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『権力と支配』マックス・ヴェーバー その1 ――権力を考える古典

 ◆メモ

 歴史上の政治権力に関するデータを集め、定義として一般化しているため、理解が難しい箇所が多い。

 しかし重要なのは、ヴェーバーによる民主制や官僚制の分析である。ヴェーバーが描く民主制や官僚制は、きれいごとの定義ではなく、歴史上の現実である。これはわたしたちが直面している政治の現実である。

 

・代議制は貴族制・金権制として始まった。代議士は本来、民衆の主人であった。

・官僚制は、民衆の社会的階層を平準化させるが、官僚自体は民衆に対して絶対的な優位を持つ、強固な権力となる。

・専門知識を持つ官僚をコントロールするのは君主や首長であっても非常に困難である。

・大規模な民主社会では、民衆は支配される存在であり、世論を通じて巧妙に操作される。かれらは指導者選出に際し若干の選好を示すに過ぎない。

 

 

 ◆官僚制

 官僚制は近代国家の運営に不可欠であるが、同時に、非常に厄介な存在である。

 官僚制度をいかにコントロールするかが政治の問題となる。

 

 

  ***
 1部 権力と支配

 1 正当性の妥当

 支配とは、人々を特定の命令に服従させるチャンスのことである。支配は行政幹部を必要とするが、この行政幹部を首長と結びつけるものが何であるかが、支配関係の安定性にとって重要となる。

 あらゆる支配は正当性を求める。その正当性の種類が、服従の類型や行政幹部の類型を決める。

 

・合法的支配:成文化された秩序の合法性、命令権の合法性にたいする信念に基づく。

・伝統的支配:伝統とその権威に基づく。

・カリスマ的支配:ある人物の神聖さ、超人的な力への非日常的な帰依に基づく。

 

 この類型が、純粋な、単一の型として現れることはなく、現実では常に混交した支配形態がみられるだろう。

 

 

 2 官僚制的行政幹部をそなえた合法的支配

 合法的支配は一定の規則体系によって運用され、上司や支配者もこの法に服従する。服従者は、ただ法にたいして服従する。一定権限に従って整序された経営を「官庁」と呼ぶ。

 官庁は官僚階層制を持ち、下級から上級へと上告・請願がなされる。官僚は専門的訓練を要する。行政幹部の私有財産や住居は、行政から隔離される。行政の文書主義が原則として採用される。

 こうした官僚制行政はいかなる支配類型においても適用できる。

 

 ――……支配は日常茶飯の生活においては、すぐれて行政だからである。

 

 合法的支配の純粋な型は、官僚制的行政幹部による支配である。この制度は、企業や慈善団体、宗教団体、軍隊にも適用される。

 官僚制において専門資格を要求されないのは大統領や閣僚といった形式的な官僚だけである。

 固定給・年金・契約による任用。

 近代的軍隊における将校は、選挙された指導者、カリスマ的傭兵隊長、傭兵軍、将校職買受人とは全く異なる。

 純粋官僚制的な行政は、もっとも合理的な行政であり、これが西欧近代国家の本質である。同様に、資本主義においても官僚制的行政は不可欠である。

 官僚制的行政は技術(電話、電信、交通)を必要とする。またこの行政は知識による支配であり、専門知識と文書に精通することで勢力の伸長を図る。

 社会に対して次のような特徴を持つ。

 

・有資格者から広く後継補充ができるように、(身分的な)平準化の傾向を持つ。

・長期間の訓練を要するため、金権政治化する。

形式主義的な非人格性の支配……理想的な官僚は、義務観念の命ずるままに、無感情に職務を遂行する。

 

 官僚制化は身分の平準化を促進するため、大衆民主制に付随することが多い。

 

 

 3 伝統的支配

 伝統により定められた首長が同胞あるいは臣民を支配する形式であり、行政幹部は、個人的な家臣としての忠誠を有する。首長は、部下たちの忠誠が許す範囲で、恣意的に恩寵や権力を行使する。法は不文法によって承認されることで正当化される。

 行政幹部は、氏族、奴隷、家士、土着農民、解放奴隷、宦官、刑吏等様々だが、官僚制と異なり、規則に基づく権限、明確な階層秩序、契約に基づく人事、専門教育、固定給といった要素が欠如している。

 役職ごとの明確な権限がないため、家臣たちは役得をめぐって競合する。

 

 長老制・第一次家父長制は、個人的行政幹部が存在しない例である。伝統に基づく長老や家父長は、同胞の利益のために権限を行使する。かれは家臣をもたないため、その支配は同胞の服従意欲に強く依存する。首長・同胞ともに、伝統に強く縛られ、伝統に則って行動する。

 首長の家臣・軍事官僚が増大するにつれて、家産制・スルタン制に移行する。首長の私権は拡大し、「伝統の拘束を受けない恣意、恩寵および恩恵」の範囲が拡大する。

 

 行政幹部が、一定の首長権力と経済的機会を専有するとき、これを身分制支配という。身分的専有者は、行政費を自弁する。

 

 身分制的専有は、以下の手段でなされる……請負、質入れ、売却、世襲等。

 家産制的臣僚の扶養手段……首長からの食卓給養、現物給養、保有地、年貢収入や手数料収入、知行(レーエン、個人に授与される、軍事的名誉に基づいた権限)。

 身分制的・家産制的支配では、首長権につながるチャンスが、私的チャンスとして取り扱われる。典型的な身分制支配の説明は以下のとおりである。

 

 ――身分制的権力分立というのは、首長権力の専有を通じて身分的に特権づけられた人びとの団体が、首長との妥協を通じて、その都度、政治上または行政上の規定をもうけ、あるいは具体的な行政命令とか行政措置をおこない、おそらくはまた、ときとして、みずからの行政幹部を通じ、事情次第では、自らの命令権によって、それを実施しさえする状態のことである。

 

 通常、伝統的支配は、合理的な経済発展を妨げる。その具体的理由は細かいので省略する。

 家産制的権力下では、昇任資本主義、徴税・官職請負資本主義、政商・武器商人資本主義、植民地資本主義が栄える一方、私的消費者を抱える営利企業は育たない。

 近代資本主義の発展には、家産制的君主が合理的行政を行うことが不可欠である。

 

 

 4 カリスマ的支配

ja.wikipedia.org

 カリスマを考える際に重要なのは、信奉者たちがカリスマをどう評価しているかである。

 行政幹部はただカリスマ指導者の思いつくままに任免される。

 カリスマ的支配は、合理的支配や官僚制的支配、伝統的支配に対し厳しく対立する。規則とは無縁である点で非合理的である。純粋なカリスマは経済とは無縁である。

 「理性」の主導する合理主義以前の時代では、カリスマと伝統はあらゆる面で対立する。カリスマは、唯一の革命的勢力だったといえる。

 

 

 5 カリスマの日常化

 カリスマ的支配は非日常的な性質を持つが、やがて伝統化されるか合理化(合法化)されていく。日常化への動きは、後継者問題が生じたときに特に強くなる。並行して行政幹部も伝統化・合法化していき、秩禄、官職、知行などが出現する。カリスマの没経済性も失われ、国庫収入や経済条件に適応していく。

 日常化の原動力は安全を求める努力である。

 

 ――……それは、首長の従者および信奉者のために、社会的優位と経済的チャンスを正当化することにほかならない。

 

 人格的カリスマは、世襲カリスマや官職カリスマに変質していく。

 

 

 6 封建制

 封建制は、家産制ともカリスマ制とも異なる。封建制にはレーエン(知行)封建制とフリュンデ(秩禄)封建制の2種類がある。

ja.wikipedia.org

 知行は、首長権力と権利の専有を意味する。授封は特殊な形式で行われる。かれらは特有の身分的生活様式を持ち、自由な契約に基づき、双方に忠誠義務がある。知行は世襲される。

 純粋なレーエン封建制は、首長権力が行政幹部の忠誠心に強く依存しているため、不安定である。近代では、「首長すなわち官僚制的行政」が封建的行政幹部に勝利した。

 

 フリュンデ封建制は、イスラム圏およびインドで典型的である。秩禄つまり年貢の専有がその特徴である。行政幹部の役割は徴税請負が主である。

 

 この2つの封建制は、実際には互いに混交している。

 すべての支配に共通するのは、「威信」の信仰である。

 歴史は、首長と行政幹部の不断の闘争の繰り返しである。

 

 

 7 カリスマの没支配的意味転換

 カリスマは被支配者たちからの承認によって成り立つが、この立場がやがて逆転するようになる。

 

 ――そうなると、固有カリスマの力によって正当とされた首長は、被支配者たちの恩寵によって首長になるわけで、被支配者たちは、かれを自由気ままに選挙し、任命し、ばあいによっては罷免することさえあるわけである。

 

 この過渡的な形は人民投票的支配である(ナポレオンやナポレオン三世)。

 この形態は、被支配者たちの自由な信任から支配の正当性を引き出す手段となる。

 人民投票的支配を含む指導者民主制の例としてフランス革命政権やクロムウェルが挙げられている。

 

 ――なお、一般に、指導者によせる献身と信頼といった自然の情緒的性格は、指導者民主制に特徴的なのであって、非日常的な人物、大風呂敷を広げる者、もっとも強烈に刺激手段を弄する者を指導者にみたててこれにしたがおうとする傾向は、そこに由来するのが普通である。

 [つづく]

 

権力と支配 (講談社学術文庫)

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