4
ネオコンの代表的な論者リチャード・パールは、大統領直属のシンクタンクに所属しイラク戦争を進言したが、自分の経営する投資会社と、軍需産業との関係をメディアに指摘され、公職を辞任した。
その他、イラク戦争を推進した勢力について。
・チャラビらイラク亡命者は、イラク人から嫌悪されており、また外国の情報機関からも、デマを流す政治集団として軽蔑されていた。しかし、ブッシュ大統領とその側近はチャラビを重視した。
・イラク戦争の推進者たち……国防総省文官(ラムズフェルド長官、ウォルフォウィッツ副長官)、国務省高官(ジョン・ボルトン)、チェイニー副大統領、ライス
5
大量破壊兵器に関わる情報機関の失敗がなぜ起きたかを検討する。
・ブッシュと側近は、自分たちに都合のよい情報だけを採用した。
・情報機関の分析段階を無視し、吟味・検討されていない素材情報を直接大統領まで報告した(煙突方式)。
・ライス大統領補佐官はまったく指揮をとらず、CIAテネット長官はブッシュに気に入られることに必死であり、職員はやけになった。
・イラクがニジェールからウラン鉱石(イエローケーキ)を購入したという、一見して判別できる偽造書類が本物だとされ、ブッシュの演説にも引用されてしまった。
ブッシュ政権は発足当初からイラク侵攻を決定しており、偽情報とわかっていて、あえて開戦根拠として採用した可能性が高いことを著者は示唆している。
6
ラムズフェルド国防長官について。
・少数兵力と精密爆撃による低コスト戦争を主張し、従わない軍人をクビにした。イエスマンのトミー・フランクス中央軍司令官と、マイヤーズ統合参謀本部議長が残り、イラク戦争が始まった。しかし、略奪や暴徒化を止める兵力や資源が枯渇していた。
・先制的人狩り、暗殺部隊……フォード大統領は、CIAによる外国首脳暗殺の暴露を受けて、暗殺禁止の大統領命令を発した。
ラムズフェルドらは、対テロ戦争においては暗殺も容認されるとして、世界中を対象としテロリストを抹殺できるようなシステムの設立を訴えた。
軍や、特殊部隊内部からの批判が出たが、かれらは臆病者として排除された。
・特殊部隊の数は増えていったが、イラクの治安は回復しなかった。
・ラムズフェルド……軍の作戦に介入し、また都合のよい話だけを聞き、イエスマンを揃える。
7
米国が支援をおこなっているパキスタンについて。
・ムシャラフ大統領は表面上、米国と協調する姿勢を見せている。しかし基盤はぜい弱であり、タリバンの後見人である軍とISI(軍統合情報局)からの圧力にさらされている。
・パキスタンは米国のタリバン攻撃を認めるかわりに、イスラム主義者の不満を和らげるためカシミールでのテロを黙認させた。
・核開発の父であるアブドゥル・カーン博士をスケープゴートとして、国策として地下核売買ネットワークを構築してきた。
・パキスタンが北朝鮮核開発を支援していたのは公然の秘密である。イラクよりはるかに進んだ技術を持つ北朝鮮に対し、ブッシュ政権の対応はあいまいである。
・パキスタンの目的はインドを苦しめ、アメリカをだまし、イスラーム諸国の中で存在感を強め、核を拡散させることである。
・本書の書かれた2004年に、パキスタンはアルカイダ掃討に協力しているが、進展がない。2010年にビンラディンがパキスタン国内(陸軍士官学校の近く)で殺害されるまで、パキスタンはいったいどんな協力をしていたのだろうか。
8
中東諸国の状況について。
・サウジアラビア:王族の腐敗と汚職が進んでいる。体制転覆を阻止するため、王族は過激派に資金援助している。国民は劣悪な生活を強いられ過激派にとりこまれていく。
・シリア:イラク戦争までは、CIAへの情報提供を続けてきた。しかし、ヒズボラ支援に関してブッシュらに目をつけられ、テロ支援国家として非難を受けた。
・イラン:イラクよりはるかに核保有の可能性が高い国であり、イラクにおける反政府勢力を支援していた。
・イスラエルとトルコ:イスラエルは中東各国のクルド人を支援してきた。特に、イラクのクルド人に対しては軍事訓練を施し、独立させようと動いた。トルコはイスラエルと密接な関係にあったが、この件について懸念を表明した。
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エピローグから。
――どうしてこんなことができたのか? 国際テロリズムに対抗するにはイラク侵攻しかないと考えたネオコン8人か9人が好き放題をやれたのは、どうしてなのか? ……どうやって官僚主義に打ち克ち、マスコミを恫喝し、議会を誤った方向へ導き、軍を支配したのか? われわれの民主主義は、それほど脆弱だったのか?
――ジョージ・ブッシュは嘘つきで、政治的利益のために事実をわざと巧妙にねじ曲げる、と信じている人間はおおぜいいる。……この大統領にとって言葉は行き当たりばったりの意味しか持たない、というのがむしろ妥当な解釈だろう。また、この大統領は、言葉を口にすればそれが真実になると信じているようでもある。考えるだに恐ろしいことであるが。
- 作者: セイモアハーシュ,Seymour M. Hersh,伏見威蕃
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2004/11
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