大阪府警堺署による冤罪でっちあげ事件を追った読売新聞の記事を書籍化したものである。
◆所感
本書から読み取れる警察及び報道機関の問題点は以下のとおりである。
・監察の機能不全
警察内部の不正を取り締まる部署の長が、署長よりも弱い立場にあった。
・法令遵守欠如
幹部から末端にいたるまで、法律に則って仕事をするという概念、倫理観が欠如している。
・報道の必要性
警察が屈したのは、マスコミが騒ぎ立て問題が世間の耳に入ったからである。
・報道と警察の癒着
本事件では読売新聞が警察の不正行為を暴いたが、一般にマスメディアは警察から情報をもらっている立場であり、警察組織を悪く書くことができない。
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とある女性が落とし物の札束を交番に届けたところ、その場にいた警察官がこれを取得物にせずネコババした。
女性と落とし物の主が警察署に尋ねにいったところ、札束は警察内で届け出されておらず、警官によるネコババの疑いが生じた。
実際に、落とし物の現金を受け取った警官がこれをネコババしていたことが判明した。
警察署長・副署長・警ら課長はこの不祥事をもみ消すため、落とし物を届けた女性を犯人扱いし捜査を進め、自白を強要した。
女性やその家族、支援者たちが抵抗し、また読売新聞がこれを記事にしたため、警察は態度を翻した。
……みち子さんの指紋がついている封筒はなく、目撃者がいたというのもウソでした。訴状の内容は認めます。大阪府警として争うつもりはありません。
マスコミがかぎつけたため、警察は手を引き、損賠に対しても抗弁しなかった。
しかし、警官ネコババの記者会見は、マスコミの注意をそらすため、上海列車事故にあわせて行われた。また警察は、具足氏(女性)を意図的に犯人にでっちあげたことを認めようとしなかったので、具足氏は訴訟を起こした。
警察はでっちあげを否定し調査要求に応じなかった。
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マスコミに寄せられや内部告発によれば、捜査は署長、副署長、刑事部長の主導で行われ、一部の者しか捜査内容を知らされなかった。
「副署長、警ら課長は階級でいうと警視という雲の上の人。副署長や警ら課長の人間性を過信していた。自分は幹部の指示に流されてしまった弱い人間です。大阪府警がきちんと対応しないと、また自分みたいな者を出してしまうことになる」
大半の警官、また直接ネコババ事件を担当しなかった刑事たちはこの事件に憤っており、マスコミ取材に積極的に応じた。