うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

ラインホルド・ニーバーを読んでいる

 

 いま読んでいるニーバーまとめ本から印象に残った箇所をあげていきたい。

 

 ニーバーは聖職者・神学者だが、現時点では、現実社会のなかで何をするべきなのかを非常に冷静に考えている人物という感想を持った。

 なぜ社会の不正義はなくならないのか、また、なぜ不正を指摘しても「うるさい蠅」にしかなれず現状が変わらないのかを考えるきっかけになった。

 

 

 

 ◆修羅の町での牧師活動

 わたしは専門家ではないが、聖職者には大きく分けて2つの進路があるという。すなわち大学で研究に没頭する神学者と、町の中で教会を運営する牧師・神父とである。

 

 ニーバーは神学教育を受けた後、最初のキャリアとして、1915年以降、デトロイトでの牧師活動を開始した。

 当時はフォード等の自動車産業が拡大を続け、都市に大量の移民・労働者が押し寄せて犯罪や劣悪な労働条件等、社会問題が深刻化していた時代である。

 おそらくは今の日本以上に金がものをいう社会だと考えるが、そこでキリスト教や教会の役割が何なのかをニーバーは考え、『冷笑家のノートから(Leaves from the Notebook of a Tamed Cynic)』に記録している。

 

 工場労働者たちが過酷な環境に追いやられる一方、社会を先導しているのは経営者や富裕層だった。

 牧師は、お金を持つ豊かな人びとにおもねるのか、かれらにとって耳の痛い説教をして教区の信徒を減らすかの決断を迫られるのだった。

 

 ――説教から政治的な言説を排除することはできない。あらゆる宗教的問題には倫理的な要素があり、倫理は政治的・経済的な側面を持つからである。たとえ「輝かしい」人びとを遠ざけるとしても、意図的に政治を排することはできない。

 

 ――宗教活動を数字で計測するのは難しい。われわれは価値を世俗的な基準で判断しがちである。ある牧師の勤続年数を祝う行事でも、教区信徒の倍増やオルガンの更新、債務の返済が功績として述べられた。

 「四半期ごとの宗派ミーティングや、上司に対する営業成績統計の提示がないだけでもよしとすべしかもしれない」。

 

 自動車産業の町における教会の無力さは、ニーバーを常に悩ませた。

 

 ――Conscience, Goethe has observed, belongs to the observer rather than the doer, and it would be well for every preacher to realize that he is morally sensitive partly because he is observing and not acting.

ゲーテが述べたように、良心というものは、行動者ではなく観察者に備わる。だからあらゆる聖職者は、かれらが行動するのでなく単に観察しているからこそ道徳的に繊細でいられることを銘記しておくべきだろう)

 

 ――とある知人の話。「新しい説教者を雇ったが、かれはすばらしい説教者に違いない。われわれはかれに1万ドル払っているのだから」

 

 ――自動車工場の労働は過酷で、労働者たちは奴隷のように疲れ切っている。聖職者と教会は、こうした現実から目をそらすことで自分たちの威厳と平安を保っている。宗教がこうした問題に取り組むには何世代にもわたる努力と多くの殉教者が必要になるだろう。教会が少しでもこうした現実と向き合えば、恥ずかしくて消えたくなるだろう。

 

 ――株価操縦で巨額の富を得ている実業家は、労働者の賃上げを拒否する一方、大金を教会などに寄付し善良なキリスト教徒を称している。かれがほんとうに自分を善良な信徒だと信じているのか、それとも自分にまとわりつくうるさい蠅どもを黙らせるために寄付をおこなっているのかは不明である。

 

 

 ◆人間の欲と戦う

 『道徳的な人間と非道徳的な社会(Moral Man and Immoral Society)』では、人類を動かす原動力が動物的な自己中心主義と欲であることを強調する。

 合理的・道徳的な社会が個人を律することができると考える人びとは、人間の集団行動がその本性に支配されており、決して理性や良心に制御され得ないものだという点を見落としている。
 権力集団は必ず弱者を搾取するものであり、それは対抗する権力によってしか阻止できない。

 

 人間は自分たちの自己中心主義や欲望を制御するために、宗教や理性の力を活用しようと努めてきたが、今もなお社会は不正や対立にまみれている。

 

 ――社会を動かす原動力は理性ではなく、非理性的な意志や感情である。

 

 (民主主義の皮をかぶった産業界による)専制は耐え難いだろうが、その専制は、単に時代錯誤だという理由で自らの権限を手放しはしないだろう。 

 

 ――こうした人びとの希望は、富と権力をもつ者たちがやがて自分たちの所有物にそれほど興味をもたなくなるかもしれない未来に依存している。

 

 ――個人対個人の関係では、正義と倫理を達成できる。しかし、集団間では、常に政治が倫理に優先する。つまり、権力の強弱に支配される。

 

 ――理性は、支配者たちが掲げてきた嘘や正当化を見破る力を与える。しかし、人間は不誠実を見破られたからといって誠実になるわけではない。特権と力を持つ限り人はそれを維持しようとする。

 

 

 ◆個人と集団

 ニーバーの著作や、ディートリッヒ・ボンヘッファーの伝記を読んでいて、かれらの言動に非常に感心させられることが多かった。

 

 しかし、聖職者や住職など、個々人の言動に影響を受けることはあっても、おそらくわたしが宗教団体に加入することはないだろう。組織集団になれば必ず腐敗や不正が発生するからである。

 

 ◆その他の買い物

 他のキリスト教関係の本も今後読もうとおもい本をまとめ買いした。

 

ボンヘッファー

Life Together: The Classic Exploration of Christian Community

Life Together: The Classic Exploration of Christian Community

 
The Cost of Discipleship

The Cost of Discipleship

 
Ethics (Dietrich Bonhoeffer Works)

Ethics (Dietrich Bonhoeffer Works)

 

 

 ・ルター

 (強烈な反ユダヤ主義言説が収録されているため)

The Essential Luther (Hackett Classics) (English Edition)

The Essential Luther (Hackett Classics) (English Edition)

 

 

カール・バルト

The Epistle to the Romans (Galaxy Books)

The Epistle to the Romans (Galaxy Books)

 

 

パウルティリッヒ

The Courage to Be: Third Edition (The Terry Lectures Series)

The Courage to Be: Third Edition (The Terry Lectures Series)