うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2015-01-01から1ヶ月間の記事一覧

あとずさりの旅(2011)

緑色の髪と、指のふちをなぞると 太陽の裏側から 水兵の声が聴こえるので 発光する 森のように密集した 無人のとりでについて わたしの 妹は 手をかざしながら話をしてくれた とりでのむこうに 静かな回廊が浮いて、空中線がいくつも伸びていた 兄と妹は 怒…

『イスラーム世界の創造』羽田正

「イスラーム世界」という概念そのものを問う本。イスラーム研究の歴史、受容の過程などが問題になっている。 イスラーム世界の定義は錯綜しており、大別すると次の4つになる……理念的な意味でのムスリム共同体、イスラーム諸国会議機構、住民の多数がムスリ…

『ロボット』チャペック

薄い本で、書かれたのも前世紀はじめと古いが、密度は高い。 R.U.Rなる企業がロボットを発明し、人間に代わる労働力として大量生産され、人間の仕事をすべて奪い、やがて反旗をひるがえす、という地球規模の出来事でありながら、描かれるのはドミンら企業の…

『イスラム社会』アーネスト・ゲルナー

この著者の『ナショナリズム』の本はたいへんおもしろかった。 イスラム社会、というくくりは、仏教社会、ということばと同じくらい茫漠とした印象しか与えないが、本書は、いくつもの国家、民族を含む「イスラム社会」の共通項や型を見つけようとする。 と…

『アメリカ外交50年』ケナン

20世紀の前半に外交を指揮した人間はみな優秀だった。しかし、冷戦の時代にまで下ると、アメリカの安全はおびやかされるようになった。アメリカ外交にはある欠陥、国民性的欠陥がみられる。 ――……他国との関係において、現実的でそして切実な必要となってい…

『The Boer War』Thomas Pakenham

ボーア戦争はイギリスに深い傷を残した。この戦争を理解するための四つのポイントは、南アフリカの富豪と英国政府の隠された関係、Sir Redvers Bullerブラーという軍人の果たした役割、南アフリカの黒人たち、それにボーア市民の受けた被害である。 *** 1 …

『セルビアの白鷲』ロレンス・ダレル

フライ・フィッシングと『ウォールデン』の好きな情報部員メシュインは、不穏な動きのあるセルビア山岳地帯に派遣される。外国語の能力に秀でた彼は、セルビア人に扮し、王党派のレジスタンスにうまく溶け込み、金を反チトー、反共産勢力に受け渡す行軍に参…

『ガダルカナル戦記』亀井宏

第一巻 ガダルカナル島のたたかいは昭和十七年の八月から翌年初頭にかけておこなわれた。この島はソロモン諸島のなかで最大面積をもつ島であり、ソロモン諸島は現在ではコモンウェルスのなかの一国である。 ガダルカナル戦は、作戦、戦闘などの局所的なこと…

『権利のための闘争』イェーリング

――自分の権利があからさまに軽視され蹂躙されるならばその権利の目的物が侵されるにとどまらず自己の人格までもが脅かされるということがわからない者、そうした状況において自己を主張し、正当な権利を主張する衝動に駆られない者は、助けてやろうとしても…

『雑兵たちの戦場』藤木久志

戦国時代の戦争とは「食うための戦争」「生きるための戦争」であり、農民たちは武士に奉公する侍、中間、下人、あらしこ、夫として積極的に参加した。本書では乱暴狼藉といわれる戦場の現場、雑兵たちや、村の様子を論じる。 戦国武将などの英雄からだけでな…

シホテ・アリニの計画

いま、このときをもって口のなかからもうひとつの空域がうまれる ことがわかった 実際におきたことなのでわかる 口腔に すきまなくべっとりと粘膜が塗りこめられて、表面がひとつに つなぎあわさると波紋がうまれた、それはのどの構造を よく知っているもの…

『百姓から見た戦国大名』黒田基樹

藤木久志、勝俣鎮夫、蔵持重裕からの引用が多い。彼らの本にもあたるべきである。 *** 小田原北条氏は伊勢宗瑞(北条早雲)からはじまり氏綱、氏康、氏政とつづくが、いずれの代替わりも飢饉による「世直し」要求に応じたものである。信玄武田晴信が父信虎を…

『信長の天下布武への道』谷口克広

尾張守護斯波氏を押しのけ戦国大名となった織田信秀を受け継いだ信長は、まず身内を固め、また二心のある身内を先手先手を打って殺し、つづいて美濃の斉藤道三と結び、今川を破る。信長の敵は、駿河・三河の今川、甲斐の武田、道三の息子斉藤義龍、三好、六…

『信長軍の司令官』谷口克広

信長の領土拡大が詳細に述べられている。 *** 一五六八年、信長は足利義昭を奉じて上洛する。この後近江および畿内から逃れ、一五七三まで天下統一は進展していない。一五七三年、天正元年から本能寺の変で倒れるまでの九年間に日本の半分を統一する。四方の…

『信長の親衛隊』谷口克広

常に武将のそばに仕え、雑務をこなし、戦場においては本陣を固めるものを近習という。信長の近習には軍事・警察任務を担当する馬廻(うままわり)、身の回りの世話をする小姓、書記をつとめる右筆、雑事をつとめる同朋衆、ほか、各自仕事をこなす奉行衆がい…

『The case for literature』Gao XingJian

高行健の活動は演劇が中心であり、これを読まないことには全貌を知ることができない。劇中で展開されているニーチェへの批判にとくに関心がある。 *** 「主義のないことへの前説」では、"without isms"が何であり、何でないかを痴呆のように列挙している。主…

『鄧小平』矢吹晋

鄧小平は四川省の生まれであり、生家は客家で、朱元璋の高級軍人を祖とする。フランスに留学し、帰国とともに共産党のたたかいに参加する。国共内戦のなかで鄧小平は頭角をあらわし、軍功をあげる。四九年の人民中国成立時には、毛沢東、劉少奇、周恩来、陳…

『香港』ジャン・モリス

香港は広東人、客家人、ホクロー、タンミンとよばれる水上生活者の住む漁村であり、群島には「ラドロンズ」とよばれる海賊がひそんでいた。 アヘン戦争によって香港はイギリスの直轄領となり、その後第二次アヘン戦争で対岸の新界も手に入れた。しかし上海に…

『中国 危うい超大国』スーザン・シャーク

中国にとって第一の危険は社会擾乱であり、胡錦濤が「社会的安定」「和諧社会」をとなえるのはこのためである。中国経済は米国との共依存関係にあり、どちらかがコケると相手も損害をこうむる。またドル人民元のレートは管理されているが、これが自由化され…

『尖塔』ウィリアム・ゴールディング

大聖堂を舞台にした、ゴシック小説の雰囲気をもつ話である。 大聖堂の参事会長ジョスリンは、二〇〇フィートを超える尖塔を、大聖堂の上部に増築しようという野望にとりつかれており、模型を片手にいつも堂内を徘徊している。 大工の棟梁ロジャーは大聖堂の…

『Growth recurring』Jones

「成長の循環」もしくは循環する成長という題名の本。 *** イギリスの産業革命によって地球規模の経済成長がおこった、という定説は認めながらも、本書はより広い視野を提案する。成長のきざしは非西洋、前近代においても見られる。また経済成長は、障害物、…

『Blood meridian』Cormac McCarthy

民間「ジークフリート」か、中世のピカレスク風の速度で少年が育つ。少年はすぐに家を出て悪党の道をふみだす。 "Outer Dark"よりも叙述は簡潔で、舞台もにぎやかな開拓地のようだ。荒くれ者との喧嘩、ナイフ戦闘、寝込みを襲って殺し宿屋ごと火をつけて逃げ…

『The Road』Cormac McCarthy

塵のつもった、誰もいない道、雨などの風景のなかで、カートを転がす父と子供が歩いている。父と子は寒さに耐えつつ、南に向かい、雪と塵のつもった山間部を越える。唯一であった人影は、彼らの前方をよろよろと歩いていた男だけで、この男も雷に打たれたら…

『シュンペーター』伊東光晴・根井雅弘

前半はシュンペーターの評伝、後半は彼の経済理論に割かれている。 シュンペーターとケインズという、対照的な二人の紹介からはじまる。ケインズは英国の経済立て直しという短期的視野(時間の相のもと)に基づいて研究をおこなった。対してシュンペーターは…

『ナチズム』村瀬興雄

――本書はヒトラーとナチズムについての概説ではない。ヒトラーの青年期、初期ナチズムと末期ナチズムをとらえて、ヒトラーの本質やナチズムの基礎をさぐろうとしたものである。 ワイマール共和国下では各王侯国が独自の憲法をもち、プロイセンにつぐ大国バイ…

『The cold war』Johon Lewis Gaddis

冷戦についての概説本。 *** 1 恐怖ふたたび 冷戦の起源について。 第二次大戦における連合国は、お互いが既に対立状態にある国同士の連合だった。戦争中は互いに協力したが、まもなく自然な状態に戻る。合衆国とソ連には多くの共通点があった。どちらも革…

『秋田連続児童殺害事件』黒木昭雄

畠山鈴香事件を独自に調査し、警察が意図的に「事故」として捜査をおこなったこと、裏づけのため捜査の捏造をおこなったことを指摘する。 畠山と秋田県警とのあいだになんらかのつながりがあることを示唆している。捜査の方向性指示以降は、ほかの著書にも書…

『中国現代化の落とし穴』何清漣

豊富な具体例と中国の実際の制度にまで踏み込んだ説明がされており、読み応えはある。しかし、大変読みにくい。 *** 著者は中国の改革開放体制に批判的である。改革は、貧富の差の拡大、生態系の破壊、汚職腐敗など倫理道徳の退廃をもたらしただけだからであ…

『群衆心理』ル・ボン

19世紀末に書かれた古い本で、群衆の行動を研究する。 群衆の上に立つ為政者・エリートの視点から書かれているので、現代ではわれわれ群衆が好んで読みそうな本だ。 *** 歴史や文明の末期、転変期にとくに力をふるう、野蛮で無知、粗野な、厄介な群衆が、…

『疫病と世界史』マクニール

訳文が読みにくい。追うのが苦痛になる文だ。世界史における判然としない部分、矛盾した部分を、疫病の観点から説明しようと試みる。 *** 疫病が世界史上人類にあたえた影響は大きい。アステカを亡ぼしたのはコルテス率いる小部隊の戦術よりも、彼らが新大陸…