◆KGB職員や亡命者の本
スドプラトフはウクライナ出身の情報員で、NKVD局長エジョフやベリヤが権勢をふるった時期に重要任務に従事した。
かれはトロツキー暗殺の指揮者であり、またアメリカの科学者たちと接触し、原爆に関する情報を手に入れた。また、スターリンが晩年に引き起こした被害妄想的な粛清事件も担当した。
スドプラトフはソ連崩壊後にジャーナリストのインタビューに応じ、非常に貴重な証言を残している。
原爆の開発情報をソ連に渡した科学者たちは、米ソによる勢力均衡が平和をもたらすという信念を持っていた。
――スドプラトフは科学者たちとつきあううちに、彼らが自らを新種のスーパー政治家であってその使命は国境を超えると考えていることを知った。スドプラトフのチームは、科学者たちのこの自惚れを利用したのだ。
スドプラトフは失脚して20年ほど収容所にいたが、その後名誉回復しソ連崩壊を生き延びた。この回想録を出版したときも、スターリンやベリヤ、つまりソ連の社会主義についての見方は両義的である。
――スターリンとベリヤは、政治家と犯罪者、両方の素質を持っている。かれらは数々の不正や非道を行うと同時にソ連を超大国にした。
プーチンとFSB(KGBの後継組織)の腐敗を告発し、ポロニウムで毒殺されたアレクサンダー・リトビネンコは、著作のなかで、スドプラトフの回想録がFSB職員の間で回し読みされていたことに言及している。
- 作者: アレックス・ゴールドファーブ,マリーナ・リトビネンコ,加賀山卓朗
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/06/23
- メディア: 単行本
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ほぼ同じ時代を生き、スターリン存命中に亡命したクリヴィツキーも回想録を残したが、この人物はその後不審死した。
スターリン時代【第2版・新装版】――元ソヴィエト諜報機関長の記録
- 作者: ウォルター・G・クリヴィツキー,根岸隆夫
- 出版社/メーカー: みすず書房
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オレグ・カルーギンはソ連末期に亡命した対外防諜局長だが、かれの回想録も様々な文献で引用されている。
Spymaster: My Thirty-two Years in Intelligence and Espionage Against the West
- 作者: Oleg Kalugin
- 発売日: 2009
- メディア: ペーパーバック
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亡命者は全体主義国家や秘密警察国家の貴重な事実を明らかにしてくれるが、すべてが信用できるかというとそうではない。
ルーマニアのチャウシェスク政権において秘密警察のトップを務めていたイオン・M・パチェパは、70年代末に亡命し政権の暴露本を書き有名になった。
本書の評価は概ね好評である。しかしパチェパはその後合衆国の保守派にもてはやされ、証明不能な陰謀論を展開しているようだ。
例:イラクの大量破壊兵器はロシアGRUが廃棄・隠匿を手伝った。
- 作者: Ronald J. Rychlak,Lt. Gen. Ion Mihai Pacepa
- 出版社/メーカー: WND Books
- 発売日: 2016/04/15
- メディア: Kindle版
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太平洋戦争時、日本軍担当の情報将校として働いていたオーテス・ケーリ氏の本を読んだ。氏はニミッツ提督の海軍司令部でドナルド・キーン氏と一緒に勤務した。
真珠湾収容所の捕虜たち:情報将校の見た日本軍と敗戦日本 (ちくま学芸文庫)
- 作者: オーテス・ケーリ,前澤猛
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/07/10
- メディア: 文庫
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日本人捕虜の管理、投降呼びかけ工作等に従事し、戦後は同志社大学で長く働いた。
戦時中や、敗戦直後の日本人に関する記述を読むと、その性格や行動がいやに見慣れたものであると感じた。
とある零戦パイロットの捕虜は、誠実な人間には誠実に接し、そうでないものとは戦った。
――……人格を認めてくれる心の温かいアメリカ兵に対しては、誠心誠意働いた。……かれのこの態度は、日本人に対しても同じだった。利害にさとい日本人、権力にこびる日本人、そして権力をかさに着たがる日本人を、不親切なアメリカ人同様に憎んだ。日本捕虜の大部分を信用しなかったとさえ言っている。
――私の考えでは、日本人は抑えられることには馴れている。だから抑えられながら、表面抑えられたと見せて逃げ回る術を心得ている。抑えないで人間扱いすると勝手が違うので、ある意味では陸に上がった河童のように抵抗力を失う。
――汽車や電車に「進駐軍の命により」と日本語で書いて、日本人に規則を守らせていたが、私はそれを不快に思った。進駐軍を持ち出さなければ、日本人同士の規則が守れず、問題が片付かないということが情けないのである。巷の下らない喧嘩まで、進駐軍が出ないとおさまりがつかないという状態が情けないのだった。
ウェーク島での人肉食について、新聞社などに話した元捕虜は、話を真に受けてもらえなかった。
――日本人は、まだ戦争をほんとうには反省していない。実相すらも知らされていない人、知ろうとしない人が多い。
米軍の威光を傘に威張り散らす者、勝手に忖度して命令を出す者が多くいた。
――日本の政府や、政治屋のやり口に、こういう手を使う悪質なのがいなければ幸いである。国民大衆を、自分に都合のいい方へ引っ張っていくために、関係筋のお達しでもあるかのように装ったりする向きがあるかもしれない。そういう手に乗らないように気を付けたい。
◆アメリカン・スクールの者
オーテス・ケーリ氏は、耳の痛いエッセイを書いたためか、聖職者としての説教調が煙たがられたのか、解説によると長く不遇の時代を過ごしたらしい。
氏の本を読んでいて、小島信夫「アメリカン・スクール」とともに、わたしは自分自身の迷彩公務員としての体験を想像した。
銃剣振り回し兵隊として学校に所属していたとき、とある米軍基地に研修する機会があった。
そこで最初にプレゼンテーションをしてくれたのが、米軍で通訳・渉外として働いている日本人の事務官だった。
在日米軍が採用する日本人職員はすべて、日本政府が募集・採用し、米軍に派遣している。よって法律上、〇〇隊とこの職員たちは同じ省庁に雇われた人間である。
そしてこの事務官はわたしたちが会議室に入ると次のように言った。
「わたしは〇〇隊のことはよく知りませんが、あなたたちは〇〇隊〇〇課程であってましたか」
パワポに表示されたわたしたちの所属名は大きく間違っていたが、だれかが指摘すると、〇〇隊はまったく詳しくないのですみません、と回答した。
その後の研修で事務官からは「いやあ、この設備は非常に高価なので、日本にはとても無理ですね」等のコメントがあった。
わたしたちは「あいつ、完全にあっち側の人間になったつもりだな」とヒソヒソ話した。
◆今後の予定
Bonhoeffer: Pastor, Martyr, Prophet, Spy (English Edition)
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独ソという危険な大国に囲まれたフィンランドについて勉強する。
Mannerheim: President, Soldier, Spy (English Edition)
- 作者: Jonathan Clements
- 出版社/メーカー: Haus Publishing
- 発売日: 2012/12/11
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文語訳聖書は、もう少しで旧約聖書が終わるので、今年中に読み終わりたい。
来るべきときのためにロシア語の勉強を再開した。