日本の司法の問題は消極的である点である。
本来、司法は市民にとって「簡便」な政治や社会を変えていく制度である。しかし現状では、裁判所が守ろうとしているのが政治行政のしくみなのか、裁判所の権威なのか、裁判官のキャリアなのかは不明である。
裁判官は多忙でありまた転勤族のため地域社会から孤立しがちである。
裁判所は国民の権利を守る砦だが、その内部において裁判官は最高裁判所事務総局からの厳しい統制を受けている。
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憲法における裁判官についての条項や、裁判所法の主要な部分はGHQが日本側の要求を退けて制定したものである。
戦後の裁判所は、戦前の司法省による官僚統制を廃し、裁判官個々の自立を図ることに主眼を置いた。このため裁判所の運営(人事、財務、規則等)は最高裁裁判所会議による合議により決定されると法律で定められた。
しかし、最高裁事務総局がつくられ、事務総長や人事幹部ら行政官が裁判所運営の権限を掌握することによりGHQの当初の方針は歪められた。
裁判所組織は裁判部門と司法行政部門からなる。最高裁の司法行政部門は最高裁裁判官会議によって担われるが、この補助及び補佐機関が最高裁事務総局である。
戦後、裁判所は司法権の独立を守るために「戦前期の司法省に代わる独自の司法官僚機構を必要とした」。
1957年までには、事務総局による人事権が確立した。
――……現実には、最高裁事務総局を頂点として高裁―地裁の事務局にいたる階級統制的な司法行政機構ができあがっている。そして、最高裁裁判官会議はもとより高裁、地裁の裁判官会議も、実質的に司法行政機構によって「支配」されているといってよいだろう。下級裁判所である高裁長官、地裁所長は、最高裁事務総局による上意下達システムの重要ポジションであり、そのかぎりで所属の裁判官や職員にたいして指揮命令権をもっているといってよい。
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司法官僚は最高裁長官、最高裁事務総局、高裁長官、地裁所長からなる。かれらは裁判官の中のエリートであり、司法修習生の時代から目をかけられて登用される。
その選考過程は不透明だが、傾向としては頭がよく、素直で、上司に従順な者が多いという。
最高裁長官になるものはほとんどが判事補任官後、局付といわれる役職に就き、その後事務総局での勤務や高裁長官、最高裁判事等を経て長官に任命される。最高裁長官の指名は、前任者によって行われるのが慣例である。
事務総局長、調査官等も、類似の司法官僚キャリアをたどる。
日本の裁判官は、立法府のつくる法律を字義通り適用し、先例に厳格にしたがうことを期待されている。官僚制の下、先例踏襲、「訓練された無能力」が広まり、判決は現実の秩序維持に力点を置くものとなる。
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司法官僚による支配の実態はいかなるものか。
事務総局は人事権を握っており、過去、政治団体から脱会しなかった判事を再任させなかったことがある(判事は10年を1任期とする)。また、内部制度として人事評価があり、上司からの評価に基づいて昇級、昇任、異動等の計画がつくられる。
制度改革により評価制度も自由記載となったが、逆に非公式の情報収集を人事側が行っていることが明らかである。
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司法改革の提言。
官僚的な人事権の集中を廃止し、分権化、合議体制の復活を図る。
事務総局による一極支配ではなく、裁判官会議を再興する。
裁判所情報公開法を改革し、市民に対して情報公開を行う。あわせて司法への市民の参加を進める。現在の裁判員制度では不完全である。
◆メモ
裁判所は国の機関の1つである。よって、裁判所からの天の声が、あらゆる問題を都合よく解決してくれるだろうと期待するのは困難である。
裁判所が統治者に刃向かうことはないだろう。