第1次大戦や、列強の覇権争いについての著作がある、イギリスの歴史家テイラーによる本。
テイラーの本は『ビスマルク』、『第1次世界大戦』、『The Struggle for Mastery in Europe』を読んだが、どれも流れが把握しやすくおもしろい。
著者は、「何が起きて、なぜそれが起こったのか」に焦点をあてる。この過程で、定説・従来の説と矛盾する場面も出てくる。
しかし、歴史家の仕事は、ヒトラーに全責任をかぶせたり、宥和論者をばかにしたりするというものではない。
本書が注目するのは、特にイギリス、フランスの動向である。また、第2次大戦の起源をたどると、どうしてもドイツという国の特質を検証せざるを得ない。
・第2次大戦の最大要因は、ヴェルサイユ条約に正統性がなかったことである。
・ヒトラーの邪悪性は反セム主義や虐殺にあり、外交方針については他の列強と何ら変わるところはない。
・ヒトラーは当初西側に侵攻する意図はなかった。また、ヒトラーの東方膨張政策は、外務省やヴェートマン・ホルヴェークよりも穏健だった。
・ヒトラーは周辺国に対し軍備拡大を装ったが、実態は異なり、小規模戦争しか想定していなかった。ヒトラーの成功の秘密は軍事力ではなく、かれの奸智と、恫喝外交にある。
・当時の多数派は宥和論者であり、また東欧を見捨てたことによって、英仏の犠牲者は第1次大戦よりはるかに少なかった。
以上のとおり、ヒトラーにかぶせられた責任のいくらかを減じる主張であるため、修正主義と批判され大きな論争を巻き起こしたとのことである。
◆所見
わたしが読んだ限りでは、本書は修正主義やナチス擁護ではなく、当時の状況をよく観察した成果物である。
ヒトラーの特異性のみが第2次大戦を引き起こしたのではない。また、チェンバレンらの融和政策が愚の骨頂だったわけでもない。なぜ英仏がそのような意思決定をしたのか振り返らなければ、再び同じような落とし穴にはまることになる。
※ 融和政策の失敗は、その後、好戦主義者や軍事介入論者にさかんに引用されることになった。
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1
第1次大戦については、原因ばかりに議論が集中した。逆に、第2次大戦はその結果と影響だけが研究・論争の対象となった。
第2次大戦の原因は、第1次大戦の処理における失敗にある。
2
ヴェルサイユ条約を含む、連合国側の戦後対応の不備を検討する。
著者の結論を端的にいえば、ドイツは既に中欧の大国であり、そのような国家に対してヴェルサイユ条約を適応することは現実的に不可能だったというものである。
条約には強制力がなく、また倫理的な説得力も欠けていた。英仏は、ドイツが承諾しなければ、多額の戦時債務を合衆国に返済することができなかった。また、ドイツの武装解除は、ドイツ自身が拒否した場合、英仏では強制執行することができなかった。合衆国は早々とヨーロッパから撤退し、欧州情勢から距離をとった。
連合国は勝利するとまもなく、方向性の違いをめぐり分裂した。各国が自己の利益に基づいて行動したため、ドイツに対する制裁は不十分となった。
欧州の世論は、ドイツを再起不能にするというものから、ドイツを本来の経済大国に、平和的に復興させるというものに変化していった。
[つづく]
◆参考
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Origins Of The Second World War (Penguin History)
- 作者: A J Taylor
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