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うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

「スポットライト 世紀のスクープ」

 制作:2015年

 監督:トム・マッカーシー

 カトリック神父の性的虐待を調査する記者たちが題材の映画。

 タイトルは、ボストン・グローブ紙内の調査報道コーナーに由来する。

 演出や展開は地味だが、教会の隠ぺいシステムを追及し、被害者たちの実態を表に出そうとする記者の信念に共感した。

 登場人物たちは、子供が性的暴行を受け精神疾患になっていくのに薄々と気が付きながら、自分の仕事をし、また黙殺してきた。

 記者や、教会を顧客に持つ弁護士たちは、「正しい側につく」ために自分の行いを省みる。

 かれらの行為は読者の反響や、世界中の教会に与えた衝撃によって報われた。

スポットライト 世紀のスクープ[Blu-ray]

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スパイマスターの歴史

 はりがねを巻くには、
 夜、窓が沼のなかに
 沈んでいき
 金色の砂嵐が
 わたしたちの
 幕舎におおいかぶさるのを
 時計で、きっちりと
 記録しておくようにと
 であれば
 きまりを守ること。

 
 わたしは
 多肉植物を食べすぎた。
 夏のあいだも
 装置にもぐりこみ
 夢を見すぎた。

 
 なくなったものは、他人のもので
 あっても、取り戻せない。

 
 受話器を置いた
 そのとき
 労働係の影が
 ふわふわとふくらみ
 一面の壁に塗りたくられる。

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『近現代日本を史料で読む』御厨貴

 各時代ごとの政治家、官僚、軍人等の日記を紹介する。

 1つ1つの章は短く、各歴史的人物とその日記のガイドのようなものである。

 

 日記は歴史的事件から間をおかずに書かれるため、改変の度合いが少なく、当時の状況を細部まで知ることができる。

 一方で、記録者の主観が強く入っているため、利用するには史料批判が欠かせない。

 

 史料の発見や公開によって、日本史研究が大きく進むことがわかる。よって、歴史研究は常に変化することを念頭に置かなければならない。

 私たちの過去への認識は常に限られた情報で推論するしかない。

 『大正天皇実録』は大半が黒塗りで公開され、また多くの部分が非公開である。昭和天皇は日記を書いていたというが、皇后の死とともに陵墓に埋葬された。

  ***

 大久保利通:謹厳実直、冷淡

 木戸孝允:感情豊か

 佐々木高行

 植木枝盛自由民権運動や立憲運動に関わる一方、「廃娼論」を書いたにも関わらず数年間で200人以上の売春婦を利用した。

 近衛篤麿:近衛文麿の父

 宇都宮太郎

 伊東巳代治

 原敬:平民宰相で、始めはよく人と対立したが、やがて桂園時代を参考に党派同士の協調を志すようになった。日記の量、質とともに、日本でも屈指の貴重な資料となっている。

 倉富勇三郎:みみずのような読みにくい字

 後藤新平:飽きっぽい性格が日記にも出ている。

 小川平吉

 松本剛

 濱口雄幸:優れた人格を持っており民政党の指導者として申し分のない地位にあった。

 大蔵公望

 牧野伸顕

 原田熊雄:西園寺の腹心として情報収集に努めた。

 有馬頼寧:宮中官僚で、有馬記念の由来。

 矢部貞治・岡義武

 重光葵巣鴨監獄で『昭和の動乱』を書いた。弁明も見られるが資料価値は高い。

 石射猪太郎・天羽英二:傍流外交官とエリート外交官

 財部彪:戦間期の海軍を担った人物

 宇垣一成:自信と「!」に満ちた日記

 真崎甚三郎:皇道派の指導者で、日記は歴史学者によく利用されている。

 奈良武次・本条繁:侍従武官長

 岡田啓介加藤寛治:条約派と反対派

 木戸幸一:軍部と協調し、天皇と一緒に東条を重用するが、戦局が悪くなり終戦工作を行った。

 高松宮昭和天皇の弟。海軍軍人として勤務した。

 細川護貞高松宮の御用掛。『細川日記』は、戦争末期における中央での情報収集と、高松宮への報告からなり、史料価値が高い。

 梨本宮伊都子

 寺崎英成:免責工作の1つである『昭和天皇独白録』が発見され、天皇研究は大きく発展した。

 

 ――ところが独白録には、天皇が、「立憲君主」として行動したことを示唆する記述がある。それは対米開戦後から敗戦にいたるまでの時期を対象とする、第二巻の特徴となっている。ここでの天皇は、あたかも「大元帥」のようである。天皇は高度な軍事情報をもとに兵力と作戦を分析し、戦争指導に関与している。欧州情勢を的確に判断しながら、アジア太平洋地域における作戦行動を指示する。これは「大元帥」の姿である。

 

 河井弥八・木下道雄

 徳富蘇峰

 入江相政:公刊されている日記は編集、削除を経ているため注意が必要である。

 富田朝彦:「富田メモ」を残した宮内庁長官。メモの真実性は立証されており、昭和天皇A級戦犯合祀に不快感を抱いたのは間違いないとされる。

 卜部亮吾

 芦田均政党政治家として出世の道にあったが、鳩山派閥を裏切り若槻内閣に入閣し、道を閉ざされる。

 石橋湛山

 鳩山一郎

 佐藤栄作:戦後の首相で唯一日記を残している。

 楠田實

 

 

『千日の旅』石上玄一郎

 石上玄一郎(いしがみ げんいちろう)(1910-2009)は札幌出身、東北で育った小説家である。

 この人物を知ったのは、田中清玄が自伝のなかで、かれが尊敬すべき中学の同級生である、と言及していたからである。

 作品のほとんどは、仏教的な世界観の影響を受けているが、総じて平坦である。わたしには合わなかった。


 「針」

 餌差という職業は、武家の所有する鷹のために、小鳥を生け捕りにし餌として提供する。餌差は針を口で吹き小鳥を仕留める。

 餌差の祖先をもつ娘が、死んだ小鳥と針の因果に悩まされて放浪する話。

 娘は山里にやってくる座頭から浄瑠璃を教わるが、娘の父、座頭たちは皆、針にまつわる不幸に見舞われる。娘も家出し、浄瑠璃を語りながら諸国をさまよう。

 浄瑠璃本の発掘のために実家に戻ってくると、かつて不倫女だった母親はしわしわの骸骨婆になっており、村もますますさびれていた。

 いわく、「この世の一切は神と申しますか仏と申しますか、そういうおおいなるものの語るひとくだりの浄瑠璃なのででもございましょう。……世上の治乱興亡はともかくといたしまして、人の世のまことの姿はつまるところいまも昔もさして変わりがないのではございますまいか」。

 山間のさびれた集落の生活や、旅芸人らの生態、人びとの噂話や下品な話など、生々しい世界が印象に残る。

 

  ***

 「絵姿」

 絵姿に描かれた白拍子の女を探して、男が旅をする物語。

 男は豪族の家に生まれたが、労働者に対する過酷な仕打ちに嫌気がさして流浪の人物となる。

 行く先々で男は様々な怪異を見聞する。災害のときに人を切り捨てた者は幻にさいなまれ、また恋人を捨てた男は、日夜、女の屍体に襲われる。

 

 「鍵」、「針」ともに、主人公は俗世の身分のまま旅人となり、諸行無常の世間を観察する。うつろうこの世において不変のものは、この話では「観音の姿」である。

 

  ***

 「鰓裂(さいれつ)」

 表題の意味は、エラの穴、または脊椎動物の発生途中に生まれる咽頭の穴のこと。

 田舎での日常生活の中に、ふと怪異が現れる様子を断片的に書く。しかし、その怪異がどこかで聞いたような妖怪、幽霊の類で、あまり驚きはない。

 

 「氷河期」

 中国戦線で俘虜となり、人間の世の無常さを悟った男の話。かれは戦死扱いをうけ、「生きている英霊」となって復員するが、かつての生活に戻ることができなかった。

 問題の人物の手記が冗長である。

 

 「蓮花照応」

 主人公の幼少期から戦後にかけての思い出と、蓮華の幻を見る老人の話。

  ***

 

千日の旅―石上玄一郎アンソロジー

千日の旅―石上玄一郎アンソロジー

 

 



おそろしい牢屋

 古い本だが『江戸の刑罰』(石井良助)を読んでいたところ、牢屋敷における慣習のあまりの理不尽さに笑ってしまった。

 

 牢内では、牢名主の指揮のもと、人口調節のために囚人を殺すことがあった。

 ――入牢者が多いと、一畳に9人も10人も並んで、文字どおり鮨詰めになって身動きができなくなり、立膝のままで昼夜暮らさなければならなくなることがある。

 ――これは名主の承諾を得て、二番役の者が中座の者と協議し、3日目おきぐらいに、3人5人ずつを囚人の中から選んで、キメ板責め、陰嚢蹴りで殺すのである。

 

 医者は検死にやってくると「いかにも病死」といって、牢内役人(牢名主など、役職持ちの囚人)から賄賂を受け取る。 

 

 江戸の牢屋敷は刑務所ではなく未決監である。よって、現代の観点からいえば、かれらは皆、罪の確定していない人間である。そうした沙汰を待つ人間であっても、まずは牢内で生き延びなければならなかった。

江戸の刑罰 (読みなおす日本史)

江戸の刑罰 (読みなおす日本史)

 

 

 刑務所や処刑をめぐる社会については、『大江戸死体考』(氏家幹人)もおもしろい。江戸時代における変死体の取り扱いや、「様斬(ためしぎり)」専門の武家である山田浅右衛門について詳しい紹介がある。

 

 関連して、弾左衛門について興味を持ったので今後読んでいきたい。

弾左衛門とその時代 (河出文庫)

弾左衛門とその時代 (河出文庫)

 
江戸時代の罪と罰

江戸時代の罪と罰

 

 

 ※ 参考