◆ニューオリンズからコロンバスへ
ニューオリンズを出発後、再びハイウェイに乗って東に進んだ。途中、アラバマ州都モントゴメリーのホワイトハウスに寄った。
ここは南北戦争開始の最初期に、連合国の首都として使われた。間もなく首都はヴァージニア州リッチモンドに移った。
非常にこじんまりとした屋敷で、中には当時の家具や記念品、連合国大統領ジェファーソン・デイヴィスの所有物などが展示されていた。
連合国の国旗は幾度かの変更を経ており、最終的には、有名な聖アンドリュー十字風の「南軍旗」を取り入れたものとなった。
アラバマ州を横断するときに、有名な都市バーミンガムを通過したが、人気(ひとけ)のない廃墟や荒れた通りを目にした。一見して、ただごとではないと感じる雰囲気だった。
◆ジョージア州コロンバス、フォート・ベニングの近く
昼過ぎに、コロンバスに到着したのでファストフード店に入った。Bojangleというチキン系の店で、フォート・ベニング陸軍基地のすぐ手前にある。
客層がほとんど軍人なのか、わたしの髪型からわたしを軍人と勘違いしたようで自動的にミリタリー割引をしてくれた。
◆フォート・ベニングFort Benningについて
コロンバスは、州都アトランタから数時間離れているが、この日の目的はフォート・ベニング横の歩兵博物館だった。
フォート・ベニングには米陸軍歩兵学校や機甲学校があり、歩兵の本拠地とされている。
また基地には、中南米の政府系テロ部隊を訓練したことで悪名高い西半球安全保障研究所も所在する。
冷戦時代、合衆国から支援を受けた独裁政権・軍事政権は、暗殺部隊や対テロ部隊、親米ゲリラを保有していたが、多くはこの研究所で技術(対テロリズム、殺害法や拷問法など) を学んだ。
合衆国が対テロ・鎮圧作戦をどこから学んだのかといえば、1つはフランスである。アルジェリア戦争において現地人を相手に対テロ戦を行った軍人が、戦後、合衆国に渡りその経験を伝授している。
アルジェリア戦争、南ベトナムなど、フランスは、植民地支配や鎮圧作戦におけるアメリカ合衆国の先輩のような位置づけである。
アルジェリア独立戦争において対反乱作戦(COIN)と拷問・尋問を担当したポール・オサレスの著作『特殊任務』は、アメリカ軍でも教程として使われた。
この本はまだ積んであるが、数か月以内に読む予定である。
The Battle of the Casbah: Terrorism and Counter-Terrorism in Algeria 1955-1957
- 作者: Paul Aussaresses,Robert L. Miller
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個人的な思い出だが、わたしが初めてこの基地の名前を知ったのは、中学生の頃、アメリカの爆弾テロ犯ティモシー・マクヴェイTimothy McVeighについて調べていたときである。
マクヴェイはカルト思想にはまりオクラホマ州連邦ビルを爆破し、168名を殺害した犯罪者である。元々陸軍の優秀な狙撃手であり、湾岸戦争で複数の勲章を授与された。この人物だけでなく、テキサスタワー乱射事件のチャールズ・ホイットマンなど、軍人出身の大量殺人者は多い。
元軍人と大量殺人の関係はアメリカで問題視されている。
ある専門家によれば、アメリカにおける退役軍人の割合は10パーセントを超えたことがないが、大規模な大量殺人の4分の3は退役軍人によって引き起こされているという。
中学生の私は日本とアメリカの違いにショックを受けた。アメリカは、軍が身近にあり、また非常に特権的な地位を持っていたと感じたからである。
実際に住んでみて、軍と軍人、軍事産業の規模はもはや制御不能なほど巨大化しており、国の在り方もこの複合グループの機嫌を取らずには決められないのではないかという印象を受けた。
軍という政治的集団が社会からすっぽり抜け落ちた国とは大きく異なる点である。
わたしは非武装主義ではないので、軍隊と情報機関は必要だとする立場である。しかし、これらの組織が社会に決定的な影響を及ぼすという事実を認識しなければならないと考える。その取扱いを間違えれば、大きな問題になると思料する。
◆歩兵博物館Infantry Museum
歩兵博物館を含め、アメリカ合衆国の軍事博物館のほとんどは無料であり、寄付を募っている。
ロビーには、研修で連れてこられたのか、数百人以上の新兵たちがうろうろしていた。
18歳、19歳の兵隊でも退屈しないような配慮なのか、歴史的史料だけでなく再現ジオラマや体験コーナーも設置されていた。
独立戦争から南北戦争、両世界大戦、ベトナム戦争、イラク戦争と、米軍が戦った歴代の戦争をたどることができる。空いたスペースがまだ残っており、そこは次の戦争に関する展示が設置されるのだろう。
一連の展示を見ていて、わたしは矛盾する感想を抱いた。これは、私の脳内が混乱していることを示すものである。
・8年間におよぶ独立戦争を指揮したワシントンは非常に優秀である。ワシントンは情報戦にも長けており、複数の専門書が出ている。独立戦争においてアメリカ市民は、自分たちの主権を手に入れるために戦った。
・しかしワシントンを含む歴代大統領はインディアン(ネイティブアメリカン)に対し、ほぼジェノサイドといってよい行為を行った。
・陸軍の制度や運用は常に改善されている。
一方、こちらの迷彩公務員は、予算が少ないにも関わらず、無数のムダなことをやっており、米軍の補助部隊としての機能しか持たず、実質、自衛さえできるか怪しい。このことに今でも腹が立つ。
・しかし、総合的に見て米軍の戦争の大半は失敗か完全な侵略行為である(インディアン戦争、米西戦争、ベトナム、イラク、リビア空爆など)。
館内が非常に広く、レンジャー教育に関するエリアは時間がなくて見ることができなかった。
おみやげショップでTシャツを買って、宿泊地のアトランタに向けて出発した。
◆アトランタで一泊
アトランタについたときは夜になっていた。中心に近い場所にOld Lady Gangというローカル食堂があり、そこで夕食をとった。
客、店員、駐車場の管理人含めて、私たち以外100%黒人だったので、面食らった。しかし店員は親切で、料理もおいしかった。
◆人種戦争
この日はモーテル近くのコインランドリーで洗濯物を洗った。待っている間、人種をめぐる犯罪についてスマホで調べた。
黒人に対する警官の射殺行為がここ数年問題になっており、「ブラック・ライブズ・マター」(Black Lives Matter、黒人の命も大事)の運動が行われた。
しかし、いかに理不尽な射殺行為でも、裁判では不起訴となる例が多く、厳しい非難を招くことが多かった。
こうした黒人と警察との対立は平和には収まらず、2016年にはダラスにおいて、警官5人が狙撃される事件が発生した。
「ブラック・ライブズ・マター」運動と平行して、「ブルー・ライブズ・マター」運動も存在する。
2014年、ニューヨーク州において、黒人に対する不当な射殺に怒った男が、2人の警官(皮肉にもヒスパニックと中国移民2世)を射殺した。
これを受けて、「ブルー・ライブズ・マター」運動が始まった。
青線は、従来から社会の秩序を守る法執行機関の象徴とされており、警官や消防士などの命も重要である、と訴えるのが当該運動である。
アメリカに住んでいると、この青国旗ステッカーを貼った車をよく見かけるので何かと常々疑問に思っていた。本家の国旗よりも配色がいい。
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もっとも、警官殺人率は減少傾向にあり特別に厳罰化の必要はない等の批判もある。また、特に黒人運動に対立するものでもないようだ。
興味深いことに、米軍は一般社会と比べて非常にリベラルな組織である。
人種差別は表向きタブー視されている。トランプがひっくり返したが、トランスジェンダーも許容しており、同性愛も、従来の「言うな、聞くな」方針から、認める方針へと変更された。
何年か前、無人機攻撃部隊の創設に貢献した女性の空軍将校が同性愛者であることを公言し話題になった。実際にはまだ、堂々と同性愛者と名乗ることは部隊ではあまりない。
米軍が、リベラル傾向を推進しているのは、黒人やラテン系、アジア系の割合が多いことが一因だろうか。
しかし、人種差別が完全になくなることはない。部隊が毎年実施するアンケートでは、差別的発言が同僚から発せられたという調査結果が見られた。
また古い話だが、昔、とある在日米軍基地に赴任してきた米軍司令官の妻(黒人)が、配偶者コミュニティのなかで白人からいじめを受けていた。これは、その司令官とカウンターパートだった〇〇隊の司令官が内輪で話していた。
米軍の偉い人たちはよく家族ぐるみで交際する。当該黒人妻は、日本人である〇〇隊司令官の妻によく悩みを打ち明けていたという。
人種・性差別発言が売りのトランプを、末端の軍人たちはどうみているのだろうか? 表立って「あれはちょっと……」、「個人的にはクソ」という人物もいるが、大半は、一連のツイートなどは聞かないことにしているようだ。「政治家が何を言おうと関係ない、自分の仕事をすればいい」という考えである。
もっとも、軍人の立場で大統領を批判することは統一軍事法典(UCMJ)で違法とされている。
無職であるわたし個人は、あのような人物が大統領になっていることを非常に残念に思う。また、昔銃剣を振り回していたときに感じた、米軍のいい加減さや傲慢さ、「日本人は適当にあしらっとけ」感を連想させて不愉快になる。