松本サリン事件発生時、オウムはまだ危険な組織として認識されてはいなかった。信者たちのおこす拉致事件等を通じて、徐々に犯罪組織としての実態があきらかになる。
オウムの企画した化学兵器テロは、世界でも例のないものであり、これに対処するため、警察と自衛隊が協力した。
陸自の化学学校、自衛隊中央病院は、警視庁機動隊が毒ガスおよびサリンに対処できるよう情報を提供した。また、陸幕と東部方面総監部は、オウムによる大規模サリンテロに備えて、出動計画を作成した。
自衛隊は予測される事態に対して、必ず事前に計画をたてていた。
警察庁、警視庁、各都道府県警は、サティアン一斉捜索、および、オウム施設捜索のため、動員の準備を進めた。
本書では各機関、組織の活動が細かく説明されており、それぞれ、どのように人員を割り振ったのかがよく理解できる。
SATは犯罪者の狙撃・射殺を専門にする特殊部隊であり、オウム事件のときはまだ存在を秘匿されていた。SATでは構成員を定期的にイギリスやドイツの特殊部隊に研修にいかせていた。
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オウムはガス噴射器のいたずらをしかけて警察を挑発した。かれらは地下鉄サリンのあと、警察によるオウム弾圧に反抗して、国松警察長官を狙撃したとされる。
警察には刑事警察と公安警察の2つの系統があり、捜査の方法がまったく異なる。かれらはお互いに犬猿の仲だったが、オウム事件では一致協力した。
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非常事態を通して、警察官僚たちの能力が露呈していく様が描かれる。勇敢で、人員を仕切る力を持つものがいる一方、暗殺の恐怖におびえて、部下を見ず、国会答弁だけを気にする器の小さい人間もいる。そのような小人物として実名で登場させられている刑事局長の垣見隆が気の毒に感じた。
極秘捜査―政府・警察・自衛隊の「対オウム事件ファイル」 (文春文庫)
- 作者: 麻生幾
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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