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The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『The Rise and Fall of the Great Powers』Paul Kennedy その3 ――経済力と軍事力の関係

・同盟と戦争への漂流1899~1914

 ビスマルクは、列強に囲まれたドイツが孤立するのを、複雑な同盟関係により予防した。日露戦争の時代には、植民地をめぐる英仏の対立は収束し、かわって、ドイツに対する警戒心が強まった。

 英独は建艦競争を巡り対立していたが、その不和を決定的にしたのが、2度のモロッコ事件(モロッコをめぐる支配権争い)である。

 

・総力戦(Total War)と力の均衡

 第1次世界大戦の推移について。

 各国の参謀本部は綿密な(そして硬直した)作戦計画に基づいて行動を開始した。このため、外交官たちはそのペースについていくことができず、動員を阻止することができなかった。

 ドイツ軍はもっとも早く軍を展開したおかげで、西部戦線において、防御側として優位に立つことができた。

 イギリスは各国に融資し、後半には連合国側の主力となった。

 

 短期決戦の目論見が外れると、経済産業生産力がものをいうようになった。ドイツは軍事面や輸送に秀でていたものの、最終的に連合国に勝つことは難しくなった。

 ソンムやヴェルダン、パッシェンデールといった激戦での人的損耗は莫大であり、ロシアでは革命が起こり、またフランスでも反乱が発生した。ドイツは革命勢力の台頭によって戦争続行が不可能となった。

 戦時中、各国の生産力は飛躍的に増大したが、戦後は負債に苦しむことになった。

 ドイツは最盛期の生産力を第2次世界大戦中も取り戻すことができなかった。

 アメリカの参戦は、経済と金融の点で決定的だった。一方、イタリアの参戦はほとんど意味を持たなかった。

 

 

 6 二極世界・中級国家の危機その2

・戦後国際秩序

 ヴェルサイユ会議において民族自決が唱えられ、また国際連盟が発足したものの、主導するべき合衆国は間もなく国際政治から撤退した。

 イギリスも大陸から距離を置いたため、ドイツ封じ込めの責務はフランスにのみ課されることになった。

 

 第1次世界大戦後の世界……工業・農業の衰退、人的損耗、スペインかぜによる大量死、国境紛争とバルカン民族紛争、アメリカからの、各国に対する支払い催促と、1929年の世界恐慌

 

 1920年代に復活するかに思われた国際社会の安定は、大恐慌により失われた。

 

 不安定化の原因……経済恐慌、ヨーロッパ中心主義の崩壊、ドイツ問題。

 

 ドイツ人のほとんどは敗戦の結果に不満を抱いていた。また、ドイツに強制力を行使できるのはフランスだけだった。中欧、東欧は戦後まもなく、再びドイツ・マルク経済圏に組み入れられた。

 

 

・挑戦者

 戦間期における各国の生産力や軍事力を比較する。

 イタリアの評価がかなり低く、あまりの手厳しさに笑ってしまうほどである。逆に、日本についてはかなり(不当に)好意的である。

 イタリアはムッソリーニのもと国民統合を行ったものの、経済的・軍事的には貧弱であり農業も後進的だった。

 

 ――人類の紛争史において、ある敵国の参入が、こちら側ではなく敵自身を害するかもしれない、などと議論されることなど、ほとんどなかっただろう。しかしムッソリーニのイタリアがまさにそうだったのであり、その点で少なくとも独特ではある。

 

 日本は第1次大戦後経済生産、軍事力ともに拡大したが、恐慌により行き詰った。

 満州を侵略したものの、さらに資源を手に入れるためにヨーロッパ植民地に進出したため経済制裁を受けた。合衆国に到底及ばないことはわかっていたが、日本は対決を選択した。

 

 フランスは国際政治の中心であり続けたが、工業生産は衰退した。軍首脳部はガムラン、ジョルジュ、ペタンといった老害であり、技術革新を阻んだ。

 もっとも深刻なのはフランス人の厭戦意識と、国民間の分裂(極右と左翼)だった。

 第2次世界大戦開戦時、フランスはドイツに比べてまったく軍備が進んでいなかった。

 

 ドイツ経済は危ういバランスの上に成り立っており、またヒトラーの行った統制経済は各セクションが対立する混沌としたものであり、計画的な軍備を阻んだ。

 ヒトラーによる侵略・拡大は最終的に頓挫することが明らかだったが、ヒトラー自転車操業のために兵を進めた。

 

 イギリスは広大な植民地を維持するには生産力と軍備が十分ではなかった。

 

 

・隠れた超大国

 ソ連アメリカの状況について。

 ソ連は帝政時代を超える中央権力からの強制により、工業生産増大を達成した。アメリカは1930年代後半においても、いまだに生産力が活用されていなかった。

 この時代のアメリカ工業生産は、軍拡中のドイツを上回っていたが、それでもなお、工場の3分の2が休止中だった。

 

・危機の展開

 国際連盟ロカルノ条約が効力を失い、ドイツ、イタリア、日本の領土拡大をだれも止めようとしなかった。最大の脅威はドイツだったが、フランスに決断力はなく、イギリスも、チェコスロヴァキアのために国民を動員するのは世論の観点から不可能だった。

  ***

 

 

 ◆今日と未来の戦略と経済

 

 7 二極世界における安定と変化

 

・圧倒的武力の適切な使用

 ドイツ軍の戦術――高度の自主性と分散された指揮――が優れていたとはいえ、ソ連(血まみれの突撃)、イギリス(固定化された戦術パターン)、アメリカ(勇敢だが稚拙な前進)の物量に勝つことはできなかった。また、枢軸国の多くのミスは、生産力の根本的な違いにくらべれば些末なものでしかない。

 

・新戦略図

 第2次大戦終結後、米ソが超大国として浮上した。

 フランスは、アメリカから補助金をもらいながら、植民地大国としての地位を取り戻そうとしたため、イギリスからは冷淡な目でみられた。

 イギリスは経済的に凋落しており、不要な植民地を切り離し、国内の生活向上に努めた。アトリー政権の政策は驚くべき成功を収めた。

 原爆(A-Bomb)と水爆(H-Bomb)は戦争の形態を変えるに違いなかった。アメリカに続き、ソ連、中国、英仏は核クラブに入ろうと奮闘した。

 また、世界はイデオロギーによって分裂した。米ソが協調できるのでは、という考えは戦後まもなく消えてしまった。これは、東欧諸国が次々と排他的な共産党支配に傾いていくのを西側諸国が目の当たりにしたためである。

 

・冷戦と第三世界

 冷戦の展開……軍拡競争、第三世界への対立の拡散

 第三世界で特に影響力を持った指導者……ティトー、ナセル、ネルー

 

・二極世界の亀裂

 米ソ対立の間、第三勢力としてもっとも存在感を示したのが中国である。ソ連は、自分たちと教義の異なる共産主義大国が出現するのを快く思わなかった。中国は常にソ連を批判し続けたため、ソ連にとっては、正統性に対する脅威となった。

 フランスは核兵器を入手した後、ヨーロッパの自立を目指し、米ソ対立から距離を置こうと試みた。

 多元化する世界のなかでは、アメリカのほうがソ連よりもうまく適応できたといえる。

 それでも、1960年以降、米国の立場は大きく変わってしまった。

 ベトナム戦争への介入は、米国を孤立させ、また国民も政府に対して疑いを抱くようになった。中途半端な介入では、強固な独立心を持った国には勝てないことが明らかになった。

 キッシンジャーの勢力均衡外交から、カーターの理想主義、さらにレーガンの強烈な対決主義へ。

 

・経済バランスの変化

 戦後の各国の経済成長について解説する。

 

・日本の経済成長……経済への集中と、通産省による指導体制、朝鮮特需

・日本に続く貿易立国……台湾、韓国、シンガポール、マレーシア

・欧州……戦争と軍拡で妨げられていた経済成長が達成された。特に、4大国のうち遅れていたイタリアが最大の成長率をあげた。

 

 

 8 21世紀へ

 これまでの考察を踏まえて、今後の大国の将来と、国際社会の情勢を予測する。

 大前提は以下のとおり……経済的・技術的発展によって国家とその位置づけは大きく変化する。また、経済成長に差があることが、将来的に軍事力と戦略的ポジションに影響を及ぼす。

 21世紀に向けて全体的な富と技術、生産は向上していくだろう。また、経済成長の速度は各国で異なるだろう。

 かぎとなる大国は米ソ中日・EUである。

 

・中国の均衡行為

 中国は成立以来、米ソどちらの陣営にも与しない第三勢力として振る舞い、また国際社会において独自の地位を築いてきた。毛沢東時代は、「人民の軍隊」イデオロギーのために軍事力は後進的なままだった。

 1979年、ベトナムとの戦争で惨敗したことをきっかけに、鄧小平は軍事改革(核兵器重視)を推進した。それでも、軍事費の占める割合は小さなものである。

 経済成長と、市場の拡大、軍事力の強化が、今後の中国の地位をさらに変化させていくだろう。

 

・日本のディレンマ

 日本の経済成長は、米軍の核の傘や朝鮮特需といった外的要因もあったものの、間違いなく通産省(ドイツ参謀本部になぞらえられている)の指導力と日本人の起業家精神、勤勉性によるものである。

 将来もっとも主導となる分野はハイテク産業である。

 しかし、劣悪な労働環境が問題となっており、それは日本の後に続くアジア新興国も同様である。

 日本は経済を第一に行動しており、敵を作らぬ「全方位平和外交」を志向しているが、この状態は永遠には続かない。

 日本が軍備増強した場合、中国を筆頭に周辺諸国は反発するが、軍備負担軽減を主張するアメリカの一部は賛成するだろう。一方、このまま軽武装を続ければアメリカの一部は反発し、またアジアの勢力変化に対応できないだろう。

 

・EEC(欧州経済共同体)……潜在能力と問題

 集合体としてのEUは強力な生産力と軍備を持つが、問題点がないわけではない。軍は各国ごとばらばらである。また、加盟国間の経済力に差がある。

 西ドイツは最大の経済成長を達成した。

 イギリスは世界の工場の地位から脱落したが、いまだに多数の国外基地、拠点を抱えており、国家財政の負担となっている。

 フランスはイギリスよりも高い成長を記録した。しかしハイテク産業は立ち遅れている。

 

ソ連とその矛盾

 ソ連の見通しは暗い:経済的に困窮しつつあり、食糧を輸入に頼らなければならない。平均寿命は60歳前半にまで下がっている。ウズベキスタンなど中央アジアの農業生産が豊かで、やがてムスリム人口がスラヴ人を超えるだろう。

 ソ連軍はヨーロッパとアジアに軍を展開しなければならない。部隊にはカテゴリ1(現役スラブ人部隊)からカテゴリ3まであるが、ソ連が頼みにしているスラヴ人精鋭部隊の数は減りつつある。

 さらに、東欧で渦巻いているソ連に対する不満を考えると、ヨーロッパで戦線が開いた場合、ソ連軍は東欧諸国の軍を頼りにするよりはむしろ監視しなければならないだろう。

 

・合衆国……相対的衰退のなかの超大国

 支配領域の拡大と軍事費の増大、赤字の増大……戦時に熟練工や兵員が不足するのではないか。

 しかし、雇用流動性や、ハイテク産業への対応性から、新時代への対応を誤らない限り、急速に衰退することはないだろう。

 

 

  ***

 終章……まとめ

・富と力、経済力と軍事力は相対的なもので、国家間関係は変化し続けるものである。

・国際関係の歴史は戦争の歴史である。経済力の変化や、地位の変化が戦争を招き、その結果がさらに対立を生んできた。

 

 今後の見通し……

・生産力と軍事力の移行は、五大国……米ソ中日・EC間で生まれるだろう。

・既に移行は始まっている。

・二極世界は徐々に変化しつつある。

 

 

The Rise and Fall of the Great Powers: Economic Change and Military Conflict from 1500 to 2000

The Rise and Fall of the Great Powers: Economic Change and Military Conflict from 1500 to 2000