うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

働くことと『人間の条件』、ヘンリー・ミラー、読書の実益

 ◆働きたくないおじさん

 働きたくない、なるべく自分の時間を増やして過ごしたい私のようなニート気質の人間にとっては、「働くこと」は重大な問題である。

 

 最近読み始めたハンナ・アーレント『人間の条件』(The Human Condition)は、働くことの意味や位置づけが古代ギリシアからどのように変遷したか、現代社会というのが働くことをどのように意味づけており、どういった問題が発生したかを考える本である。

 内容は非常に概念的だが、冒頭の第1章から非常に面白いのでメモをとっている。

 

 

 アーレントは、古代ギリシアのポリスにおける労働や政治に関する価値観に、新しい考察のヒントを見出している。

 冒頭のアーレントは以下のような歴史解説をおこなっている。

 

 古代ギリシアにおける人間の活動の3分類:

  労働(Labor)……人間が生命・種として生存するための、動物と同種の活動

  仕事(Work)……人間が自ら作り出した環境に関わる作業

  活動(Action)……人間が集団で生きていく上で発生する、人間同士の関わりに関するもの。これは、政治に最も近い。

 

 古代ギリシアでは、公的領域、すなわちポリスの政治に携われるのは、労働を克服し、自ら労働する必要のない市民だけだった。

 こうした市民は家(Household)の支配者として奴隷などを使役し、自らは市民として公的活動に携わった。

 ポリスの世界においては、たとえ安楽な生活をしていても、政治活動の権利を持たない奴隷は、動物やペルシア人など蛮族と同種でしかない。

 一方、たとえ困窮していようと、政治活動を行う人物は「善い生活」を営んでいる。

 

 ポリスの政治では、支配/被支配というのは存在しない。ポリスの政治を貫いていたのは、市民の平等である。

 市民は、自分の家においては支配者として、奴隷などを使役し労働を克服する。ここで用いられるのは暴力や強制力である。

 本来、支配と暴力は、政治の領域ではなく、私的領域、家の領域に属すると考えられていた。

 公的領域であるポリスの政治において最も重要視されたのは、言葉と説得の力だった。

 

 中世から近代にかけて、古代ギリシアにおける私的領域(家、労働)と、公的領域(ポリス、政治)との境界はあいまいになっていく

 

 近代は、本来は家すなわち私的領域だった空間が「社会(Society)」という巨大な空間となり、公的領域を飲み込んでいった時代である。

 社会は、生きるために働く労働が、支配者の下、奴隷や下僕によって行われる世界の拡大版である。よって、社会においては、そこに生きる人々に順応主義(Conformism)が強制され、「政治的活動」は排除される。

 社会があまりに巨大化し、またメンバーに対し順応や画一性を強いるため、本来は同じ領域にあった個人の世界=プライバシーが新たに成立し、社会に対立する概念として個人主義ロマン主義が成立した。

 

 政治的な歴史においては、個人の逸脱した活動や並外れた勇気・行為が重要な意味を持つ。

 しかし、社会と、家(Household)が拡大した経済(Economy)の世界では、人間はただ統計学に基づく存在であり、画一的な行動をする単位にすぎない。近代経済学では、個人の逸脱した行為は、非標準的(Abnormal)な行為であって、考慮の対象にはならない。

 

 古代ギリシアにおいても、ポリス政治が成立するためには人数に限界があることが認識されていた。住民が増えれば増えるほど、市民の平等は失われ、ペルシア帝国のような専制支配=支配者による「家」的な支配が進行していった。

 こうした傾向は、近代にかけての人口増加状態においても生起した。

 

 

 若いときにパン工場や引っ越しバイトが苦痛だったときには、シモーヌ・ヴェイユを読んでどうすべきか考えた。

 

あきらかに苛酷で、容赦しない抑圧によって、ただちにどういう反動が生じてくるかというと、それは反抗ではなく、服従である……ルノー工場では……服従よりもさらにすすんで、何ごともあきらめて受け入れるようになっていた。

 

理想、第一に人間は、ものに対してだけ権威をもつべきであって、人間が人間に対して権威をもってはならないということ

 

 

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 元々無職気質があったので、ヘンリー・ミラーを働く前によく読んだが、おそらくいまでもわたしの人格に影響していると思われる。

 

 

ヨーロッパから戻ってきたミラーは改めてアメリカの問題を認識した。アメリカは、奴隷たちの民主主義の国になってしまった。貴族ではなく奴隷、機械が平等に生活する国、無為と無害の一生を約束される国、これが建国の理念を忘れたアメリカである。

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老サラリーマンよ、現在のぼくの僚友よ、ついに何ものも君を解放してはくれなかったが、それは君の罪ではなかったのだ、きみは、かの白蟻たちがするように、光明へのあらゆる出口をセメントでむやみにふさぐことによって、きみの平和を建設してきた。きみは、自分のブルジョワ流の安全感のうちに、自分の習慣のうちに、自分の田舎暮らしの息づまりそうな儀礼のうちに、体を小さくまるめてもぐりこんでしまったのだ、きみは、風に対して、潮に対して、星に対して、このつつましやかな堡塁を築いてしまったのだ。

 「きみは答えのないような疑問を自分に向けたりはけっしてしない。要するにきみは、トゥールーズの小市民なのだ」。

 

 「ぼくは、疑わなかった、自分に、こんなにわずかな自治しか許されていないとは。普通、人は信じている、人間は、思いどおり、まっすぐに突き進めるものだと。普通、人は信じている、人間は自由なものだと……

 すべては明快だ。思いどおりにならないときは死ぬ。力のない人間は死ぬ。

 「ぼくには、もう理解できない、あの郊外列車の市民たち、自分では人間だと信じているが、じつは彼らの感じない圧力によって、その用途からいうと蟻のようなものに退化してしまったあの人たちを」、「ぼくは、自分の職業の中で幸福だ」。

 

 

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 ◆ヘンリー・ミラーを考え直す

 ヘンリー・ミラーはドイツ系アメリカ人の作家で、現在では、シュルレアリスム的な手法を活用した文体、タブーを気にしない性的な表現によって歴史に残っている。

 しかし、わたしがもっとも好きなのはかれの自由や個人主義を追求する姿である。

 

 このブログのタイトルの由来にもなった『宇宙的な眼』からの引用は以下のとおり。

 この本のなかでの労働は、アーレントが定義するような、生存するための労働(Labor)ではないか。

 

"We want plot because our lives are purposeless, action because we have only an insect activity, character development because in turning in upon the mind we have discovered that we do not exist, mystery because the dominant ideology of science has ruled mystery out of our scope and ken. In short, we demand of art a violence and drama because the tension of life has broken down..."

(私たちはプロットを求めるがそれは人生が無目的だからです。昆虫的活動しかしていないからアクションを求めます。自分自身の心を振り返ると私たちは存在していないも同然なので、キャラクターを求めます。科学イデオロギーが謎を排除しているので、ミステリーを求めます。要するには、わたしたちが暴力とドラマの芸術を求めるのは、わたしたちの人生における緊張がなくなっているからです)

 

Men are struggling for the right to work! It sounds almost incredible but that is precisely what it amounts to, the great goal of the civilized man. What an heroic struggle! Well, for my part, I will say that whatever else I may want, I know I don't want work.

(人々は働く権利のために戦っている! まさに信じがたいことだが、これが正確な実態であり、われわれ文明人の偉大な目標なのである。なんと英雄的な戦いだろう! さて、わたしについていえば、自分が何を望んでいようと、労働を望んでいないことは確かである)

 

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 「汝のあるがままなれ、ただし極限まで!」

 

彼は電報会社の雇用主任として働いていたことがある、その経験は「人間が職などというものをこうも恥知らずに他人に哀願できるということに腹を立てさせる」ものであり、電報配達夫たちにとってミラーは神だった――そして神たることは、贋物、まがいものとしてにすぎぬとしても、人間の見出しうるもっとも荒廃的な立場だといっても過言ではなかろう。

 

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アラビア語にしろ、またナヴァホー族のことばにしろ、それを知るためには現地人にならなければだめです……ぼくらを賢明にしてくれるのは年齢ではありません。人びとは経験だというようなふりをするけれども、それでもない。要は精神の敏活さです。

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「もう一つぼくが心からその価値を信じないものがある――労働だ。労働、こいつは人生のほんの門口にいるぼくにとっても、愚鈍な人間のためにとっておかれた活動であるとしかおもえない。それは創造とは正反対のものだ。創造は遊びであり、それ以外に何の存在理由もないがゆえに人生における最高の原動力なのだ」。

 

 

 ――ぼくがもっともきらっていたのは、彼らのうわべだけのまじめさだった。ほんとうにまじめな人間は陽気なものだ。のんきといってもいいくらいだ。腹の底からの安定を欠いているがゆえに、この世のいろんな問題を引きうけるやつらを、ぼくは軽蔑した。いつまでも人類の状態になやんでいるやつは、自分自身の問題を一つももたないか、ないしは、それと対決するのを拒んでいるのだ。

 

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――われわれは実に多くの若者が人生を恐れているのを知って唖然とした。彼らの心理は年寄り、病人、虚弱者のそれであった。

 

 

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 ◆読書の実益

 フィクションや歴史、哲学に関する本など、実益と程遠い本を読んできて今までに実社会に役だった例を適当にあげたい。

 

曹操やエルンスト・ユンガーなどにあこがれて、格闘技を始めて自〇隊に入ったら健康維持に向上し、その後の転職にも有利になった

・本を読みたいので英語を読んでいたら仕事で有利になった

古代ギリシアの戦記やコリン・パウエル、シュワルツコフなど軍人の自伝、戦史を読んでいたらどういう指導者が支持されるか・優れているか知ることができその後管理職になった際に部下から無能とバカにされない程度に仕事ができた

・一連の本を読んで、夜中に疲れ切って帰るようなむなしい生活から逃げ続けていたら、そこそこ自由な暮らしができるようになった(金持ちではないが時間はある)

・メモをとったり、このブログを書いたりしていたので、文章を書くことが苦でなくなった

・このブログのアフィ収入で本が数冊買えるようになった

 

 

 ◆園長先生はいらない

 無職戦闘員になって以降、主に自宅戦闘員として働いてきたが、自〇隊の点呼のような強制出社命令が出たので、新しい仕事にもうすぐ切り替えることになった。

 幼稚園が園児を子守りするような組織にはいたくないので、今後も自分の方針を堅持したい。

 現場作業を下に見ているのではなく(元々現場そのものの自〇隊だったので)、出社して会議室が足りないのでリモート会議や、夜まで待機して海外部門と会議などがばからしい、何よりそのような方針を出す昭和臭のする組織に嫌悪を抱いた。

 現在のわたしの環境においては、無意味だとおもう仕事、しょうもない組織に所属しているのは自分の選択の結果だと考えている。

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