うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2015-01-01から1ヶ月間の記事一覧

藪知らず(2011)

指が地面からのびて、岸辺をおおうと森ができた キチン質の爪から赤や、緑、黄色の 色とりどりの 電波が発射され たてものの壁にぶつかると柱時計に ぶつかった わたしの弟、柱時計の分電盤がひらく、 黒い歯とくちびる、舌は文様をえがくように こまかくふ…

『フランサフリック』フランソワ=グザヴィエ・ヴェルシャヴ

アフリカにおけるフランスの軍事介入、選挙不正などを告発した本だが、本書は狂気に近い怒りにとりつかれている。翻訳を出した緑風出版はほかの本を見たところ本気左翼系の会社であり、著者のヴェルシャヴも狂信に近い人道的思想に帰依している。 事実の列挙…

『フーコン戦記』古山高麗雄

九州在住の老人が、自分の従軍したフーコンについての思い出を滔々と語る。 彼はビルマのフーコンに送られ、そこで激戦を経験したが、このことはあくまで彼個人の体験にすぎない。個人の体験にすぎないものを、平和のため、反戦のためという名目で喧伝したり…

『カルタゴ』マドレーヌ・ウルス=ミエダン

ひたすらカルタゴについて書かれている本。いつかチュニジアを旅行するときとか、カルタゴ人に会ったときとかに役に立つかもしれない。 *** カルタゴはおもにローマの敵国として有名だが、その価値は軽視されている。カルタゴはテュロスから来たフェニキア人…

暗い回転(2011)

組織液と、すきとおった雨を、紙に ひたした、そういうかたちをしたものが その日の夕方にドアの前に立っている、いや、 軸を、高温のうちにねじりこんだガラスの のぞき穴に瞳孔を近づけてみると かたちと、甘ったるい香りは点滅する ようにつぎからつぎへ…

『南北戦争の遺産』ロバート・ペン・ウォレン

「南北戦争はわれわれが唯一「実感できる」歴史、国民の心のなかに生きている歴史なのである」。 本書はアメリカ合衆国に大きな影響を与えた南北戦争について論ずる。 冒頭、著者は「南部連合の人びとの精神に統一国家への想いが宿っていたように、心の奥深…

『ロンドンの味』吉田健一

本の解説や雑誌の短評、全集に織り込まれた評論などをジャンル別に集めたもの。第一部が料理関係の雑誌『あまカラ』などに掲載した食や名産品などにかんする文章、第二部、第三部はおもに英文学について、第四部は日本文学についての文章を扱う。 *** 吉田健…

『メソポタミア』ジャン・ボテロ

本書は広い意味でのアッシリア学であり古代メソポタミアをテーマとするが、具体的な歴史や事件史ではなく、そうした表面的な出来事を脊椎のように貫く、メソポタミアの思考、神話、精神などを探る。 *** 1 アッシリア学 ジャン・ボテロ氏はモグラのようにひ…

『帝国 ロシア・辺境への旅』リシャルド・カプシチンスキ

本書はロシアの辺境を題材にした紀行文だが、単に行程を記録したものではない。 一九三九年、ロシア国境のポーランドでの、少年時代の思い出が語られる。ピンスクは静かな農村だが、夜な夜なNKVD(KGBの前身組織)が民家に突撃して、家族をひきずりだ…

高気圧の城(2011)及び付録

めりめりときしんで、しっくいか、コンクリートか、 なにか四角い構成でつくられた屋根と、天井が ひしゃげていき、わたしのもっている図書と、 わたしのからだは弓なりにたわんで二度と もとにはもどらない 輪郭のない、 暗いかたまりの雲が地上のすれすれ…

『収奪された大地』エドゥアルド・ガレアーノ

本書は土地は豊かだが外敵や独裁者から虐げられつづけているラテンアメリカの歴史をテーマにしている。本書は、外国(欧米日)企業による地場産業の搾取、労働力の搾取、国内の独裁者と少数の富裕層による多数の貧民の搾取など、「新版の序」での暗澹たる追…

『距離の暴虐』ジェフリー・ブレイニー

オーストラリアの特性である「距離」を中心に歴史を書く。本国たる英国・ヨーロッパからの距離が与えた影響、また輸送機関の与えた影響を、本書ではとくに重視している。 オーストラリアは大陸から隔絶しており、また緯度40度付近は強烈な西風が吹き高波が…

『秦漢帝国』西嶋定生

本書は秦漢帝国の概略を述べたものである。秦漢帝国の成立は、とくに皇帝とその下の官僚制・郡県制、および儒教の国教化という二点をもって、その後の王朝の基盤をつくりだしている。同時に東アジア世界なるものが生まれたのも、二つの統一王朝の成立による…

『ミメーシス』E・アウエルバッハ

ヨーロッパの文芸がいかに現実をとらえ文章化してきたかを論じる。古典古代から徐々に時代を下っていく。 *** ホメーロスの物語は舞台や人物、過去すべてが前景にせり出し、照明をあてられたような、遠近感のない、明快な世界である。人物の心理も比較的単純…

『地球の長い午後』オールディス

自転が停止し、植物が支配者となった地球で生きる人間を主役にした小説。 SFと分類されているが、機械類が出てくるわけではなく、物語をつくるのはグロテスクに進化した巨大植物、動物的な挙動をもつ不気味な植物、つる、茎、食肉植物、そして動物のなかで…

『イスラーム生誕』井筒俊彦

ムハンマド伝 異常な情熱をもとにイスラーム布教にはげみ世界史の流れを変えたムハンマドに対して、著者は並々ならぬ共感と憧れを抱いている。文章も感情がこもっており、歴史物語を展開する弁士のようである。 イスラーム以前の無道時代は、部族を中心とし…

上から下の運動(2011)

もうひとつの人体が、軽い、 トランプめくりの 音をたてて縄からほどかれる なめらかに加工されず、とげと泡を残したまま 黒くぬりたくられた係留柱を するりとくぐり抜けて、わたしは 人体の予備をとりもどした においにとてもよく反応する、酸化した血のか…

『悪の哲学』シェストフ

時代がかった大仰な文体でドストエフスキーとニーチェを語る。これら二人やトルストイの著作に見られるニヒリズムとはなにかを論じ、ニヒリズムから逃れるために生み出された理想主義を非難する。 シェストフは理想主義と道徳が人間を悲劇に追いやるものとし…

『しあわせな日々/芝居』ベケット

「しあわせな日々」は英文学の授業(落とした)で映像作品をすでに見ていた。おしゃべりで活発な老婆と、ほとんどあいづちをうつだけの老人の生活をテーマにしている。老婆はこれぞしあわせな日々といっているが、舞台設定(老婆は体の半分まで荒地に埋もれ…

『勝負の終わり/クラップの最後のテープ』ベケット

「勝負の終わり」 窓の二つある部屋のなかに、ゴミ箱に入れられた老夫妻と目の見えない老人、始終立っている男がいる。全員老化に直面しており、自分のこれまでの人生が無意味だったのではないかという疑いにとりつかれている。神はいないのではないかという…

La Escuela ~未完成のゲーム「レンガ」より~

La Escuela La Escuela / The Cosmological Fort - YouTube 以下抜粋: あ! これは泥だと考えていたがそうではなかった。 わたしは、森への道に足を踏み入れて、後悔した。 わたしは素材のわからない四角いブロック片を踏んでしまっていた。わたし「何だろ…

『ウッドハウス、エーメ、ペレー、イリフ・ペトロフ、ケストナー』

現代ユーモア文学を集めたもの。 *** ウッドハウスの「ジーヴス物語」は、有能な執事ジーヴスが諸問題を解決する話である。主人のもとに問題が舞い込むと、主人は解決案を考え、ジーヴスに手伝いを頼む。ジーヴスは主人の解決案には与さず、最良の解決に向か…

『アラブ人とは何か』サニア・ハマディ

アラブ人とは文化を基準にした定義であり、本書ではイスラム教を信じる、アラビア半島やシリアなどに住む人びとを指す。 学術的な堅苦しさをもっているが、コンビニで売っている県民性の本の類と同じ内容とおもわれる。 *** アラブ人は相互扶助、相互依存の…

岩のすきま(2011)

左手を、焼け焦げるにおいと 通知されない電報でくるまった 手で、海底ケーブルをなぞっていくと 門の外に出た 塩水が、どうぶつの毛皮と皮フに しみこんで、鼻の奥をさす ような刺激がつたわり、とぎれた とおもうとまたつづく 風景のなかにかくれていた 子…

『東方正教会』オリヴィエ・クレマン

ローマ・カトリックとプロテスタントに並ぶ主要な教会である正教会の概説。冒頭から神学の細かい相違や学説の発展などが執拗に書かれるのでどうしようかともおもったが、正教会という組織の歴史として読めばおもしろい。 *** 簡単な歴史……正教会はキリスト教…

人体の城(2011)

粘土でできた札を受けとるとわたしたちは 出発した 馬の脚だけを木箱の底に縫いつけた 血をしたたらせて、足跡を記録する機械 馬車を想像させる車を、行進の 先頭にたてる、つづいて時計を管理する 小さな子供たち、かれらの耳はぜんまいの ゆるまるたびに遠…

『春日井建歌集』

「未青年」の序が趣があってよい。 ――少年だつたとき 海の悪童たちに砂浜へ埋められた日があつた ……ああ日輪……ぼくの真上には 紫陽花のような日輪が狂つていた 序、本編の歌にも、太陽の出てくることが多い。 ――太陽を恋ひ焦がれつつ開かれぬ硬き岩屋に少年…

『朝鮮戦争』神谷不二

朝鮮戦争は1950年から1953年まで続いたが本書は主に政治の面から朝鮮戦争を取り扱う。 日本の降伏後、朝鮮は38度線を隔てて米ソに委任された。ソ連の強い影響のもと、北朝鮮が韓国に侵攻を開始したことで戦争がはじまった。アメリカは国連軍の名の…

監視(2011)

うすくひきのばされた、白い 鉱石の柱に、鳥とその他の 飛翔物がとまる 大気は静かなので、計器の針は ほとんどゆれることがなく、発光する 波をとおして数字がとびかう図像が よく見えた、きのう 生まれたどうぶつは きょう埋められた、影のない 不思議な帯…

La Casa ~未完成のゲーム「レンガ」より~

La Casa La Casa / The Cosmological Fort - YouTube 以下抜粋: '場面、森、塔のふもと 3人は湿った草むらのなかにもぐりこんで、やはり、例の遺跡にやってきた。 わたしには、ひとつの目的がわかった。 わたし「この土台、石垣、夢で見たものとおなじだ」…