うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2018-01-01から1年間の記事一覧

『従軍慰安婦』吉見義明

◆所見 吉見義明は『毒ガス戦と日本軍』の著者でもある。 長年問題となっていた朝日新聞の従軍慰安婦捏造記事は、本書では資料として使われていない。 政府と軍が支えた強制システムの証拠は豊富に残されており、業者の汚れ仕事に見て見ぬ振りをしつつ、慰安…

『The Looming Tower』Lawrence Wright その3

11 暗黒の王子 本書は元FBI職員のジョン・オニールを、合衆国側の主要人物(狂言回し)として設定している。 FBI本部に着任したジョン・オニールは、ラムジ・ユセフ目撃の報を受けて、パキスタンにおいてただちに「rendition(国外での逮捕連行)」…

『The Looming tower』Lawrence Wright その2

5 奇跡 ビンラディンは未熟なムジャヒディン……アラブ・アフガン達を率いて、パキスタン国境の山に秘密基地を作った。それは、「オサマ(ライオン)」の名をとって「ライオンの洞窟(the Lion's den)」と呼ばれた。 かれらはソ連軍に攻撃を加えようとしたが…

『The Looming Tower』Lawrence Wright その1

エジプトにおけるイスラーム主義運動の勃興から、2001年同時多発テロ事件までをたどる本。アメリカではベストセラーになった。 FBIがアルカイダの名に注目したのは1996年頃である。当時、アメリカに敵対する主だった勢力は、もはや存在しないと思…

『日中アヘン戦争』江口圭一 その2

(2 つづき) 1938年、対中国中央機関である興亜院が設立された。首相を総裁、外相・蔵相・陸相・海相を副総裁とし、政務部、経済部、文化部、技術部が置かれた。 新政策とは、蒙彊においてアヘンを増産し、占領地全域でのアヘン自給により財源を確保す…

『日中アヘン戦争』江口圭一 その1

日中戦争期、日本は利益獲得を目的として、蒙彊政権、満州国、朝鮮等で麻薬の生産と供給を行った。 *** 蒙古聯合自治政府は、蒙彊政権とも呼ばれ、1937年に日本によって内蒙古に作られた傀儡政府である。この政府は興亜院の政策に従ってアヘンの生産と販…

王の集団墓地

緑と青の クローブの匂いがする 野原の 王たちの埋まる墓 くじらの腹より大きな 穴の底に 無数の胴体 ひとつひとつ、金と銀の飾り 色とりどりの衣裳 それは、はぎとられ 枯れ枝と 骨ばった、足の裏、土と灰のくっついた 黒い指

『仏教百話』増谷文雄

――およそ百篇の物語をつらねて、仏教のアウトラインを描き出そうとするのが、この本の企画である。 100話は仏陀の生涯を分割したもので、5つに区分けされる。 1 生涯の前半……出家~ 2 教説:実践的なもの 3 教説:思想的原理 4 生涯の後半から死まで…

『大江戸死体考』氏家幹人

江戸時代、人びとと屍体とが近い距離にあった。本書は、特に試し斬りの専門芸者である山田家を中心に、屍体にまつわる制度や風習を紹介する。 1 ・江戸では身投げが多く水死体がひんぱんに浮かんだ。数が多いので、汐入で発見された屍体は海に突き流せと通…

『ハッカーズ』スティーブン・レビー

コンピュータ黎明期の歴史と、「ハッカーズ」、プログラマーたちに焦点を当てた本。 コンピュータやインターネット、ゲームの歴史を網羅しているのではなく、当時活躍したハッカーたちの倫理と、その倫理が組織化、商業化によって失われていく過程を描いてい…

『日中十五年戦争史』大杉一雄

著者は旭川の陸軍で終戦を迎え、日本開発銀行で勤務した民間人の歴史家であり、学者ではない。 日中戦争当事者の回顧録や、中国側の記録、戦史叢書や記録を参考に、特に日中戦争本格化までの経緯を分析する。 *** 日中戦争を段階的に区分し、それぞれのフェ…

『プーチンと甦るロシア』シュテュルマー その2

6 軍 ・ロシア軍は予算不足と練度不足、装備の老朽化に苦しんでいる。 ・2000年の潜水艦クルスク沈没は、ロシア軍の機能不全、政府の危機管理意識の欠如を明らかにした。 ・2000年代から、ロシア軍はハイテク化、精鋭化を目指し改革を進めた。いず…

『プーチンと甦るロシア』シュテュルマー その1

ロシアはいまも国際社会の鍵となる主体である。ロシアがアメリカ、EUと対立するのか、それとも共存していくのか、また中国とどのように関わっていくのかは、(特に本書刊行時点では)まだ明らかではない。 ロシアは問題を多く抱えた国である。外交姿勢はア…

脳的な畑・水資源

◆クロアチア独立国 ワールドカップでクロアチアが脚光を浴びたのを受けて、またバルカン半島の歴史に興味が湧きました。 今読んでいるのは、デイトン合意(ボスニア内戦に関する停戦合意)をまとめたアメリカの役人の著作です。 To End a War: The Conflict …

『その夏の今は・夢の中での日常』島尾敏雄

「出孤島記」 震洋特攻隊長に命じられ、南の島で出撃を待つ青年の精神と、風景を描く。 原子爆弾が落とされ、連合国はポツダム会談を行っており、語り手を含めて、ほとんどの軍人と兵隊は、特攻作戦が無意味であることに気が付いている。 隊長は集落の娘と交…

『パンセ』パスカル

パスカルの残した護教論・エッセイで、広く知られた格言(クレオパトラの鼻云々)が含まれる。 難しい用語が使われているわけではないが、一読して意味がわかりにくい箇所が多い。 わたしが本当に理解できたのはごく一部にすぎない。 特にキリスト教の教義に…

『職業としての政治』ヴェーバー その2

政党の変化について。 イギリス、アメリカを例に政党の変容を説明するが、1918年当時の説明であるため、理解しにくい。 ・名望家たちの政党(名望家たちによる集団指導と、党内での官職任命) ・デマゴーグやカリスマを頂く大衆政党(行政の長となった大…

『職業としての政治』ヴェーバー その1

ドイツ敗戦と革命の最中である1918年に、ミュンヘンで行われた講演を記録したもの。ミュンヘンはドイツ革命の特に激しかった地域であり、ヴェーバーの講演も、革命勢力の台頭を念頭に置いた内容となっている。 ◆所見 特に、以下の点については今でも考察…

『ホメーロスのイーリアス物語』レオニ・ピカード

20世紀のイギリス児童文学作家が、『イーリアス』を子供むけに書き直したもの。 ここ数年、岩波少年文庫を集中的にAmazonで買って、少しずつ読んでいる。人を引き付ける物語がどういうものなのかを知りたかったからである。 トロイア王プリアモスの子パリ…

魚虫の塔

わたしたちの ことばにとりつく 敵は、粉において 兵隊の皮ふを食べる そうして かれらのことばは、もう、うそのことばだ 炭をしきつめた 塔に、夜がやってきた やがて、号令が鳴り、 かれらは絞り出された わたしは、敵が、 エンジンの音をたてて やってく…

『アメリカの秘密戦争』セイモア・ハーシュ その2

4 イラク戦争を主導した「対イラク・タカ派」について。 ネオコンの代表的な論者リチャード・パールは、大統領直属のシンクタンクに所属しイラク戦争を進言したが、自分の経営する投資会社と、軍需産業との関係をメディアに指摘され、公職を辞任した。 その…

『アメリカの秘密戦争』セイモア・ハーシュ その1

副題:9.11からアブグレイブへの道 *** 著者は、まえがきによればボブ・ウッドワードと並ぶ調査報道の第一人者である。 ――わたしは昔ながらの左翼、過激派、人種差別主義者などを取材してまわろうとは思わない……昔気質の善良な民主主義者を取材する。政…

『北條民雄 小説随筆書簡集』

作者は、自らの体験をもとにハンセン病(旧称は「癩病」)患者を題材にした小説を作った。 各短篇の主人公はそれぞれ異なるが、物語の要素がゆるやかにつながっており、全体として施設の様子とそこで生活する患者たちの姿が浮かび上がる。 風景の創造につい…

『特攻』森本忠夫 その2

3 1944年6月、マリアナ沖海戦(「あ」号作戦)失敗によって、特攻兵器……回天、震洋、海龍、震海を使う方針が固まっていった。 海軍においては、零戦等の航空特攻、回天、震洋、桜花など、いずれも、現場の下級指揮官からの熱望という、ボトム・アップ…

『特攻』森本忠夫 その1

本書の冒頭から: 特攻作戦は、西欧的な価値観からすると異様な自殺攻撃である。 わたしたちは、当時の価値観がどのように特攻を正当化したかについて、また軍がどのような意思決定を経て、この異様な作戦を実行したかについて、知らなければならない。 ◆感…

『捏造された聖書』バート・アーマン その2

3 聖書の写本が作られていく歴史を説明する。 素人書記の時代から、ローマ帝国の国教化により、専門的な書記の利用と施設の整備が進められた。4世紀から15世紀、活版印刷が発明されるまでの時代の写本を「ビザンティン写本」と呼ぶ。 比較的正確だが、か…

『捏造された聖書』バート・アーマン その1

◆感想 著者は専門教育を受けた神学者だが、視点はわたしのような非信徒に近く、違和感なく受け入れられるものである。 著者は、聖書を無謬の「神の言葉」と考える主義から、本文研究を経て、人間的な書物とみなす思想にいたった。 神の言葉の改変については…

ハカ・ガーデン・ハカ

◆溥儀 最近、愛新覚羅溥儀の『わが半生』を読み始めて、当時の宮廷の様子におどろいています。また、かれを光緒帝の後継者として指名した西太后の行動についても記載があります。 ――慈禧太后(西太后)は政権を握ったその日から外国人にたいしてははれものに…

『アメリカ精神の源』ハロラン芙美子

カトリックである著者が、アメリカ人の宗教と精神について考える本。 著者は長崎出身で、米国で長く勤務し、現在はハワイ在住という。 合衆国は歴史の若い国ともいわれるが、移民たちの信仰はユダヤ、ローマまでたどることができ、またほぼすべてのアメリカ…

おとずれ、墓

山の中に 列になり、銀で塗り固められた 声がする 音は環となって かれら、名主の 耕す、べトンの畑に まかれたということ。 それはもう ほこらと、ほこらの間を ふくろうたちの航路を越えた やわらかい国。 役人は、べトンを耕す 役人の、その下の人夫はく…