うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

むずかしい鳥


 両手に塗った、金色の

 液状の気持ちをもって

 鳥は肉をつつく

 雲の穴を抜けて、それは

 二重らせんにそって

 私たちの、まさに

 チベットの屍骸の上に

 着地した。

 

 かれらが、くちばしをもって

 王の肉、神の肉をついばむごとに

 きこえるかなあ、

 無欠の僧が、笛を鳴らすのが。

 では、これを神肉と呼ぼう。

 鳥たちの、餌付けのようすにちなんで。

 

 あるいは、

 仏塔のそばに

 双眼鏡を手にした

 遺伝病者のすがた。

 

 赤い帽子、エメラルドのコートを着たネズミが

 その名は、めこのぷしす・ほりどぅら

 音もなく、

 今日も肉をついばむ。

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昆虫の書

 ◆KGB職員や亡命者の本

 今読んでいるのは元KGB将校スドプラトフの回想録である。

KGB衝撃の秘密工作〈上〉

KGB衝撃の秘密工作〈上〉

 
KGB 衝撃の秘密工作〈下〉

KGB 衝撃の秘密工作〈下〉

 

 

 スドプラトフはウクライナ出身の情報員で、NKVD局長エジョフやベリヤが権勢をふるった時期に重要任務に従事した。

 かれはトロツキー暗殺の指揮者であり、またアメリカの科学者たちと接触し、原爆に関する情報を手に入れた。また、スターリンが晩年に引き起こした被害妄想的な粛清事件も担当した。

 

 スドプラトフはソ連崩壊後にジャーナリストのインタビューに応じ、非常に貴重な証言を残している。

 

 原爆の開発情報をソ連に渡した科学者たちは、米ソによる勢力均衡が平和をもたらすという信念を持っていた。

 

 ――スドプラトフは科学者たちとつきあううちに、彼らが自らを新種のスーパー政治家であってその使命は国境を超えると考えていることを知った。スドプラトフのチームは、科学者たちのこの自惚れを利用したのだ。

 

 スドプラトフは失脚して20年ほど収容所にいたが、その後名誉回復しソ連崩壊を生き延びた。この回想録を出版したときも、スターリンやベリヤ、つまりソ連社会主義についての見方は両義的である。

 

 ――スターリンとベリヤは、政治家と犯罪者、両方の素質を持っている。かれらは数々の不正や非道を行うと同時にソ連超大国にした。

 

 プーチンとFSB(KGBの後継組織)の腐敗を告発し、ポロニウムで毒殺されたアレクサンダー・リトビネンコは、著作のなかで、スドプラトフの回想録がFSB職員の間で回し読みされていたことに言及している。

リトビネンコ暗殺

リトビネンコ暗殺

 

 

 ほぼ同じ時代を生き、スターリン存命中に亡命したクリヴィツキーも回想録を残したが、この人物はその後不審死した。

スターリン時代【第2版・新装版】――元ソヴィエト諜報機関長の記録

スターリン時代【第2版・新装版】――元ソヴィエト諜報機関長の記録

 

 

 オレグ・カルーギンはソ連末期に亡命した対外防諜局長だが、かれの回想録も様々な文献で引用されている。

Spymaster: My Thirty-two Years in Intelligence and Espionage Against the West
 

 

 亡命者は全体主義国家や秘密警察国家の貴重な事実を明らかにしてくれるが、すべてが信用できるかというとそうではない。

 ルーマニアチャウシェスク政権において秘密警察のトップを務めていたイオン・M・パチェパは、70年代末に亡命し政権の暴露本を書き有名になった。

赤い王朝―チャウシェスク独裁政権の内幕

赤い王朝―チャウシェスク独裁政権の内幕

 

 

 本書の評価は概ね好評である。しかしパチェパはその後合衆国の保守派にもてはやされ、証明不能陰謀論を展開しているようだ。

  例:イラク大量破壊兵器はロシアGRUが廃棄・隠匿を手伝った。

   ケネディ大統領、毛沢東KGBによって暗殺された。

Disinformation: Former Spy Chief Reveals Secret Strategies for Undermining Freedom, Attacking Religion, and Promoting Terrorism (English Edition)

Disinformation: Former Spy Chief Reveals Secret Strategies for Undermining Freedom, Attacking Religion, and Promoting Terrorism (English Edition)

 

 

 

 ◆日本のこころ

 太平洋戦争時、日本軍担当の情報将校として働いていたオーテス・ケーリ氏の本を読んだ。氏はニミッツ提督の海軍司令部でドナルド・キーン氏と一緒に勤務した。

真珠湾収容所の捕虜たち:情報将校の見た日本軍と敗戦日本 (ちくま学芸文庫)

真珠湾収容所の捕虜たち:情報将校の見た日本軍と敗戦日本 (ちくま学芸文庫)

 

 

 日本人捕虜の管理、投降呼びかけ工作等に従事し、戦後は同志社大学で長く働いた。

 戦時中や、敗戦直後の日本人に関する記述を読むと、その性格や行動がいやに見慣れたものであると感じた。

 

 とある零戦パイロットの捕虜は、誠実な人間には誠実に接し、そうでないものとは戦った。
 ――……人格を認めてくれる心の温かいアメリカ兵に対しては、誠心誠意働いた。……かれのこの態度は、日本人に対しても同じだった。利害にさとい日本人、権力にこびる日本人、そして権力をかさに着たがる日本人を、不親切なアメリカ人同様に憎んだ。日本捕虜の大部分を信用しなかったとさえ言っている。

 

 ――私の考えでは、日本人は抑えられることには馴れている。だから抑えられながら、表面抑えられたと見せて逃げ回る術を心得ている。抑えないで人間扱いすると勝手が違うので、ある意味では陸に上がった河童のように抵抗力を失う。

 

 ――汽車や電車に「進駐軍の命により」と日本語で書いて、日本人に規則を守らせていたが、私はそれを不快に思った。進駐軍を持ち出さなければ、日本人同士の規則が守れず、問題が片付かないということが情けないのである。巷の下らない喧嘩まで、進駐軍が出ないとおさまりがつかないという状態が情けないのだった。

 

 ウェーク島での人肉食について、新聞社などに話した元捕虜は、話を真に受けてもらえなかった。

 

 ――日本人は、まだ戦争をほんとうには反省していない。実相すらも知らされていない人、知ろうとしない人が多い。

 

 米軍の威光を傘に威張り散らす者、勝手に忖度して命令を出す者が多くいた。

 

 ――日本の政府や、政治屋のやり口に、こういう手を使う悪質なのがいなければ幸いである。国民大衆を、自分に都合のいい方へ引っ張っていくために、関係筋のお達しでもあるかのように装ったりする向きがあるかもしれない。そういう手に乗らないように気を付けたい。

 

 

 ◆アメリカン・スクールの者

 オーテス・ケーリ氏は、耳の痛いエッセイを書いたためか、聖職者としての説教調が煙たがられたのか、解説によると長く不遇の時代を過ごしたらしい。

 氏の本を読んでいて、小島信夫アメリカン・スクール」とともに、わたしは自分自身の迷彩公務員としての体験を想像した。

アメリカン・スクール (新潮文庫)

アメリカン・スクール (新潮文庫)

 

 

 銃剣振り回し兵隊として学校に所属していたとき、とある米軍基地に研修する機会があった。

 そこで最初にプレゼンテーションをしてくれたのが、米軍で通訳・渉外として働いている日本人の事務官だった。

 在日米軍が採用する日本人職員はすべて、日本政府が募集・採用し、米軍に派遣している。よって法律上、〇〇隊とこの職員たちは同じ省庁に雇われた人間である。

 そしてこの事務官はわたしたちが会議室に入ると次のように言った。

「わたしは〇〇隊のことはよく知りませんが、あなたたちは〇〇隊〇〇課程であってましたか」

 パワポに表示されたわたしたちの所属名は大きく間違っていたが、だれかが指摘すると、〇〇隊はまったく詳しくないのですみません、と回答した。

 その後の研修で事務官からは「いやあ、この設備は非常に高価なので、日本にはとても無理ですね」等のコメントがあった。

 わたしたちは「あいつ、完全にあっち側の人間になったつもりだな」とヒソヒソ話した。

 

 

 ◆今後の予定

 ヒトラー暗殺作戦に関与したボンヘッファー牧師の伝記。

Bonhoeffer: Pastor, Martyr, Prophet, Spy (English Edition)

Bonhoeffer: Pastor, Martyr, Prophet, Spy (English Edition)

 

 

  独ソという危険な大国に囲まれたフィンランドについて勉強する。

Mannerheim: President, Soldier, Spy (English Edition)

Mannerheim: President, Soldier, Spy (English Edition)

 

 

 文語訳聖書は、もう少しで旧約聖書が終わるので、今年中に読み終わりたい。

 来るべきときのためにロシア語の勉強を再開した。

その家はよみのみちにして死の室に下りゆく

 無職戦闘員のみた夢の内容

・知恵文学

・労働

・科学サイド

トクヴィル

 

 ◆猿智慧文学

 記事のタイトルは「箴言Proverbs」からです。

 文語訳聖書をはじめから読んでおり、現在は箴言まで来ています。1つ前の「詩篇」は金太郎飴のような賛美が続くのでほぼ読み飛ばしましたが、「箴言」は非常に面白いです。

 ロレンスの『知恵の七柱』の由来となった箇所を発見しました。

 

 ――智慧はその家をたて その七つの柱をきりなし そのけものをほふり……

 

 「エステル記」では、ユダヤ人絶滅をたくらんだ、側近ハマンや各州の敵に対して、ユダヤ人モルデカイとその娘エステル(ペルシア王の妻となっていた)が報復の処刑を行います。

 

 ――ユダヤ人すなわちやいばをもてそのすべての敵を撃ち殺して殺し亡ぼしおのれを憎む者をこころのままになしたり ユダヤ人またシュシャンの城においても500人を殺しほろぼせり

 ――エステルいいけるは王もしこれを善しとしたまわば願わくはシュシャンにあるユダヤ人にゆるして明日も今日の詔のごとくなさしめかつハマンの10人の子を木にかけしめたまえ
 ――……おのれを憎む者7万5000人をころせりしかれどもそのもちものには手をかけざりき

 

 聖書は人間の過ちが数多く書かれた本であり、人間の不完全さを示している、と解説する方がいます。しかし、過ちの中のだいぶん多くの部分は、エホバの指示のもと行われていたり、エホバに評価されていたり、というような印象を受けます。

 

 教会や聖職者が行ってきた犯罪や不正行為は歴史の中にいくらでもありますが、同時に素晴らしい行為もあります。

 

 ハワイ州のモロカイ島にはハンセン病患者を隔離するための集落があり、断崖絶壁で周囲から孤立しています。島にやってきたベルギー人ダミアン神父は、当該カラウパパKalaupapa診療所で患者のケアを行い、本人も感染しました。

 

 カラウパパ診療所を崖の上の展望台から見下ろしています。

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 クリミア戦争の本を読んでいるときに印象に残ったナイチンゲールもまた、独自の信仰を持っていたようです。調べた限りでは、当時の国教会の教義には批判的で、あくまで自身の信仰に基づいて看護活動を行ったということです。

 

 自分がキリスト教徒になれるかといわれると、キリストの復活を信じることができないので無理だと思います。30歳過ぎてから、キリストがまさに屍体の状態から復活した、というのを新たに信じるというのは非常に難しいです。

 

 

 ◆労働者の夢

 ナイチンゲールの業績を調べていると、人の役に立っているということをうらやましくおもいます。

 無職戦闘員としてはまず自宅を守ることだけが任務ですが、世のため人のためになっているかというとそこまで自信がありません。

 

 家で下のような夢を見ました。

 迷彩服を着た公務員だったときはどうかというと、在籍した時間のうち95パーセントくらいは、人生のムダと感じていました。

 人の役に立っている、まっとうな仕事をしている、と感じたのは職場や外の人から感謝されたときだけでした。しかし、普段しょうもない部分を見ており、自分も多かれ少なかれ加担しているため、周囲をだましているような気分になります。

 特に地震後は外部の人から感謝されることが多く、そのたびに気まずくなりました。外部の人に対して、「いや、全然クソですよ。税金をどぶに捨ててますよ」などとは言えないからです。

 制服やサバゲー衣裳で外に出なければならないときは、よく声をかけられました。「日本を守ってくれてありがとう」と声をかけられれば、恐縮するしかない。「実はこの器材はガラクタですが、それを言うと会計検査で問題になるから言いません」などとは言えませんでした。

 

 いまは深刻な人手不足だそうですが、若い人の人生をつまらなくする無駄ルールや無意味な業務をどうにかしない限りは改善しないだろうと思います。

 

 最後にやらされたムダ作業は行政文書用キングファイルの大量作成でした。

 頭の弱い大臣・政治家たちが例の日記文書――どんな末端兵隊でも、保存していないわけがないとわかるパワポ資料――のある・ないでひとしきり騒いだ後、わたしたち末端の兵隊たち全員が集合させられて、「行政文書の管理が重要だ、国民の厳しい目が向けられている」と指導されました。

 「行政文書の管理がずさんだったのではなく、本来存在していたものを、政治的配慮で存在しないと言い張ってそれがばれたから問題になったのでは?」と思った人が多数でしたが、ソ連的しぐさで皆大人しくしていました。

 その後やらされたのは、紙と背表紙を印刷してキングファイルを大量生産する作業でした。

 あまりに面倒なので、これは言外に「都合の悪い書類は存在自体をなかったことにしろ、メールフォルダ、PC、紙すべて抹消しておけ」ということだと我々は察しました。

 ※ なお政治家だけでなくサバゲー組織自体も書類の隠蔽は得意分野で過去に問題化しています。

いじめ自殺事件 - Wikipedia

 

 

 大きい役所では、一定レベル以上の改革は政治の範囲になりますがこの範囲の人びとが輪をかけてひどいです。

 昨今では予算の増額も「いいねえ、じゃぶじゃぶお金かけよう」で見過ごされてますが、失敗したときにまた、騙された、と1億2000万人が発狂する流れが見えます。

 

 本当に自分が納得のいく、人のためになることをやって生計を立てるのは難しいと感じます。世の中の役に立ちたいという感情だけが先走っても、問題が出てきます。

 昔、大変正義感の強かった知り合いが謎のネットワーク商法にとりこまれているのを見て、判断力も同じくらい重要だと考えるようになりました。

 

 

 ◆科学と魔術が交差云々

 キリスト教の中でも聖書を文字通りの事実ととらえる宗派(ファンダメンタリスト等)があり、ドーキンスやカレン・アームストロングの本でも批判されていましたが、アメリカに滞在していると意外に身近なところにいるのでおどろきます。

 とある知人はサイバー・セキュリティ関連会社に勤めており、契約業者として米国防総省のサイバー戦に関わっています。

 かれは毎週末教会に通っており、「聖書の重要性はその事実性にある」と力説しています。かれの情報処理・セキュリティ知識と聖書の事実性がどう整合をとっているのかわかりませんが、人の心は単純ではないと感じました。

 

the-cosmological-fort.hatenablog.com

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 ◆引き続きトクヴィル

 トクヴィルアメリカ合衆国観察は、かれが影響を受けたモンテスキューよりも現代に通じる点がたくさんあります。モンテスキューの主張には、今の感覚だと奇妙な点もたくさんありますが、トクヴィルは読み進めるごとにその通りだと感心しています。

 『アメリカのデモクラシー』で描かれているアメリカ合衆国は、既に存在しない世界です。同時にトクヴィルは、民主主義が暴政にいたる致命的な欠点も指摘します。

 

 この本に登場する19世紀の合衆国民は自分の国に愛着を抱いていますが、実際に生活していても同じような方が多数です。外国人に対して「自分の国はクソだ」という人はほとんどいませんし、なかなか言えないとおもうので本音はわかりませんが。

 自分の関与できないところで世襲政治家たちが税金を詐取し、公文書を改ざんし、理不尽な受信料をとり、住民の大半が英語を理解しないのをいいことに公共放送ででたらめなプロパガンダを垂れ流し、中世的な尋問や身柄拘束を行う国にどうやって愛着を持つことができるでしょうか。

 わたしはこういう輩の養分になるために生きたくはありません。

 ――権力はあなたが部屋の中で、モニターの前で大人しくしていることを望んでいる。

 

 

 ・地方自治と主権者意識の重要性

 ――アメリカの政治姿勢を形成しているのはタウンシップである。タウンシップは自治体の自由freedom of municipalityを実現した稀有な例だが、この自由こそが自由主義的国家の精神の源となっている。自治体の自由の精神なしには、いかなる自由主義的政治制度も張りぼてにしかならない。

 

 

 ――分権化したアメリカの町村は非常に活気に満ちており、またよく自治されている。
 ――ヨーロッパの典型的な住民は、自分たちの外の問題にまったく関心をもたず、しかし危機が迫ると政府に助けを求める。強制には従う一方、従わなくていいときは規則に反抗する。かれらには公民としての徳が欠けており、臣民ではあるがもはや市民ではない。

 ――わたしが合衆国について最も尊敬するのは……祖国がどこでも関心の中心であることである。……かれらは自国の繁栄を、自分たちの貢献が活かされたものと認識して喜ぶのである。

 

 2種類の愛国心(patriotism)……故郷や自分の君主に向けた原始的な、熱狂的な愛国心と、法や教育、政治参加により得られるより理性的な愛国心が存在する(君主制愛国心と共和政の愛国心)。国家が腐敗した場合、原始的な・素朴な愛国心はもはや戻ってこない。人びとを自分たちの国に巻き込むには、かれらの政治参加を増やすのが方法の1つである。市民の精神は政治参加の度合いに比例して増大していく。

 

 

 ・言論(出版)の自由

 ――言論の自由は、少しでも制限されればたちまち全面的な抑圧につながる。国民主権報道の自由は両者不可分である。それは検閲制度と普通選挙が両立不可であるのと同じである。

 

 ・民主主義の幻想

 ――予想に反して、アメリカでは、優れた人物が公職に就くことは少ない。その理由は国民の知的レベルにある。一定以上の知識を身に着けるには仕事をせずに学習する時間が必要である。しかし、国民全員が知識階級という国は、全員が富裕層という国と同じくらい非現実的である。現実では、口のうまい山師が、真に優秀な人物を押しのけて人びとの人気を獲得する。

 

 ――アメリカにおいて多数派が決断した場合、言論や思想の自由は、君主制国家以上に抑圧される。こうした自由は、多数派が許す範囲においてのみ保障される。君主制とは異なり、民主主義下では、異論派は肉体的に弾圧はされないが、社会的に排除される。

 ――どれだけ有名な著述家であっても、市民を賞賛するという責務からは逃れられない。アメリカの多数市民は終わりなき自画自賛のなかで生きている。外国人や専門家だけがアメリカ人の耳に真実を伝えることができる。

 

 アメリカにおける思想の自由の欠如は、スペインの異端審問を超えている。

 ヨーロッパの宮廷では主権者(国王)へのお追従・御機嫌取りが日常となるが、多数派が支配するアメリカではこの宮廷精神(お追従・御機嫌取り)が日常社会にまで浸透する。自国にとって都合の悪いことを口にする人間がアメリカにはほとんどいない。

 

 ・陪審

 ――陪審制はすべての人に対し、自らの行為の責任から逃れてはいけないことを教える。この態度なしに政治的な美徳は存在しえない。

 ――……陪審制はすべての人に対し、かれらが社会に対し責務を負っていること、政府の一員であることを学ばせる。

 

 ・多数派の暴政

 合衆国では多数派の信念が無批判に受け入れられている。多数派の思考が国や国民の精神に及ぼす影響は、宗教に匹敵する。

 平等は、一方では各人の自由な思考を促すと同時に、他方では思考を多数派の総意の内に閉じ込めてしまうだろう。後者は、別のかたちの隷従に過ぎない。

 

 ――私の考えでは、権力がわたしを抑えつけていると感じるとき、だれがやっているのかは問題ではないし、無数の手がわたしに服従するよう促すからと言ってそのくびきに跪くつもりはない。

 

 ・平等の結末の1つ

 反射的にナチス・ドイツソ連を連想しますが、ハンナ・アーレントによれば全体主義への移行は19世紀から既に始まっていたとのことです。

 

 ――平等は、各人に自分が皆と同等であるという自信を与えると同時に、かれを脆弱で無価値な存在に追い込む。

 ――社会条件がより平等になり、個人がお互いに似たり寄ったりとなり、弱く、ちっぽけになるにつれて、市民よりも国家を重視し、個人をかえりみず人種のみを考慮する習慣が生じる。

 

Democracy in America and Two Essays on America (Penguin Classics)

Democracy in America and Two Essays on America (Penguin Classics)

 

 

On Tyranny: Twenty Lessons from the Twentieth Century

On Tyranny: Twenty Lessons from the Twentieth Century

 

 

無欠の星

 その日はきた

 山は溶けて、すべて

 白い経文のなかに

 のみこまれていく

 雲の底から、この世の虫

 この世の島と同じだけの

 僧が顔を出し

 統一の声が

 ある。

 かれらの慈悲によって

 ふくらんだ顔、

 月と梵字よりも、丸まった

 皮膚

 そうして

 僧の顔面は

 海よりも大きい

 平たくひきのばされた

 古い時の

 石と土のにおいがする

 かれらの数字に

 耳をそばだてて

 やがて、ひそひそと生まれる

 灰になったの鳥のひなが。

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