訴理由にも関わらず有罪となり、控訴審では検察のつくったストーリーの大部分が誤りであると証拠を提示したが、判決は覆らなかった。
2 背景
検察の起訴有罪率は99.9パーセントである。日本の司法においては推定無罪は建前に過ぎず、検察のストーリーはほぼ確実に裁判官によって認められる。
佐藤優『国家の罠』で有名になったように、検察は国策の一環として事件と犯罪者を造り出し、国民の世論を導き、あるべき社会の姿を示そうとする。
検察は従来の政治犯罪から経済犯罪へとターゲットを移し替えようとしていた。ちょうど、粉飾決算が社会問題になっていた時期であり、キャッツと公認会計士はこの世情の流れにうまく利用されてしまった。
3 司法の問題
起訴された容疑者は過酷な環境で嘘の供述にサインを迫られる。また、有罪率の高さから、容疑者は始めから有罪であると考えられ、マスコミや周辺住民、大家から迫害を受ける。
検察は事実の追求をせず、自分たちの考えたストーリーを認めさせることしか考えないため、事態解決にはならない。
さらに、検察及び裁判官は経済知識、会計知識が未熟なため、主張をしても全く聞き入れられない。
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会計士は企業の価値を算定し、監査を行う。公認会計士の監査を元に有価証券報告書がつくられ、株式市場が成立する。会計士は企業と深く関わる職業である。
人間は追い詰められると他人を売り、責任を逃れようとする。