言語を習得する本能について説明する本。著者は特に言語学等の一般向け書籍を多く書いており、本書も文章、構成ともに明快で読みやすい。
1
ヒトの最大の特徴は言語能力である。従来の説や先入見と異なり、著者は、言語は人間の本能に基づく能力であり、文化的産物ではないと主張する。
チョムスキーは、これまで社会的、文化的産物と考えられていた言語機能を、人間に本来備わっている機能であると主張したが、本書はチョムスキー説に賛成するものの、まったく同一ではない。
2
言語を持たない部族はおらず、また、言語の精緻さについては工業国も未開の首狩り族も同等である。
どんな言葉の裏側でも複雑なプログラムが作動している。言葉遣いはあくまで表面的なものにすぎず、下層階級でも上層階級でも言語能力に差はない。
言語が生得的であることを証明するためには、幼児の学習過程や、ピジン言語の創造過程を検証することが重要になる。
言語の文法には普遍性があり、脳内に文法ルールの青写真が存在するとする説には説得力がある。
3
言語が思考を規定するという考え(言語決定論)が普及しているが、これは本当だろうか。実際は、根拠のない通念である。間違った通念の原因となったサピア、ウォーフの仮説を否定する。
人間は言語なしに、心的言語によって考えることができる。演算理論、表示理論といわれるものは、脳における表現とプロセッサを研究する学問である。
人間は実際のどの言語とも異なる思考の言語で考えている。ある言語を知っているとは、単語と心的言語との翻訳技術を持っているということだといえる。
4
チョムスキーの文法論を紹介し、文法がどのような仕組で構成されているかを概説する。しかし、細かい技術的なことは読み飛ばした。
統語論は複雑だが、人間の思考はさらに複雑である。人間の口は1度に1つずつしか発音できない。また、統語論は経験には基づかない抽象論理に基づく。
――文法は、耳と口と脳というまったく異なる3つの装置を相互に結び付ける仲介者なのだ。
人間は頭の中で抽象的な変数項とデータ構造を使いこなすが、これは生来持っているものである。この心的働きによって人間は学習することができる。
5
前章では心的文法について説明し、本章では単語の創造性について説明する。
単語も規則や構造に基づいてつくられており、子供はこうしたルールを忠実に習得する。
言語学的には、単語とはそれ以上分割できない最少単位を意味する。また、単語とは丸暗記リストであることも意味する。
単語は純粋な記号で、音と意味の関係は恣意的である。
人間は言葉を覚える前に、ものの概念が身についている。
6
言語音声の仕組について。話し手は音素を用いて言語を音声に変換し、聞き手は音声を言語に変換する。
言語音声は複数の器官の同時進行によってつくられる。また、一定のパターンを持たせることで冗長性を生み出し、言葉に若干の抜けがあっても理解できるようにつくられている。
[つづく]