うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『自白の心理学』浜田寿美男 ――無実の罪で捕まったら警察を説得できると思ってはいけない。ロボットだとおもえ

 

 

 

所見

ことばはしばしば現実から遊離し、現実を裏切り、現実を歪める。それは捜査においても、裁判においてもそうである。そうしてことばは現実にはなかった物語をあたかも現実の物語であるかのように立ち上げることがある。

 

本書によれば……

自白は捜査において非常に重視されるが、警察の圧迫による「うそ」の自白が無数の冤罪事件を生んでいる。その根本原因は、捜査と取り調べの方法である。

警察は、例えば政治警察のように意図的に無実の罪を押し付けようとしているのではなく、犯人であることを確信して圧力をかけているのである。組織としてのメンツを保ちたい、間違いを認めたくないという意識が働く前に、まず現場の思い込みという問題が存在する。

 

本書における捜査官、取調官の振る舞いを見ると、思い込みの激しい、判断力のない人物が権限を持つのは問題だと感じる。

 

なお、私はこういう本をよく読んでいるが、なぜか生まれてから一度も職務質問を受けたことがない。

ただし、自〇隊時代に単身海外出張のため自〇隊の非迷彩ジャンパーを着て成田空港にいたところ、3回ほど空港職員や航空会社職員から職務質問を受けた。

「成田空港まできた経路を説明してください」

「どちらに行かれるか教えてください」

「身分証とパスポートを見せてください」

等、おそらくミリタリールックの人間に対するマニュアルがあったのだろうと推量する。

 

序章 自白と冤罪

冤罪は身近な問題であり、ニュースにはならないような無数の事例が毎年起こっている。実質、推定有罪の日本社会では、集中的な捜査や逮捕、拘留による被害を考えれば冤罪の被害者は膨大な数となる。

日本における有罪率は95%、警察・検察はこれまでにいくつもの冤罪事件を繰り返し、裁判官はこれを見過ごしてきた。そして冤罪事件が国の調査対象となったことは一度もない。

冤罪を生む最大要因は自白である。本書は、なぜ被疑者が、自分に不利となるうその自白をしてしまうのかを検討する。

 

1 なぜ不利なうそをつくのか

宇和島における窃盗冤罪事件(1998年)を例に、自白の経緯が紹介される。

ja.wikipedia.org

 

知人の通帳と印鑑を盗んだとして逮捕された男は、警察から取り調べを受ける過程で「頭が真っ白になり」、うその自白をしてしまった。自白には矛盾が多くあったが、男を犯人と確信している警察官にとっては、適当に取り繕えばいいので問題ではなかった。

その後、真犯人が隣県で捕まり、真相が明らかになると、男は釈放された。

警察は疑惑をもった場合、この疑惑を確信に変えるため証拠を求めて動く。その過程で関係者も疑惑に誘導され、うその目撃証言などが生まれる。

自白調書は取調官から与えられる情報と、想像とをつなぎあわせてつくられる。

 

実際には、うその自白でもこの種の信用性判断をクリアできないもののほうがむしろ少ない。……この事実が裁判の世界でいまだ十分に認識されているとはいいがたい。

 

うその自白には、犯人しか知り得ない「秘密の暴露」が存在しない。逆に、枝葉末節の、間違えようのない場所が間違っていることがある。

 

一般的にうそは、自己の利益のためにつくと考えられがちである。しかし、人は他者との対立を好まず、他者に同調したり、他者をよろこばせようとしたりしてうそをつくことがある。

取調室や、多くの冤罪事件では、うそはあばかれる対象ではなく、支えられる対象である。このとき、周囲はうそをつくことを促し、それを支えようとする。

 

ものごとへの確信は証拠に比例しない。……たとえば、かつて関東大震災のさい、根拠のない流言飛語によって大量の朝鮮人虐殺がなされた事実は、その恐ろしい例の1つである。

 

 

2 うそに落ちていく心理

無罪判決までに25年かかった甲山事件について。

ja.wikipedia.org

本事件では、重度知的障碍児2名の事故死が殺人事件として扱われ、保育士山田悦子が逮捕された。被疑者は一度も有罪判決を受けていないが、終結するまでに長い期間が経過した。

彼女は警察から執拗な取り調べを受けるうちに精神衰弱状態となり、いったんうその自白をしてしまった。その後否認したため、不起訴処分となった。

 

甲山事件は山田悦子保母のおかした殺人であるという疑惑は、結局のところ、根拠のない妄念でしかない。しかし捜査の権力をもつ人びとが、この妄念にとりつかれたとき、それは強大な磁力を発揮し、人びとのことばを吸い寄せて、やがて妄念にそれらしき根拠を与えていく。

 

うその自白には3パタンがある。

  • 自分から自白……真犯人をかばう、目立ちたがるなど
  • 自己同化……自分の記憶に自信を失い、自分を犯人とおもいこむ
  • 迎合型……取り調べの圧力に耐えられずやっていなくても自白

 

取り調べは、自白をとることを目的としているため、多くの被疑者は弁解しようとするが聞き入れられることはない。しかし被疑者は「話せばわかってもらえる」と考えるため、黙秘権を使わないことが多いという。

被疑者は、自分を攻撃する取調官に救いを求める気持ちになることがある。目の前にある、終わりのない尋問という苦痛を受けるよりも、自白によって死刑になるという遠い未来を選ぶこともある。

 

 

3 犯行ストーリーを展開していく心理

ja.wikipedia.org

 

仁保事件は1954年、山口県の仁保駅に近い農家で一家6人が殺害された事件である。容疑者として同郷出身の窃盗犯岡部保がターゲットとなったが、自白をとるまでに4か月を要した。

この事件は、自白の過程がテープレコーダーにとられ、また証拠として提出された珍しい例である。取り調べの録音を義務付けているイギリスなどと違い、日本の取り調べは基本的にブラックボックスであり、こうした経過が記録されることはほとんどない。

 

当時、警察の拷問が問題になっていたが、岡部も様々な体罰やいやがらせを受けた。

うその自白を尋問によって作り上げていく過程は生々しいが、一番驚くのは取調官らが容疑者を犯人と確信していることである。でっち上げてやろうと考えているのではなく、本当に犯人と思い込んでいるため、判断力が機能していない。

 

 

4 自白調書を読み解く

ja.wikipedia.org

本書の時点では進行中だった袴田事件(※2023年7月現在も進行中)について、心理学の観点から疑問を検討する。

袴田氏の自白調書は、矛盾や無知の暴露に満ちており、逆に、犯人しか知り得ない「秘密の暴露」は存在しない。

 

その後

これは検察が犯人を確信しているという感じではないな……

jp.reuters.com

 

参考

www.dailyshincho.jp

 

 

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