うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『権力と支配』マックス・ヴェーバー その2 ――権力を考える古典

 8 合議制と権力分立

 支配は伝統的にあるいは合理的に制限されることがある。

封建制

・官僚制

・合議制

 

 合議制原理を最高決定機関に適用することで、支配を弱体化しようとする作用がある。

 

 ――合議制は、――単一支配的な棄却合議制の事例をのぞき――精確かつ一義的な、とりわけ迅速な決定を阻止することが、ほとんどさけられない。

 

 合議制は、民主制特有の現象ではない。歴史的に、官庁という概念を発達させたのは合議制である。合議制的官僚団体が、西洋君主を政治的に弱体化させることで、官庁は発達した。

 最終的には、単一支配的に(内閣総理大臣によって)統率された、最高合議体の連帯責任制および官僚制的行政が支配的となった。

 

 身分制的権力分立に対して、専門分化的権力分立による主張権力の制限も存在する。これは近代の立憲的(成文法、非成文法問わず)権力分立だけでなく、中世以来の政教分離なども当てはまる。

 一般的に権力分立は経済の合理化を加速させる。権力分立は明確な権限を創り出し、「計算可能性」を官庁の機能に生じさせるためである。

 逆に、権力分立の破壊を目指すソヴィエトやフランス革命は、どちらも経済の実質的変革を目標としており、形式的な合理性を阻むものである。

 

 

 9 政党

 

 ――政党とは、自由な勧誘に基づく結社のことであって、ある団体の内部でその指導者に勢力をえさせ、また、これをつうじて、その能動的関与者にチャンスをあたえることを目的とするものである。

 

・形式的・合法的党派

・カリスマ的党派

・伝統主義的党派

・信仰に基づく党派

・純然たる専有に基づく党派

 

 

 10 没支配的団体行政と代議行政

 為政者が団体成員の意志に奉仕し、全権を委任されて機能するとき、団体は、執行機能と結びついた支配権力を最小化させようとする(支配の極小化)。

 行政幹部が選挙で任命される場合の例は、これを「直接民主制」と呼ぶ。

 名望家行政とは、社会的に地位の高い、資産と時間に余裕のある人間が政治・行政に携わる形態をいう。直接民主制は、名望家行政に移行する傾向を持つ。

 

 

 11 代表

 代表が専有されている例は身分制的代表である。

 一方、拘束的代表は、被代理者の同意に拘束される。

 

 無拘束的代表は、選出されるが、かれらは訓令の拘束を受けず、自己の一存で行動する。かれらは自己の所信に基づいて行為し、被代表者の利害を擁護するよう命じられていない。

 

 19世紀半ばまで、英国では議員は特権身分とされ、国会は傍聴禁止、議事録を流出させた際には刑罰が科せられた。

 これは、近代の議会主義的代表に特徴的な型である。

 

 ――この政党こそは、政治的に受動的な市民に候補者と政綱を提示し、議会の内部で妥協とか票決によって、行政規範を制定するものなのであり、また、選挙にさいし、多数を制するに成功したあかつきには、行政規範自体に統制を加え、行政規範をその信任によって支持し、ひきつづき信任を拒否することによって、それをくつがえすのである。

 

 かれらは政党内閣を形成する。

 政党支配のほかに君主や大統領が存在し勢力を保持するとき、立憲的統治が成立する。

 

 ――代表機関の統治権力は、被支配者に直接質問する道がひらかれていることによって、ひろく制限され、かつ正当化されることがあろう。国民投票制度が、それである。

 

 代議体は、万人の権利の平等と結びついているわけではない。歴史的には議会主義的支配は民主的基盤ではなく、貴族制や金権制から生じた。

 

 政党の変化……

・名望家が構成する議会から、階級政党、プロレタリア政党の台頭へ

・政党の官僚制化により選挙民の「主人」であった代議士から、党機構の指導者につかえる下僕としての代議士へ

 

 職能ごとの集団による代表……利益代表者による代表が存在する。利益代表者による代表が階級政党となった場合、一定の階層から選挙権をはく奪する意図が結びつく。

 例えば、大衆から実質上の選挙権をはく奪したり、有産階級から選挙権をはく奪したりする場合。

 代表の発展はすべて西欧の身分階級の上に生まれた、特有の現象である。

 

 

 12 身分と階級

 

 階級の種別……

・財産階級

・営利階級

・社会階級

 

 身分とは社会的評価における特権付けのことをいう。したがってヴェーバーの定義では身分と階級は別である。

 身分を成立させるのは、固有の生活様式、家柄血統に由来する威信、政治的・教権制的な権力の独占等である。

 身分の中核はしばしば財産階級によって構成される。経済的には、身分社会は生活様式の規定をつうじて組織され、営利能力の自由な発展を排除するため、自由な市場の形成は阻止される。

 

 

  ***

 2部 官僚制

 1 官僚制の特徴

・規則:規則に基づく官庁的権限の原則

・官職階層制:上級官庁による下級官庁の監督、上下関係の体系

・私生活と業務の隔離、文書主義

・専門的訓練を前提とした職務

・専業

・職務の遂行は一般的な規則に基づく。

 

 

 2 官僚の地位

・天職:「安定した生活を与えられるのとひきかえに、特殊な職務忠誠義務をひきうけることである」。

 かれらの忠誠は、一個人や特定の主人に向けられるのではなく、没主観的な目的に捧げられる。

・一般的に官僚は社会的地位を高く保持しようとする。それは、官僚の出身階層が富裕層や特権階層である場合とくに顕著である。

 一方、営利活動の規模が大きく、身分的因習がない合衆国のような国では、官僚の地位は低い。

 

 純粋な型の官僚制的官僚は、上級機関によって任命され、被支配者に選ばれるわけではない(合衆国での猟官制との違い)。

 

 ――官僚は社会的に下位にある被支配者に依存するよりも……「上へ」の従属をさほど苦にしないこととなりやすい。

 

・固定された俸給制度と、出世システム

 

 

 3 官僚制化の前提と根拠

 貨幣経済の発達が官僚制の経済的前提だが、必ずしも決定的ではない。

 古来から続く官僚制の例:

新王国時代エジプト

・ローマ後期・ビザンツ

ローマ・カトリック

・中国諸王朝

・西洋近代国家

・近代資本主義経

 

 官僚制にとってより根本的な条件は強固な租税制度である(俸給のため)。

 また、以下の条件も官僚制の土壌となる。

 

・行政事務の量的発達

 なお、ローマ帝国大英帝国は、膨張期にあっても官僚制が発達しなかった例である(常備軍が不要であり、封建的な秩序のまま拡大した)。

・行政事務の質的発達

 歴史上、常備軍の整備、財政の発達が官僚制を拡大させてきた。近代では、警察組織が官僚制の原動力となった。

 

 その他の要因……交通・通信の発達。

 

 ――まことに、近代文化が複雑化と専門化の度を加えるにつれて、それは、個人的な同情、恩寵、恩恵、感謝の念に動かされる旧い秩序の首長のかわりに、人間的に中立・公平な、それゆえ厳密に没主観的な専門家を、近代文化を支える外部的機構のために必要とするのである。

 

 官僚制は民主的潮流すなわち支配の極小化と対立する場合がある。

 

 ――世論とはすなわち、大衆民主制の条件下では、非合理的な「感情」から生まれ、普通には、政党指導者や新聞によって喚起されるか操縦された共同行為にほかならない。

 

 行政手段の集中……官僚制的軍隊では、装備糧食は首長の倉庫から支給される。その他の領域でも、中央集権化・中央からの予算配分が進められる。

 官僚制は近代の大衆民主制の随伴物であり、社会経済的差別を平準化と連動して発達した。

 

 とはいえ、民主化の意味を取り違えてはならない。

 

 ――……組織されない大衆という意味での民衆は、比較的大きな団体においては、みずからを「支配」するのではなく、支配されるのであり、支配する行政指導者の選抜方法や彼らに影響を及ぼす度合いを変更するにすぎないのである。

 

 名望家支配に対し闘争した民主制は、次は官僚制に対して闘争することになる。しかし、平準化されるのは被支配者たち(民衆)であって、「支配集団のほう(官僚)は、おそらく事実上も、またしばしば形式上も、まったく専制的な地位を占めることさえありうるわけである」。

 

 

 4 官僚制機構の永続的性格

 ひとたび完成すると官僚制はもっとも破壊困難な社会組織の1つとなる。官僚制秩序の基礎は規律と文書である。また官僚制は、非人格性を有するため、「だれのためにもはたらく労をいとわない」。

 官僚制は敵や、非人道的な人間の下でも変わらず機能し続ける。フランスでは強固なシステムが存続したため、革命は不可能となり、必然的にクーデターとなった。

 

 

 5 官僚制化の経済的および社会的帰結

 官僚制が与える社会的・経済的帰結はさまざまである。

 

・擬装金権制的勢力分配

国家社会主義

・社会全体の民主化

 

 

 6 官僚制の権力的地位

 官僚制の不可欠さがただちに官僚制の社会的評価を決めるわけではない。プロレタリアが経済的に不可欠だから社会的政治的にも強いわけではないのと同様である。

 

・完成した官僚の地位は絶大であり、これに対して首長は、「ディレッタント」的な扱いに過ぎない。

 

 ――どの官僚制も、職業的消息通の知識や意図を秘密にする手段によって、こうした消息通の優越性をさらに高めようとする。官僚制的行政は、その傾向からいうと、つねに公開禁止を旨とする行政なのである。官僚制は、その知識や行動を、できることならどうしても、批判の目からおおいかくそうとする。

 

・機密保持は官僚制の要である。

 

 ――十分に情報を与えられておらず、したがって無力な議会は、いうまでもなく官僚制にとっていっそう好都合である。

 

・君主であっても官僚の意に沿わない命令を実行するのは困難である。

・力のある階層(封建領主)や有産階級出身の官僚よりも、経済的な余裕のない、無産階層出身の官僚のほうが、首長の支配強化に対し好都合である。

・官僚の専門知識に優越したのは、私企業の利害関係者(経営者等)だけである。

 

 

 7 官僚制の発展段階

 専門知識で優位に立つ官僚制に対抗するため、首長は専門家を集めた合議体制で対抗しようとした。ローマの元老院ヴェネツィアの市参事会といった合議制的機関は、近代的官庁概念発展の1つである。公法と私法の区別は官僚制化された国家と法とに特有である。

 

 

 8 教養と教育の「合理化」

 官僚制にとって近代的な高等教育施設は不可欠の要素である。

 おわり

 

権力と支配 (講談社学術文庫)

権力と支配 (講談社学術文庫)