うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『アデナウアー』板橋拓己 その2

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 アデナウアーは外交を最優先させた。その目標は、ドイツの主権確立と、西側諸国の統合である。

 アメリカを欧州に引き留めるため、再軍備を決定した。

 かれはソ連に対しては融和を拒否した。スターリン・ノート(ドイツを中立国として統一させるスターリンの提案)も、西側諸国との統合を阻むものとして拒絶した。

 

 ――あらゆる全体主義国家と同様にロシアは、言葉ではなく力を尊重します。それゆえ、攻撃した場合に自ら招く危険をロシア人に認識させるには、西欧に強大な力を築くことが必要です。こうした攻撃力の構築のみが、平和を維持することができるのだとわたしは強く確信しております。

 

 1954年、アデナウアーは首相に再選された後、基本法を補充し国防と兵役の項目を追加した。

 同年、ドイツはNATOに加盟し、翌年、パリ協定が発効し占領が終結した。ドイツは主権を回復した。

 1955年にはドイツ人・ドイツ兵のモスクワ抑留者を帰還させることに成功したが、現在では、これがアデナウアーの功績なのかどうかは議論がある。

 

 ドイツ・イスラエル関係について……西ドイツが国際社会に復帰するためには、イスラエルとの和解が不可欠であるとアデナウアーは考えた。

・ナチ体制を否定し、その犯罪を認めた。

・宗教的・人種的な差別を禁じ処罰する法律を定めた。

イスラエルに物質的・道義的補償(賠償金)を行った。また、秘密裡に軍事支援も行われた。

・アデナウアーとベン・グリオンは頻繁に交流した。アデナウアーは、首相退陣後もイスラエルを訪問した。

 

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 アデナウアーの政治スタイルは「宰相民主主義」と呼ばれる。

 CDUを権力の基盤としてリーダーシップをとったが、議会は無視されがちだった。

 

 ――……アデナウアーは、金権政治も厭わなかったし、旧ナチス層に対する懐柔政策もためらわなかった。

 ――こうしたアデナウアーの選挙戦略に共通しているのは、CDUが強くなければ、一方で共産主義社会主義勢力が拡大し、他方ではナチスのような強力な右翼政党が台頭するというレトリックである。それはレトリックにとどまらず、アデナウアーの信念に近いものでもあった。

 

 内政について……

・住宅建

・税制による負担調整

・被追放者・難民の統合

・ナチによる被迫害者への補償

・動的年金(賦課方式)

 

 1950年代を通じてドイツ経済は復興を果たした。しかし、その後アデナウアーの求心力は低下し、後任のエーアハルトに首相の座を譲った。権威失墜の理由は次のとおり。

 

・次期大統領をめぐって、政敵を大統領候補にしようと画策する(大統領には政治的な実権がないため)等右往左往し、最終的に自身が大統領候補になろうとしたため非難された。

・1961年のベルリン危機の際に問題に対応せず、ベルリン市長へのネガティブキャンペーンを続けた。

 

 ベルリン危機をめぐってフランスと米英の立場が分かれた。アデナウアーは、米と協調する「大西洋主義」ではなく、アメリカに対する自立性を重視する「ゴーリスム」に接近し、ド・ゴールに与した。

 1963年エリゼ条約による独仏和解が達成された。

 

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 アデナウアーは、戦後ドイツの「西欧化」、「西側結合」の指針を定めた。

 一方、民主主義の基礎を定めたが、彼自身は独善的な人物だった。

 

 ――……政敵を叩き潰すことはもちろん、時には政友を裏切ることも、民意を無視することも厭わない、独善的な人物であった。

 ――そして、何より西ドイツ国民の政治能力を信用していなかった。

 

 かれが社会の安定と権力基盤の強化のために、元ナチ党員を活用したのは事実である。それでも、イスラエルおよびユダヤ人団体への補償をおこない、「過去の克服」を開始したことには意義がある。

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 アデナウアーは、犯罪的指導者の後任として、国際社会への復帰、西側との結合を達成した。

 著者は特にドイツの補償問題に注目し、日本の保守政治家との違いを強調する。

 

 ――……アデナウアーのイスラエルユダヤ人団体への補償政策を調べているとき、何よりも日本政治の憂鬱な現状が、つねに私の頭のなかにあったことは否定のしようがない。自国民のナショナリズムを煽り、あるいはそれに迎合し、国際社会における日本の立場を毀損していく自称「保守」の現代日本の政治家にうんざりするあまり、世論や自党にも抗して、「外圧」をうまく利用しながら、国際社会復帰のために粛々と補償を進める「保守」のアデナウアーに畏敬の念すら禁じ得ないときまであったことは告白しなければならない。

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アデナウアー - 現代ドイツを創った政治家 (中公新書)

アデナウアー - 現代ドイツを創った政治家 (中公新書)